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第三章〜滅ぼされた村
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モミアゲから顎まで繋がったヒゲを生やした、白髪混じりのオッサンが静かにそう言った。
「ごめんな、村を救えなくて」
俺の謝罪に、カズアは黙って首を横に振る。「しょうがねえよ」と言ったのは、本音だろう。
「あいつが笑ってくれた。それで十分だ」
そう言って、薄い頭髪が覆う頭をカズアは撫でた。
「スッカスカだな」
言ったら「うっせえ! しんみり気分が台無しだ!」と怒って殴られた。俺を殴って、カズアは豪快に笑うのだった。
それからカズアが住む町まで案内してもらった。徒歩二時間の距離は、馬に乗ればあっという間。
「なにが悲しくてオッサンと二人で馬に……」
とぼやくのは、白馬なエリンにはシャティアだけが乗り、オッサンは俺と一緒の馬だから。
エリンに俺も乗せてくれと頼んだのだが、カズアの「俺、馬になんて乗れねえぞ」の一言で終わった。背中に当たるゴツゴツした胸筋と、後頭部に当たるジョリジョリなヒゲの感触は、できることなら一瞬で忘れたい。できることなら寝るまでに! 確実に悪夢見るから!
「じゃあな、勇者さんよ。色々ありがとな」
最後にもう一度礼を言って、カズアは去って行った。別れはアッサリしたもの。だがカズアの顔は、どこかスッキリとしていて、清々しいものだった。
旅は一期一会。また会うかもしれないし、二度と会わないかもしれない。その背を見やってから、俺らは教えてもらった宿屋へ直行した。
飯を食べて部屋でくつろぎ、さてと荷物の整理に入る。明日は物資の補給だなと要る物リストを作っていたら、不意に扉が開いた。見れば枕を持ったシャティアが立っている。
「どうした、寝ないのか?」
時刻は夜。大人は酒を飲み、子供はとうに眠る時間だ。
首をかしげる俺に、シャティアがおずおずと「一緒に寝てもいい?」と聞いて来た。ちなみにエリンは馬の姿をしているので、宿屋併設の厩である。
「なんだよ、恐いのか?」
からかうように言えば、「別に」と返って来る。だってのに、そのままシャティアは部屋に入って来て、俺のベッドにいそいそと潜り込むではないか。
「九歳にになって、お化けが恐いのかよ」
「恐くないもん! ただ部屋のベッドが、ちょっと寝心地悪いから……」
苦しい言い訳してくる様に笑って、シーツをかけてやる。
「本当に恐くなんかないからね!?」
「分かった分かった。早く寝ろ」
言って、ポンと頭に手を当てれば、ホッとした顔で目を閉じるシャティア。が、すぐにその目は開く。
「ねえパパ」
「んー?」
二人きりの時くらいは許してやろうと、パパ呼びを敢えて注意せずに返事をすれば、ギュッと手を握られた。
「あの子たちとね、少しだけ遊んだの」
「そうか」
「楽しかった」
「そうか」
「お友達っていいね」
「……そうだな」
「でも……お別れは、寂しいね」
「そうだな」
今、シャティアは旅をしている。旅先でいくら友達を作ろうとも、その先にあるのは別れだ。
同年代と遊ぶということに不慣れなこともあり、苦手意識があるのか、行く先々で子供に会ってもロクに話そうともしないシャティア。その彼女が幽霊とはいえ、子供と遊んだのは、かなりの成長と言えよう。
だがやっぱりその先にあった別れに、少し寂し気な顔をする。
「友達を作るのは恐いか?」
「うん……」
「友達、いらないか?」
その問いにはすぐに答えない。
しばし考え込むように目を閉じてから、目を開いて俺を見上げるシャティアは、「ううん」と首を振った。
「私、お友達が欲しい」
「そうか」
「たとえ別れが待っているとしても……思いは残る」
「そうだな」
カズアとアッシュの絆に、随分影響受けたなと苦笑する。それでもいい兆候だと思う。心の成長ってやつだな。
「できるといいな、友達」
「うん!」
元気よく返事して笑うシャティアの頭を、もう一度撫でて。「もう寝ろ」と告げれば、今度は素直に目を閉じた。
繋がれた手は離されることはなく、買い物リストはまた後で作成だなと、苦笑して窓の外を見上げた。
空にはポッカリと満月が浮かんでおり、どこかで狼の遠吠えが聞こえた気がした。
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