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第四章〜戦士の村
12、
しおりを挟む俺は走る、ひたすら走る。二手に分断されてもなお広い城の中を、ひたすら走っていた。
「うおおお、矢の嵐ー!!!!」
壁から天井から、雨のように矢が降り注ぐ廊下を、顔を真っ赤にさせて走り抜ける。脇には黒犬ビータンを抱えて。あの女、確実に俺をやりに来てるぜ!
「うおっし、抜けたあ!」
いくら歳くったからって、この程度でやれると思われるのは心外。だてにクワかついで畑を耕してないぜ! あれ、見た目以上に重労働なんよ。敬え、農家のオジサン!
ズザザ……とスライディングでもって廊下を通り抜けた俺は、一つの扉の前に立っていた。
「うーん、どっから見ても、罠」
右にも左にも扉も通路もなくて、後ろは今通って来た矢の道。となれば、進路は目の前の扉しかないわけだが。
「こんな御大層にでかく立派な扉、なんかあるに決まってるよなあ」
むしろ何もないと思うほうがおかしい。
戻って別のルートを探しても良いのだが。いくらなんでもこの城の住人があの矢の雨を通るとは思えないので、どこかに隠し部屋があるだろう。それが一番の安全ルートなわけだが。
「時間が惜しい。男は黙って一本ルート!」
よく分からんことを叫んで、バンッと扉を開けた。
バンッ!!
開けて閉めた。
「……よし、見なかったことにしよう」
男だって寄り道くらいするさ。
なんて思った俺は、今見たものを忘れようと矢の道に戻ろうとした。
だが、世の中そんなに甘くない。
閉じた背後の扉から、大きな衝撃を感じて、俺は咄嗟にビータンを抱えて横に飛んだ。
ズウウン……と重たい音を残して、扉は壊れて倒れた。
「はは、こりゃすげえや……」
魔王討伐の旅では何度か出くわしたそれ。
だが魔王を倒してからこれまで会うことはなかったそれ。
僧侶エタルシアも、魔法使いハリミも居ない。
俺の背を預けられるガジマルドも今は別行動。
そんな状況でやれるか?
「やれるやれないの問題じゃねえよなあ……」
やるしかないか、と俺は剣を手にニヤリと笑った。
(ピンチの時こそ笑え!)
そう言ったのは誰だったかなんて、もう忘れた。
だがその言葉を忘れたことは一度とてない。それこそが俺を無敵の勇者に育て上げた礎なのだから。
「やってやらあ。かかってこいやあ!!!!」
俺の気合い一発な叫びと同じくして。
ブオオオオオオ……!!!!
ビリビリと空気を震わせる叫び声を、そいつは上げた。
ビータンと同じようでいて、それ以上に深い黒。
黒い鱗を身にまとった黒龍は、大地を揺るがす咆哮を上げて俺を睨んだ。
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