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46、悪役令嬢と聖女-2
しおりを挟むそういえば、前世でも今世でも女子会というものをしたこと無かったなあ。
ふと思い出したのは、側にいるのが一応の女子だったからだろうか。
前世は友達なんて碌にいなかった。
今世では令嬢という立場が許さなかった。
シンディは親友だけど、お茶会を女子会と言って良いものかどうか……。まあ色々開けっ広げな話をしてはいたから、あれも女子会と言えばそうなのかもしれない。でも一応は令嬢としての体を崩さないものだったから。
やはりお茶会であって女子会ではなかったと言えるだろう。
そうして大きな寝台にゴロゴロしてると、足がぶつかった。
「ちょっと、もう少しそっち詰めなさいよ」
「何言ってんのよ、あんたが詰めなさいよ」
何がどうしてこうなった。
客間だってある。
飛んで帰れば神殿なんてあっという間でもある。
なのになぜか。
「──何やっとんじゃい」
「いや、秘密の日記とかエロ本とか無いの?」
「あるかーい!!!!」
私は夢見る乙女か男子高校生か!
「ち、つまんないわね」
「つまんなくて悪かったな、帰れ」
なぜだ。
なぜ私はぶりっ子と共に同じ寝所で寝っ転がってるんだ!
おかしいだろ!?
と言う私の反論は父には届かなかった。
『アンナちゃん、最近退屈そうにしてたじゃない?せっかく仮にも一応多分おそらくの聖女が来たんだから、ね?』
いやもう全然聖女として信用してないでしょ?
ジトリと父を睨んだけど、どこ吹く風。
この野郎、この前の一件が終わった時に私が締め上げた事を根に持ってるわね!?
あの日。
魔族が襲来し~の魔王が来た~のの大変な時に、私を放ってとっとと帰った恨みは既に晴らしてある。勿論兄にも。母と姉にも報告したので、結構痛い目に遭ったことだろう。
その恨みか!?
だから客室が今準備出来てなくって~という言い訳と共に、ぶりっ子を私の部屋に泊まらせることになってるのか!?
ここは悪役令嬢らしく追い出してやればいいのだろうが。
どうせ普通に飛んで神殿帰るだけだし。
なんか最近、神官達が泣いてる事が多いとか聞かされたので、ちょっと休ませてあげたいと思ったり。まあこのぶりっ子の御守はさぞや大変だろう。
そんなわけで渋々私の部屋に泊めることとなった。
せめてソファか床で寝ろよ。
嫌なら私がそっちで寝るわ!
そうだ、そうすればいいんだ。なんせソファも大きくて極上のクッション性能を持っているのだ。私は枕とブランケットを持って移動しようとして。
グンッと引っ張られる抵抗を感じて、動けずにいた。
見ると、私のナイトウェアを握る手が。
「なに」
「えーっと」
眉を潜めてぶりっ子を見る。が、言い淀んで視線をはずすくせに手は放さない。
「放してよ。私はソファで寝るんだから」
「ちょ、ちょっとだけ!」
なんだ?
何がちょっとだけなんだ?
益々眉を寄せると、意を決したようにぶりっ子が私を見てきた。
「ちょっとだけ……あっちの世界の話、しない?」
「あたしさあ……あっちの世界、あんまり好きじゃなかったのよねえ」
あっちの世界。
それはつまりあれだろう、この乙女ゲームを作った世界。日本。
ぶりっ子は、その世界を懐かしむように。
目を細めて語り始めた。
「別に親兄弟に虐待されてたわけじゃなかったし?むしろ仲良かったし?友達も普通にいて楽しかったんだけどさあ」
そりゃまた。
友達居るだけ私より恵まれてたと思いますよ。家族仲も希薄だった記憶がある私としては羨ましい話だ。幸運にも今世では仲いいけど。
「なんか、自分の居場所はここじゃない感があったのよねえ」
何をしてても、そんな冷めた感情があったんだとか。
それはつまりあれか。
「中二病か」
「うぐ……」
図星か。
色々空想してたってか。まあ女子には特に多いと思いますけどね。私もそうだったし。
「だ、だからさ、この世界に来ちゃったときに、ああここが私の居場所なんだって。なんかストンと納得しちゃったのよねえ」
「ふ~ん」
ぶりミサキが一体何を言いたいのか分からず。私は気のない返事をする。それに不満を漏らすでもなく、ミサキは静かにベッドサイドランプを見つめていた。
「最初はさすがに不安で寂しいとか思ってた。知らない人たちの養女になったりもしてさ」
まあ確かに。
聖女候補としてちゃんとした保護者が必要とはいえ、いきなり見知らぬ家に住むなんて不安しかないよね。
「だからさ、学園に入って。なんか乙女ゲーみたいだなって思って。ならイケメンゲットするしかないと思ったのよ」
「なんでじゃい」
そこ分かんない。ごめん理解できない。話飛びすぎでない?
「まあまあ、いいじゃない」
「まあまあじゃねーわ」
ホント、お前の思考は理解出来んわ。
だけど何となく。
聞いてほしかったんだろうな、本当の心の内を。けれどあっちの世界の話なんて誰にも出来るわけもなく。転生者の私にしか理解できない事だ。それでも私は転生者であって、確かにこの世界の住人だから。
異世界人となるミサキの真の気持ちなんて理解出来ないのだろうけど。
──だからってイケメン漁りは駄目だろう。
「まあ……だからさ」
「何よ」
「嬉しかったってこと」
「はあ?」
ほの暗い明かりではミサキの表情はちゃんと読み取れない。けれど、きっと赤くなってるのが予想された。
そしてミサキはポツリと呟いたのだった。
「あっちの世界の話が出来るあんたが居て。馬鹿みたいに大騒ぎ出来て」
「はあ」
何を言いたいのかよく分からず首を傾げてると。
「あんたと会えて良かった、ってこと!」
ニカッと。
馬鹿みたいに明るい笑顔で。
ミサキはそう言ったのだった。
※ ※ ※
チチチ、チュンチュン……
ベタな朝の表現に、目を覚ます。
「朝か……」
ボーッと働かない頭で窓の外を見やった。
カーテンを閉めていてもなお、室内を照らす光は眩しいくらいだ。もうすっかり日が高くなってるのだろう。
夕べ遅くまでぶりっ子と話をしてたのを徐々に思い出す。いつの間にか眠っていたらしい。
ベッドから身を起こし、ふと横を見る。
「ぶりミサキ?」
居ない。
既に起きて帰ったのだろうか?
おそらくそうなんだろう。言いたいこと言って黙って帰るとか、一体何なのだ。
相変わらずの自己チューめ。
頭をポリポリ掻きながら、私は今度会ったらどんな技をかけてやろうかと考えながら起きるのだった。
その日を境に
聖女ミサキはこの世界から姿を消す事となる────
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