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第三章〜滅ぼされた村
7、
しおりを挟む「なあカズア」
「ん?」
「あの二人が、ザッシュとモンドリーか?」
言って、魔族の遺体の向こう側に立つ二人を指さした。いつの間に移動したのだろう、彼らはシャティアとは正反対の場所に立っている。
「は?」
俺の言葉に応えるように、指さす方向を見るカズア。と、子供二人を目にした瞬間、その体が震えた。
「そんな……まさか……」
体同様に声も震えている。
「カズア?」
「まさか。有りえない。なんで、なんで……!」
「なんだどうした、あの二人がザッシュとモンドリーじゃないのか?」
それは問いではない。やはりと脳裏の片隅で思って、口にするのは確認のための言葉。
カズアが頷き、確認が確信に変わる。
「そうか。やっぱりな……」
俺に剣を向けてきた子供達は、カズアが言うところの『この村出身夫婦の子供』ではない。
では彼らは誰なのか?
なぜここにいる?
なぜ十年前に滅んだ村なのに、五年前だなんて言っている?
俺には答えが分からない。だがカズアの様子を見て、彼なら知っていると確信した。明らかにカズアは、彼らが何者なのか知っている風だから。
「あの子供達、誰か知っているのか?」
驚愕に目を見張り、体を震わせ汗を流すカズアを見る子供達は無表情。ただ黙ってカズアを見ている。
「あれは、あれは……」
ゴクリと喉を上下させて、落ち着かせるように一度深呼吸。それから汗を拭って、カズアは言った。
「あれは……俺、だ」
「は?」
「あの右の、ちっこいほう。あれが俺なんだよ」
「いや何言ってんのお前」
思わずお前呼ばわりすれば、ポカリと頭を殴られた。いやゴメンて。
「あれはガキの頃の俺なんだよ! 40年前……かつて住んでいた村が滅んで……それくらいの時期の俺だ!!」
叫んでカズアは「信じられねえ」と呟いた。信じられないのは俺のほうだ。
「あれが? あの子供が? ガキの頃のあんただって?」
「あ、ああそうだ」
「それは嘘だろ」
思わずカズアの薄くなった頭頂部を見たら、また殴られた。「お前今俺の髪の量を見ただろ!?」と。バレたか。
「あのなあ、さすがにあの年齢でハゲているわけないだろ! 俺だってふっさふっさの頃があったっつーの!」
「ふっさふっさか」
「そうだ、ふっさふっさだ!」
「そうかふっさふっさか!」
「そうだ!!」
「時の流れは悲しいな!」
「うるせえ!」
調子に乗ったらまた殴られました。痛い。
冗談はさておき。
「で。あそこに子供の頃のあんたが居ると。つまり今俺の目の前にいるあんたは、幽霊ってことか」
「なんでだよ。普通に考えてあっちが幽霊だろ」
「幽霊ってことは、あんた死んでるってことになるぞ」
「え、あ、ホントだ! え、俺死んでる!?」
別にからかっているわけではない、この会話はマジと書いて真剣と読むものである。
だがまあ、非現実的なことが起これば人は軽くパニックになって、正常な思考が働かないもんなんだよなあ。
冗談はさておき(二回目)、現実に引き戻してやらないとな。
「冗談だよ。あんたは生きている、俺が保証する」
「そ、そうか、そうだよな、俺生きてるよな」
俺の言葉に脱力するカズア。いかつい顔して単純と言うかなんというか。
「でも生きているあんたが居るのに、なんであっちに子供の幽霊が? 幽体離脱?」
「幽体離脱って俺が起きているのに、なるものなのか?」
「いや俺、僧侶じゃないんで」
僧侶エタルシアならなんか分かるかもしれないが、俺にそんな知識はない。
分からんと答えれば、明らかに呆れた顔をされた。なんだよ。
とか言っていたら、ふと気付く。
子供は二人、一人はガキのカズア。
ならばもう一人は?
「なあ」
「なんだよ!」
「怒んなよ。マジな話に戻すが、あのもう一人の子供は誰だ?」
俺の言葉にハッとなるカズア。子供な自分に気を取られて、完全に視界に入っていなかったらしい。
マジマジともう一人を見るカズア。と、不意にその子供がニコリと微笑んだ。
瞬間、横でカズアが息を呑む。
「アッシュ……」
「ん? 誰?」
「この村を滅ぼされた時に、唯一死亡したのが、幼馴染一家だって言っただろ」
「ああそうだったな」
一瞬、その時に亡くなった幼馴染夫婦の子供二人かと思ったが、一人がカズアなら違うのだろう。
話の先を促せば、「あれは」とカズアが唇を震わせる。
「あれは俺の幼馴染……アッシュ、だ」
「え。亡くなった幼馴染?」
「そうだ」
パッと振り向けば、栗色の髪を揺らして、少年がこちらへと近付いてきた。その後ろをついて来るのは、ガキのカズアだ。
動けないでいる俺達の前まで来たアッシュと呼ばれた少年は、俺達の顔を見上げてまた微笑んだ。
「久しぶりだね、カズア」
「俺が分かるのか?」
「分かるよ。だってずっと一緒にいただろう?」
言って笑う少年は、もう少年ではない。気付けば体は大きくなり、すっかり大人な姿に変わった。
子供の頃の面影をどこか残した、栗色の髪を持った男性。それは少しカズアより若くて……おそらくは、10年前に亡くなった時の姿。
「なんで……」カズアの問いに、「なんでだろうね」とアッシュが答える。
「気付いたら、ここに居たんだ。記憶はついさっきまで完全に忘れていたよ。俺は子供の俺で……常に一緒にいるお前が、やっぱり一緒に居て当然だと思っていた」
そう言って、アッシュは手を握った。未だ子供の姿のままの、カズアと。
子供なカズアは、無言のまま大人の姿になったアッシュを見上げている。
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