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番外編-恋愛end~ケアミスver.(8)
しおりを挟む右手見て~。
左手見て~。
腕を見て。足を見て。
ペロッと服をめくってお腹見て。
「──何やってんの、あんた」
「うわ!ビックリしたあ!!」
下着に手をかけたところで声がかかったので、体がビクッとなった。
部屋の扉に目を向けなくても声で分かる。誰が入ってきたのかを。
「ちょっとぶりミサキ!部屋に入るならノックしてよね!」
「したわよ!返事しないから何かあったのかと思ったじゃないの!」
え、ノックしたの?
「嘘おん。そんな礼儀知ってたの?」
「あんた私を何だと思ってんの?礼節の国、日本の女よ」
まあそこは否定しないであげよう。私も元はそうだし。
「アンナは転生する時に礼節置いてきたの?」
「うるへー!」
ふざけんなよ貴様!
ムカついたので、ソファーにあったクッションを投げつけてやった。
それが見事にぶりっ子の顔にクリーンヒット!けけ、ざまあ!
「っにすんのよ!」
「ぼへ!」
ボスンと見事に返却された!クッションでも当たると鼻が痛いのね!
いたた……と鼻をさすってたら、ミサキが近づいてきた。
そしてクイッと私の顎を持ち上げる。やだイケメン!
「キスは後でね」
「するか!体調チェックしてんのよ!」
「たいちょーツチノコ発見しました~」
「タイチョウ違いじゃ!ってもうちょっと黙れお前ぇぇ!!」
お前とか言われた!
「あんたいっつも私の事をお前って言ってるじゃない」
「え、そうだっけか?」
「無意識か」
「お前が馬鹿なことばっか言ってるからだろ」
「絶対わざと言ってるわよね、それ!?」
相変わらずグダグダで話が進まない私達。
いつになったら本題入るのかと思ってるうちに、コンコンとドアをノックする音。
見れば開いたままの扉を手の甲でコンコンしたままの仕草の……。
「あ、ケアミス」
「ケッアミッス様ぁぁ~ん!」
私が名前を呼ぶのと同時に。
ぶりっ子が私の顎から乱暴に手を放して、ケアミスに駆け寄る。おのれ貴様あぁ!
転べばいいのに!
そう思った瞬間だった。
「ぶべば!?」
いい声出して、ぶりっ子がその場に転んだのは。
「さすがぶりミサキ。何も無い所でコケるとか、無駄に器用!」
「あだだだ……って、あんたの仕業でしょ、アンナぁ!!」
鼻を赤くしてミサキが怒鳴るけど、私は口笛を吹いて明後日の方向を見るのだった。
そんな私に歯軋りするミサキ。
「おのれええ……魔族になったかと思えば、しょうもない能力手に入れやがって!」
「ふふん、何とでも言え!これは天から授かりし力!神が与えたもうた能力なのよ!」
サラッと出た会話だけど……そう、もうお分かりだとは思いますが。
わたくし。元悪役令嬢で公爵令嬢だったアンナシェリは。
見事に!
魔族になりましたー!!
なんかねえ。冒険者に胸を貫かれるとかいう、なかなかにハードな結末を迎えた我が人生。
そこで人としての命は見事に終わりまして、なぜかそのまま魔族に移行したという。
これからハードでロックな魔生が待ってるようです。
「なによ、魔生って」
「いや、人じゃなくなったなら人生じゃなくて魔生かなあと」
「すんなり受け入れてるわねえ」
呆れたように言われたが、別にすんなりじゃないんだけどね。
正直言えばビックリしたし、もう人間界に戻れないんだな~って、家族に会えないの寂しいとも思う。
でも別に嫌じゃないんだよね。それが一番ビックリしてる。
あ、魔族になっちゃったの?そうかそうか。てなもんだ。
「魔性の女……いや、小悪魔か?」
「アホか」
「アホと言うやつがアホなんです~」
「ガキか!」
「長寿の魔族にしてみれば、私なんて赤ん坊よ!」
「バブ~?」
「バブバブ~」
どうしてだろう。ぶりっ子と居ると馬鹿が止まらない。馬鹿の二乗なのか。
その時だった。
大きな咳払いが聞こえたのは。
「あ、ごめんごめんケアミス」
すっかり忘れてたわ!
そう言えば苦笑しかないと言った感じで、複雑な顔をされてしまった。
「んじゃ、あらためて……ケアミス様ぁ~ん!」
めげないなあ!
ぶりっ子は立ち上がり、再びケアミスの元へ!
「ミサキよ、我も居るぞ」
「あ、そいじゃそういうことで!バイナラ!」
あと少しでケアミスの胸に!というところで。
ヒョコっと魔王がケアミスの横から現れた途端、華麗に回れ右して、部屋の奥へとミサキは猛ダッシュ!
大きな窓をバンッと開いて、勢いよくそこから飛び立つのだった。
「なんだミサキ、鬼ごっこか?待て~コイツ~!という恋人同士のキャッキャウフフか!?」
おおおおおおおおい!!!!
誰だよ、魔王に更なる馬鹿な知識を教えたの!?
呆気にとられてる私の横を走り抜けて。
魔王はミサキが出て行った窓に、大きな体をバキバキぶつけながら出ていくのだった。ちょっと壊さないでよ、隙間風が入るじゃない!
「いいいやあああああ!!!!」
なんかミサキの悲鳴が聞こえたような気がするんだけど。
──まあいいか。
私はすぐに思考からぶりっ子の存在を消し去って。
テーブルに置かれた紅茶をすするのだった。
そんな私の横にどっかと座る存在が一人。言わずと知れたケアミスである。
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