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番外編-恋愛end~ケアミスver.(7)

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※筆者注※
ギャグ無いです、シリアスです
===============


 
 
「────!!」

 何かが聞こえる。

「──ナシェリ!!」

 聞き覚えがあるような、無いような。

「アンナシェリ!!」

 それはハッキリと。

 ずっと聞いていたいと思っていた。その声は、私にはとても優しく甘いものだった。

「アンナシェリ!目を開けろ!」

 名前を呼ばれるたびに、くすぐったいと感じていたのはいつからだったか。

 けれど私はその呼びかけに答える事が出来ずにいた。

 聞こえているのに。
 確かに聞こえてはいるのに。

 体が動かない。
 手も……指一本すら、動かせない。
 目を開ける事も。

 もう、何も出来ない。

 呼吸も、もう──

 不思議と痛みは無かった。けれど。それはつまり、終わりを意味してるのかもしれない。

 死ぬんだろうか。
 私はここで。
 ケアミスの腕に抱かれて。

 ──それもいいのかもしれない。

 この気持ちはきっと許されないものだから。だからそうと気付かずに蓋をしようとしていた。逃げようとしていた。

 けれどやっぱり隠せないものなんだ。

 そばに居る事が叶わないのならば、いっそ──

「死ぬな、アンナシェリ!──くそ!」
「ちょっとケアミス、何するのよ!?」
「お前の治癒魔法でもどうにもならないというのなら、この方法しかあるまい!」
「ちょ!えええ!?」

 ブシュッと不可解な音がして。
 ズッ……と何かをすする音。

 そして。




フワリ




 唇に感じる、柔らかい感触。
 その正体を考える間もなく、何かが口の中に流し込まれるのが分かった。

 何かは分からないけど。
 分からないけど、分かる。
 最後の力を振り絞って、これを飲み込まないと駄目だって事が!




コクン




 感覚の無い肉体ではその何かがちゃんと入ったのか分からないけれど。喉を上下させる事が出来たのか分からなかったけれど。

 そうでなくても体内に入るしかないのだ、それは。

 だっていつまで経っても、唇に触れたそれは離れなかったから。

 いつまでも。
 いつまでも私の口を塞いでいる、その何か。

 私の口中を動き回るそれは、柔らかくて温かくて気持ちよくて……。




ん?




 柔らかい。
 温かい。
 確かに感じるそれ。

 体を抱きしめられてる感触に。
 後頭部に回されてる手。

 全てを感じる?

 さっきまでは感覚も無くなっていたというのに、どうした事かそれらが分かるようになってるのだ。

 試しにと指先に力を入れてみると。
 ピクリと動いた。

「!!」

 動く?体が動く?というか、なんだか体が──熱い?

「────かはっ!」
「アンナシェリ!?」

 苦しくなって思わずその温もりを押しやれば。ケアミスの驚いた声が聞こえた。

 でも私は今、それどころじゃなかった!
 だって、だって……なんだか体が変だから!

「あっつ!」
「アンナ!?」
「体が!あっつい!!!!」

 燃えるように熱い!なんなんだこれは、体が物凄く熱い!

 あまりに苦しくて何かに縋りたくて手を伸ばしたら、その手を掴まれた。

 カッと目を見開けば、そこには──

「ケアミス……?」
「大丈夫だ、アンナ。すぐに体に馴染む。少し苦しいが、それも一瞬だから」

 何が馴染むと言うんだろう?何を言ってるんだろう?
 でも不思議と私の体は落ち着いてきた。ケアミスに抱きしめられて。安心するように。

 まだ体は熱いけれど、不思議な安心感に身を委ねる。

「私は……」
「大丈夫だ、もう大丈夫だから」

 だから、今はおやすみ。

 そう言われて、額に口づけを落とされた直後。

 私の意識は闇に呑まれるのだった。




※ ※ ※




 昏々と眠り続けるアンナを、大事そうに愛しそうに見つめて。優しく抱き上げるケアミス。

 いわゆるお姫様抱っこってやつね。

「ケアミス……アンナは……」
「お前の考えてる通りだ」
「そうなの……」
「私は屋敷に帰ってアンナをベッドで休ませる。お前はどうする?」

 チラリと横目で見られてしまえば肩を竦めるしかない。

 背後には、半死半生の冒険者達が横たわっていた。全員意識は失ってはいるが、かろうじて生きている。

 本当にかろうじてってとこが恐いけど。

 あの時。
 ケアミスに駆け寄るアンナを、彼らがどう思ったのか。
 魔族に与する裏切者か魔女とでも捉えたのか。

 とにかく、その攻撃は確実にアンナを捉え、そしてその胸を貫いた。

 それは致命傷に近くて、死が直前にあったアンナは私の治癒魔法も効かない状態だった。

 どうしたらいいのかとオロオロしてたら、ブチぎれて冒険者たちを半殺しにしたケアミスが駆け寄ってきた。

 そして、彼は自身の腕を傷つけて、その血をすすり。
 迷わずアンナに口移しで飲ませたのだ。

 それが何を意味する行為なのか、知らないはずなのに……私には分かってしまった。

 それはケアミスの命を分け与える行為。全ての魔族にそんなことができるのか分からないけれど。ケアミスには出来るのだ。
 人より丈夫な体をもつ魔族の血を分け与えられた人間は──同じく魔族となる。

 ケアミスの血を飲んだアンナは、驚愕する私の目の前で一瞬にして傷が塞がっていった。
 そして「熱い!」と叫んで開いたその目は──血のように赤くなっていた。

 おそらくは、魔族への変貌の瞬間。それを私は見たのだろう。

 アンナはアンナであって、アンナでは無くなったという事か。

 胸に飛来するこの複雑な感情の意味を理解する事は出来ない。

 考えるだけ無駄と感じた私は、大きな溜め息を一つついて。

 冒険者達を治癒するべく背後を振り返る。

 それを見ていたケアミスは、そのまま無言で飛び去って行った。
 その様を、私は見ることはしなかった──



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