【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

文字の大きさ
40 / 42
第三章 これが最後

16、

しおりを挟む
 
 殺してやるわ!

 ミリスの血を吐くような──実際吐いているが──叫びが部屋にこだまする。もう民衆も、両親に兄も去り、残ったのは私に祖父に弟とベントス様。そしてメルビアス。
 全員がミリスの叫びを耳にする。聞いて、そして何も言わない。

 シンと静まりかえった室内に、次に響いたのは「はあ……」という、私の溜め息だった。

「それは壮大な計画ね、ミリス」

 壮大で矮小。ちっぽけな、くだらない野望。それを一笑に付す。クスリと笑えば、ギリと私の背中にミリスの爪が食い込んだ。まだこんな力があるなんて、大したものだわ。

「覚悟しなさいよ……!」
「いいえ」

 いいえ、覚悟するのはあなたよ。
 言外にそう言って、私はスッと体を離した。ミリスと向かい合う。もう彼女の顔色は紙のようだ。いつ死んでもおかしくない、気力でなんとか意識を保っていると言えるだろう。

「言ったでしょう? 特別な、とっても難しい時魔法だって」
「?」
「両親や兄様にかけた時魔法は、私自身のとあまり変わらないから簡単なんだけどね……ミリスにかけるのは難しいやつなの。習得するのに苦労したのよ?」

 だから存分に楽しんでね。
 そう言って、私は彼女のオデコをツンと突いた。それでおしまい。ミリスへの魔法はこれでおしまい。

「なにを……」
「この特別な時魔法は、戻る時間を指定できるのよ」
「え?」

 意味が分からないと、死にかけの頭を必死で動かそうとするミリスに、私はニコリと微笑んで説明してあげる。

「戻る時間を指定できる、つまり何年前のいついつの時間に戻る、と指定できるの。これ本当に難しいのよ、魔力ほとんど使っちゃうから、この後私、しばらく動けなくなっちゃうかも」
「時間を指定……?」
「そう。あなたが死んだら戻る時間を、指定したのよ」
「い、いつに……?」
「そんなの分かるでしょ?」

 もう一度ニコッと微笑めば、不安そうなミリスの目が飛び込んで来た。ああ、その目が見たかったのよ。

「いい目ね、不安と恐怖に染まる色をしているわ。ミリス、本当のあなたをみんなは醜いと言うけれど、私はそうは思わない。だってほら、恐怖に染まったあなたの顔はとっても美しいもの」

 きっと私はウットリ恍惚とした顔をしてるだろう。ミリスの瞳に映る私が見える。
 ツツ……とミリスの頬を撫でればバシッと払いのけられてしまった。

「いいから答えなさいよ! いつよ、いつの時間に私を……」

 戻すつもりなの!? 叫ぼうとして、喉にせり上がった血が阻む。大量の血を吐いて、ミリスは足元から崩れ落ちた。
 仰向けに横たわる彼女の顔の横に跪き、その顔を覗き込む。ギロリと睨んでくるが、もう手足は動かせないようだ。

「だから分かるでしょう?」

 言って、ツンと刺さったままの短刀を突いた。

「まさか……」
「ええ、そのまさかよ。あなたを刺した瞬間、あなたの死が確定するその瞬間を指定したの」
「な……」

 本来の時魔法ならば、私のように人生の分岐点に戻る。これは予想だが、私が生まれる前には戻らないようなので、両親が時戻りをして私という子供を作らない、ということは出来ない。
 あくまで私が存在する世界……彼らに時魔法をかけた私の居る過去の世界へと戻る。
 そして無数の並行世界を彼らは生きるのだ。

 だが、ミリスには時間を指定した。それは彼女の死が確定するその瞬間。

「良かったわねえミリス、時が戻ったら既に剣があなたの胸に刺さってるの。何度も何度も、戻っては延々と死の瞬間を味わえる」
「ま、待って……」

 動かぬ義妹の手をギュッと握る。もうその手は氷のように冷たく、なんら反応はない。構わず私は握りしめた。

「戻っても戻っても、あなたは運命に抗えない。死という運命を変えることはできない。死が確定した瞬間に戻り、そして死んで、また死の直前に戻る。何度も何度も……永遠に。永遠の死のループを味わいなさい」

 チャンスなど与えない。生きる希望は欠片も与えない。

「私のこと、悪女と言ったわよね?」

 徐々に光を失う目。ミリスの耳元に唇を近づけて、囁くように私は言う。

「それは正解よ、ミリス。私はあなたと同じ悪女。最悪の魔法使い……魔女。あなたを地獄に叩き落とすために産まれたの」

 だから、ね?
 姉から妹へ贈る最後の言葉。
 受け取って頂戴。

 虚ろな目が私を見る。
 ニコリと優しく微笑んで、私は耳元に囁いた。

「苦しめ」
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。 夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。 ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。 一方夫のランスロットは……。 作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。 ご都合主義です。 以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...