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第四章〜戦士の村
14、
しおりを挟むたったの30分? いやいや、よく考えてみてくれ。
狭い室内で必死に逃げまどってたんだ。それを30分だぞ、30分! もう必死のパッチよ。え、必死のパッチてなんだって? それはまあなんだ……つまりは死に物狂いってことなんだ。
そんな中での30分は長い。本当に長くてキツイ。
しかし大物同士の戦いは、決まる時は一瞬だ。
黒龍の炎攻撃に一瞬怯んだビータン、隙を見逃さない黒龍。一気に口を開けて噛みつきと鋭い爪攻撃を繰り出して来た。勝利の確信があるのだろう、それは随分と大振りで雑な動きに見えた。
それこそがビータンの狙いだったのだろう。狼さながらの俊敏さでその攻撃を避けたビータンは、次の瞬間巨大なモッフモフな尻尾を黒龍の顔面にヒット。怯んだ黒龍の首元をガッと咥えてそのままブンと振って、黒龍の体は浮かび地面に倒れた。顎の力、強っ!
倒れた黒龍の上に乗って押さえ込んだビータン。キリッとした勝利のポーズがカッコイイ!
「お見事」
思わず言えば、なんだか得意げな顔をされた。
良かった、お前も手伝えよ的な怒りを向けられたらどうしようかと思った。下手に手出ししないほうがいいと思ったんだけど、伝わったか。
そおっとドラゴンへと近付けば、ビータンに組み伏せられたままで、まだ息がある。致命傷ではないからね、そりゃ生きているだろう。
「さて、お前をどうしようかね」
殺すのは簡単だ。勇者の剣、もとい女神の剣であれば、黒龍の鱗でも簡単にブスッといける。
だが本当に殺しておしまいでいいのだろうか? 魔物なんて所詮知能が低い獣同然。こんな狭い城内に閉じ込められ、魔族の言いなりになって戦わされて……負けたら殺される。
それって、なんだか凄く可哀想じゃないか?
獣だって人だって、閉じ込められるのも、いいように使われるのも嫌だ。
この黒龍がどれほどの期間、ここに閉じ込められていたのかは知らない。だが外の世界に戻ることなく生涯を終えるのは……俺だったら嫌だ。
グルル……と唸り声を上げる黒龍に、俺は話しかけた。
「外に出たいか?」
ピクリと体が反応する。
「出たいなら、逆らうな。大人しくするなら俺が外に出してやる」
魔物の中には人語を解する者とそうでない者がいる。黒龍は知能が高い種族だ、だからこそ魔族にいいように使われるのだが。
案の定、黒龍は唸るのをやめて目だけを動かし俺を見つめて来た。俺の言葉を理解している証拠だ。そしてその金の目は、何かを思案する光を宿す。察するに、俺の言葉の真意を探っているのだろう。
嘘か本当か。
人間なんかを信じていいのか。
でも外には出たい。
葛藤ってやつだな。
俺はしゃがみ込んで、大きな黒龍の顔を覗き込んだ。暴れてもギリギリ俺に牙が届かない距離で。
「俺は娘二人を助けにこの城にやって来ただけだ。目的さえ果たせば他に用はない。俺達の邪魔をしないなら、お前さんを含めこの城内の魔物には手出ししない。それどころか、終わったら外に出してやる」
「ぐる……」
「どうやってって? なに簡単さ、あの女魔族を倒しゃいいんだ。娘二人を助けるにはそうなるだろうからな。そしたらお前は自由、そうだろ?」
「……」
「俺に倒せるのかって? そうか、お前は知らないか。俺はこんなオッサンだが、一応勇者……元勇者だ。魔王を倒した、な」
魔王のところで、黒龍の目が大きく見開いた。こんなところに閉じ込められていては、外の世界の情報には疎くなるだろう。高貴なるブラックドラゴンが気の毒に。
「魔王が死んだってことは、なんとなく感じているんだろ? どうする、俺を信じるか? それとも信じないでヤケクソに歯向かって俺に殺されるか?」
言って立ち上がり、俺はスラリと剣を抜いてその刃先を黒龍へと向けた。
「どうする?」
腐っても、歳をとっても俺は勇者。馬鹿なことばっか言ってても、魔王を倒した勇者なんだ。
そのオーラはまだ出ている。そして黒龍はそれに気づかぬ愚鈍ではない。
フッと、黒龍がまとう殺気が薄れて消えた。
直後……「おお」……と、思わず声を漏らす俺の前で、その巨大な体は徐々に縮む。気付けば、チョコネンと小さくなった黒龍が俺の目の前に座っていた。
「ビータンといい、お前さんら、大きさ自由自在なんだなあ」
すげえや、と言えば、黒龍がなんだか得意げな顔をしている気がした。
……というわけで、黒龍が(一時的だが)仲間になった。
黒狼と黒龍、凄い魔物(正確にはビータンは魔族だけどな)二匹を従えて、なんだか俺もモンスターテイマーになった気分。
「このまま世界の魔物を手懐けちゃうかあ!?」
嘘です、冗談です。
だから「誰がお前なんかに従うか!」とか言いながら俺の尻噛むのやめてビータン。痛い。
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