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第三章〜滅ぼされた村
2、
しおりを挟むしばらく村の跡地で立ち尽くしていたが、そんなことをしていても腹は減る。
「とにかくここでの物資調達は駄目になった。早く移動して次の村へ向かうぞ」
そう二人に話しかけた時だった。
「魔族だ!」
声が上がり、何かが飛んでくるのが見えた。それがエリンに当たる直前、伸ばした俺の手がそれを掴む。手を開いて見れば、それは石だった。
「おい、危ないだろ!」
バッと振り返って見れば、戸惑いの色を浮かべた子供が立っている。シャティアと同じか少し下くらいの男のガキが二人。
「危ないのは魔族のほうだろ!」ガキが叫ぶ。
「なんで魔族なんかと一緒にいるんだよ! お前ら魔族の手下か!?」
「ちげーよ」
「じゃあなんで一緒にいるんだ!」
魔王を倒したところで、そう簡単に人間と魔族が和解できるはずもない。ましてや、魔族に酷い目に遭ったならなおのこと。
「魔族はここを……俺達の村を滅ぼしたんだぞ!」
「それはいつのことだ?」
「五年前だよ!」
「そうか……」
つまり、この村は魔王の死後に滅んだということ。子供の言葉が本当ならば、元凶は魔王を崇拝していた魔族の残党といったところか。
「お前ら、村の生き残りか?」
俺の問いに、ガキが二人揃って頷く。
「そうか」
村そのものは滅んで住めなくなったが、生存者がいたことに安堵する。
俺は二人に近づいた。
「く、来るな、悪者!」
「わる……俺は別に悪者じゃねえよ」
「だって魔族と一緒にいるじゃないか!」
「こいつはいい魔族だ」
「魔族にいいやつなんていない!」
相手は子供だ。村を滅ぼされ魔族を恨んでいる子供に、理解しろとは思わない。そこはエリンも分かっているのだろう、沈痛な面持ちで黙っている。
そうさ、相手は子供、なにも分からない……分からないまま相手を平然と傷つける存在なのだ。
だから俺ら大人がそれを正さねばならないのだ。
未来のために……人と、魔族の未来のために。
「来るなってば! 刺すぞ!」
無遠慮に近づく俺に恐怖を感じたのか、不意に子供の一人が短剣を取り出した。おいおい、なんつー物騒なもんを子供に持たせるんだよ。……いや、彼らにとってはそれが当然なのかもしれない。魔族に酷い目に遭わされて、不用心でいられるはずもないのだろう。
そのことがわずかに俺の胸を痛める。視界の隅で、心配そうに俺を見つめるシャティアが見えた。
大丈夫だと安心させるように微笑んでから、またガキどもに向き直り、ザッと手の届く距離に立つ。
「く、来るな! 刺すからな、本気だからな!」
「刺してみろよ」
怯える目で……震える手で短剣を握る子供を見下ろして、俺は無表情で言う。その気迫に、子供はビクリと体を震わせた。ズイと更に俺は距離を縮める。
短剣の切っ先が、俺の腹部に当たる。
「ほら」
「う……」
促す俺を見て、青ざめる子供。直後、カランと音を立てて、短剣が地面に落ちた。それを俺が拾い……
ザクッ
音に体を震わせて、子供二人は腰を抜かして地面にへたり込んだ。
二人の前には、地面に深々と突き刺さった短剣。
「覚悟がないなら、剣を持つな」
そう言うと同時。
「う……うわあああ~~~~~ん!!!!」
ガキが二人して、勢いよく泣き出したのであった。
「あーあ、泣かした」
「え」
「パパ、さいてー」
「ええ!?」
今のは、「レオンかっこいい!」とか「パパ素敵!」とかいうセリフが出る場面じゃね!?
久々にシリアスしたのに、それはないんじゃないの!?
ショックを受ける俺の前で、ガキ二人はずっと泣き続けている。
「なんだよ、うるせえなあ」
またも新たな声がしたのは、その時だった。
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