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第一章 【殺人鬼】
13、
しおりを挟む仕方なしとばかりに、ドラ男は毎日夜の町、サルビに出かける。さすがに馬車なんて面倒なので、馬での通いだ。
そして夜通し情報収集や見回りをする。いつしか自警団とも仲良くなり、見回りも効率が良くなってきたとの報告をして、ドラ男は昼に眠りにつく。そしてまた、夜に起きて行動する。
なんだかんだでよく働くドラ男は、素直なやつなのだ。
だが犯人も警備が強化されているのに気付き警戒しているのか、はたまた気分ではないだけなのか、次の犯行は一週間経っても半月が過ぎても起こらなかった。
その間、伯爵は何度か町長の屋敷を訪問する。行きたくないが、ザカエル犯人説を唱える身としては、何もしないわけにもいかないと、渋々だ。
自警団も警戒し、町の住民も深夜に出歩かなくなった。酒屋は早々に店じまいし、サルビの町の夜はとても静かになった。
そうして、あっという間に次の満月の日がやって来る。
「やれやれ、またか」
と言いつつも、伯爵は楽し気だ。恋人ディアナお勧めの本は読み終わったし、なにより現実は小説より奇なり、な状況が楽しくて仕方ない。まるで探偵気分だが、相変わらず推理はなんの裏付けも無いトンチンカン。
伯爵の様子に呆れるモンドー少年は、けれど口出しもしない。狼少年は鼻が利く。その気になれば犯人なんて簡単に見つかるのにそう命じない伯爵の性格の悪さを、けれど少年は悪いとも思わない。
伯爵は自由人だから。長く生きる自分達にとって、娯楽は必要だからと言い訳をして、結局は伯爵の好きにさせる。
理解あるディアナとモンドーが、伯爵は大好きだ。そこに俺は入らないのかとドラ男が嘆く。
「さて、今夜も肩透かしか、それとも……」
言って伯爵はベッドに潜りこんだ。窓の外には既に大きな満月が輝いている。
みるみるうちにベッド上のシルエットは小さくなり、モンドー少年が布をめくれば、そこには立派なドクロ。
「やあドクロ伯爵」
「どうも、ウルフ・モンドー」
いつもの言葉の交わし合いを終えて、ドクロ伯爵はいつも通りに窓辺に置かれた。
「今夜も集会かい?」
伯爵の問いに、正面に回ったモンドーは首を横に振った。
「今夜は無いよ」
「そうか、それは良かった」
キミが居れば何かあった時、百人力だからね。そう言って口を閉じる。閉じる唇、ないけれど。
フウと小さく息を吐き、ドクロ伯爵は同じく無い目を閉じた。
「さて、今宵はどんな夢が見れるかな」
それは夢ではない。けれどドクロ伯爵にとっては夢のような世界。
テーブルの上にチョコネンと鎮座するドクロは、今宵もまた広い世界を旅する夢を見るのだ。
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