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26、王がアホで悪役令嬢は頭が痛いです
しおりを挟む「公爵令嬢アンナシェリ!今この時をもって王太子ベルシュとの婚約を解消する!そして新たに伯爵令嬢であり聖女ミサキを王太子の婚約者とする!」
しーんと静まり返る会場。
なぜこんな事になったのか。
事の始まりは数時間前に遡る。
今夜は先日届いた招待状『聖女お披露目パーティ』当日だ。
会場には案の定、高位で独身の貴族令息が多くを占めていたが。
私同様に、彼らを婚約者とする令嬢もまた、会場に呼ばれていた。
誰もが聖女お披露目などただの名目に過ぎないことは理解している。これはお見合いだ。聖女一人と数多の貴族令息たちのための──聖女のお眼鏡に適う者がいれば、即刻その者の婚約を取りやめて聖女と婚約させるための場。
いくら国王命令とはいえ、あまりに横暴な行為に誰もが唇を噛む。
パーティを楽しむものなど一人もいなかった。
聖女本人を除いては。
「んっふふ~あったしは聖女、せっいじょ♪だ~れもあったしに逆らえな~い♪さってさってだぁれをえっらぼっかな~♪」
およそ聖女らしからぬ──というか大問題な歌を歌いながら、着飾ったぶりっ子は会場を練り歩いていた。
誰もが遠巻きにして彼女から距離をとってる事に気付かずに。
誰もが選ばれたくないと思ってる事を理解せずに。
キョロキョロと見渡すぶりっ子聖女から目線をそらす人々。それはもういっそ滑稽だった。
会場の隅で小さくなってるぶりっ子の義両親がなんだか気の毒だ。
この場で国王とぶりっ子以外にパーティを楽しんでる者など居なかった。
国王の横に座る王妃は憮然と仏頂面。背後の家臣もみな同様。
この国の転覆は近いのかもしれない。
そう思った時だった。
「アンナシェリ嬢」
名前を呼ばれて振り返った。ぶりっ子は男子にしか興味はなく、令嬢たちはただ壁の一部となって互いにこの状況を皮肉る会話をするしかなかった。
そんな私に声をかける者など居ないと思っていたのだけれど。
そうか、居たね。この状況を気にしない立場の人が。
「あらゾルゼンス様、こんばんは」
「こんばんは。……今宵の茶番はまた一段と酷いね」
大魔法使いゾルゼンスの言葉に苦笑が漏れる。彼は何者にも縛られる事はない。彼を縛り付けることなど不可能だから。かといって他国に移られても困る──敵に回すと厄介だから。だからこそ、国は彼には強く言えない。もしぶりっ子聖女が彼を夫にと望んでも、彼だけは唯一問題なく辞退出来る存在であろう。
だからこんなパーティに来る必要も無いはずなのに。
「そうですね……どうして参加されたのですか?」
「大した理由は無いよ。ただ面白そうだったから」
彼らしい理由に笑ってしまった。
「というより、君も参加してると思ったからね。ドレス姿の君を見たいと思ったんだ」
「まあ嬉しい」
フフフ、と令嬢らしい外面で答える。私も一応令嬢らしい振る舞いできるんですよ、念のため言っておきますけど。あんまり素を隠せてないですけど。
ふふふ、あはは、と意味不明に笑い合ってたら、グイと腕を引かれた。うーん、あんまり分かりたくないけど誰か分かってしまう。
ゾルゼンスと話してると現れるあの人だね。
「ベルシュ様」
「こんばんは、ゾルゼンス殿。私の婚約者に何か用かな?」
「友達に挨拶していただけさ。何か問題でも?」
「挨拶ねえ……」
何その含み笑い。
今度はベルシュ様とゾルゼンスで謎の笑い合いをしてる。なんか怖いんですけど。
ちょっと遠巻きに二人を見ていた私は気付かなかった。私達の様子をぶりっ子が見ていた事を。国王やテリス王子に何かを話しかけてる事を。私は知らなくて。
そうして。
それまで不気味に黙って会場の様子を見ていた国王が、突如すっくと立ちあがったのだ。
それだけで会場は静まりかえる。腐っても国王、腐りすぎてるけどそこは王。皆が黙って発言を待った。
「みなよく来てくれた、今宵は知っての通り遂にこの国に現れた聖女の披露目である。聖女ミサキと挨拶は交わしたか?少し話せばその人柄、聖女たる高貴なるオーラを感じたことと思う」
オーラ……?????
多分みんな頭に疑問符が浮かんだことと思います。分かるよ、私も浮かんだから。
男漁りに眼を血走らせてる女のどこにオーラを感じろというのか。王の目、腐ってんじゃない?まあ腐ってる王ですから。
とも思ってることだろう。私が思ってるから。
そんな会場中の心の声など聞こえないボケた王はベラベラと、ま~よくしゃべる!
聖女とはいかに素晴らしいか!
国にとって聖女はどれだけ必要な存在か!
聖女がいれば国は安泰!
聖女最高!聖女バンザイ!
会場中が「アホか」という思いに包まれた空気の中で、ようやく王は一息ついた。
そしてグルリと見回して。
「聖女ミサキ、こちらへ」
ぶりっ子を呼んだ。
全員が嫌な予感に包まれた瞬間だった──
「公爵令嬢アンナシェリ!今この時をもって王太子ベルシュとの婚約を解消する!そして新たに伯爵令嬢であり聖女ミサキを王太子の婚約者とする!」
そうして冒頭のセリフが王の口から発せられたのである。
「は?」
不敬でごめんよ。でもそれしか言えない。
は?だよね。本当に、は?だわ。
え、この流れでいきなりそれ?
え、婚約解消というか婚約破棄イベントって王太子達の卒業パーティで起きるんだよね?
え、なんでこの場で?
え、え、え、が尽きない!
まあ考えずとも分かる、完全なる原作の強制力が働いたのだ。
どうにもこうにもヒロインが──ぶりっ子聖女がもてない事に原作という名の神が業を煮やしたってところだろうか。ならぶりっ子の性格をどうにかしろよ。酷すぎて矯正不可能ってか、なんてこったい!
そうか~ここで来たか~卒業パーティまであと1ヶ月あるとか思ってたんだけどなあ。
呆けながらも頭の中がフル回転。
そんな私に王指さし。差すな、指を!まったく、ぶりっ子といい王といい……!
そうして王は更に宣言した。
ついに、述べた──私がずっと覚悟していた言葉を。
「アンナシェリよ、お主は自身の立場を利用して悪行を数多行っておったな、全て聖女から聞いておる!そのような者はこの国に相応しくない!貴様は投獄のうえ、斬首の刑と処す!この国を支える聖女を虐げたのだ、覚悟いたせ!」
断罪の言葉を!
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