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第四章〜戦士の村
7、
しおりを挟む白髪交じりの赤髪の巨漢が、地面に寝そべってボリボリと腹を掻く。
それからムニャムニャ言いながら「う~ん、筋肉……」とか言っていたら、どうすべきか。
「このド阿呆!!!!」
正解は怒鳴って頭殴って、水をぶっかける、でした。
いや俺はやってないよ? やったのはガジマルドの奥さんであるササラ。
だから
「──ハッ!! 何しやがる、このセクハラ勇者が!!」
とか言って、寝起き早々俺の首を絞めるのはやめていただけますか。とんだ飛び火。
「っと。なんだササラか。どうしたんだ?」
空になったバケツを持っているササラに気付いて、パッと俺から手を放すガジマルド。まずは俺に謝れ。
「──なんだこの状況は……」
しかし俺への謝罪をする気配もなく、周囲を見渡してガジマルドは眉を潜めた。
それもそのはず、あちこちで魔物の死骸が転がっているのだから。あ、勿論9割以上は俺が仕留めたよ。一応村人も善戦してたが、俺がいなかったら危なかっただろう。
「というわけで俺に感謝しろ」
「ササラ、これは一体どういうことだ。説明してくれ」
気持ちいいほどの無視な! いいけどよ!
ガジマルドとの関係なんて、昔からこんなもんだ。戦闘ばかりの日々で、いちいち感謝してたらキリがない。でもさあ、たまには礼を言って欲しいと思うのよ僕ちんとしては。
ササラに事情を説明されて、ようやく理解が追い付いたガジマルドに、俺はもう一度「俺に感謝しろ!」とドヤ顔してみた。結果は頬をビンタされて終わるという結末だったがな。
「なんで殴んだよ!?」
「るせえ! お前がいながらなにアリーとシャティアを簡単にさらわれてやがる!」
「気絶して戦力外だったお前が言うな!」
この言葉はかなり効果ありだったようだ。ウグッと言葉に詰まるガジマルド。更にササラの「本当にね。この役立たず亭主」がトドメとなった。
暗雲立ち込める顔で分かりやすく落ち込む巨漢が出来上がりました。ウザイ。
「とりあえず、助けに行くぞ。相手の城とやらに一週間以内に助けに行かにゃ、二人がヤバイ。実際はもっと早くに行かないとヤバイ気がするから。とにかく急ぐぞ、準備しろ」
人間落ち込んだ時に立ち直るためには、何かしら作業に没頭するのが良い。そんなわけで、落ち込んでいる暇はないとガジマルドにはっぱをかける。
「どこにだよ」
俺の気遣いを無視して、まるで死人のような顔で聞いて来た。恐いからイッた目で見んな。
「どこって?」
「相手の城って……その女魔族の城ってどこにあんだよ」
「え。お前知らないの?」
「知るわけないだろうが! 俺はそんな女魔族が、ずっとこの村を狙っていたことすら知らなかったっての!」
「マジかよ」
これは明らかに想定外。てっきりガジマルドが知っていると思ったのに。いきなりつまづいてしまったではないか。
「どどど、どうしよう?」
「俺に聞くな! くっそお、一人くらい魔物生きてないか!?」
なるほど。生きているやつがいたら、城まで案内させられれるわな。
が、しかし、生きている魔物は一体も居なかった。
「……うん、やっぱ俺って最強ってことで」
「ばっかやろおおおお!!!!」
俺の強さが仇になった。とは口が裂けても言わん。俺はただ村人を守るために頑張っただけでい!
それはガジマルドにも分かっているのだろう。さすがに俺を責めはしないが、「バカ」呼ばわりされるのは結局責めているのではなかろうか。いいけどさ。
「さてどうしよう」
「どうすんだよお」
40代の白髪交じりのオッサン二人。額突き合わせてどうすんべと考え込む。が、知らないものは知らないのだ、どうしようもないではないか。さて困った。
とその時だった。
「あのう……」
「エリン?」
見れば白馬が側に立っていた。そういやエリン、馬のままだったな、忘れてたわ。
「うお!? 馬がしゃべった!」
エリンを紹介する間もなく、次から次へと事件が起きた結果、しゃべる馬に驚くガジマルドが出来上がった。
「お前知らないのかよ。今どきの馬はしゃべれるんだぞ」
「マジで!?」
「んなことも知らないのかよ、常識だぞ。おっくれってる~」
「そ、そうなのか……」
頑張った俺を労ってくれないのだ、これくらいのからかいは許されるだろう。
ププッと笑っていたら、目の前でエリンが白馬から魔族の姿へと変化した。
「うげ、グロテスク……」
「まあ途中経過は見ないに限るな」
初見にはショックが大きい変身シーンを終えて、エリンがモジモジしながら言った。
「私、あの魔族の城、多分知っていると思うんだ」
「え」
ギョッとする俺らの視線に、困ったように顔を赤らめるエリン。なんで。
どうやらあまり注目されることに慣れていないらしい。
モジモジちゃんは、おずおずと言った。
「城まで案内しようか?」
その提案に否やがあろうか。
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