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第四章〜戦士の村
15、
しおりを挟む黒龍を仲間にし、ビータンに尻を噛まれた後は、特に問題なく進んだ。なにせ城内最強(らしい)黒龍を従えているのだ、他の魔物が邪魔するはずもない。
「……にしても、やけにモフモフしてんのが多いな」
城内を進む過程でそれなりの数の魔物を目にしたが、共通して毛が多い。抜け毛の季節とか大変そうだなと思ったが「魔物に換毛期なんてない」とビータンが言ったので、そりゃ便利だなと感心。ていうか、ビータン急に話すようになったな。魔物……いや、魔族の成長は早い? さようで。
「モフモフが多いのは女魔族の趣味かねえ。てことは、ビータンもこの城に迎えてもらえるんじゃないのか?」
「ビータンは魔族だから従わない」
「そういうもんか?」
魔族が従えるのはあくまで魔物。魔族は魔族を従えない。魔王は例外ってことか。
「まおー様はみんなが勝手に付いて行っただけ」
「なるほどねえ」
逆に言えば、エリンのように付いて行きたくないやつは、従わないと。
「ここの城主は、魔王に好んで付き従ってたのか?」
問う相手は黒龍だ。小さくなった黒龍は俺の横で優雅に飛んでいる。バサバサとか言わせないのな。こうスイーッと飛ぶ感じ。でかいドラゴンしか戦ったこと無いから、小さいタイプの動きは初めて見た。
俺の問いに黒龍は反応しない。俺の言葉を解してはいるが、そこは魔物。言葉を話すことはできないし、俺の言葉に返す義理もないと。
「おーい」
呼びかけても答えない。
「……お前、モフモフじゃないからあそこの部屋に入れられてたのか?」
ピクッと体が震えた。お、どうやら図星のようだな。
調子に乗って言ってみた。
「そうかそうか。つまりお前は女魔族に嫌われていたんだな?」
言って後悔。
「うあっちい! 尻を燃やすな!!」
図星が過ぎて怒りを買った俺は、尻に火をつけながら、「ヒイヒイ」言って走るのだった。
「ごめんて! 悪ノリがすぎた、謝るからもう燃やすな!」
言っても聞かない黒龍は、俺の背後からボオボオ火を近づけてくる。
俺は猛ダッシュで逃げる。
足元では、いつの間にか黒狼の姿に戻ったビータンが、呆れ顔でついて来ていた。
「うおおおお! オッサン猛ダッシュー!!!!」
腰にくるわ! と叫んだところで目の前に大きな扉があったので、考える余裕もなく思いきりバンと開けて飛び込んだ。勢いのままゴロゴロと床に転がって、結果としてケツの火は消えた。
「よっしゃあ、消化成功!」
尻から煙を上げて立ち上がる40代のオッサンが一人。これほどガッツポーズが決まらない状況があろうか。
「……なにやっとんじゃお前らは」
呆れ声がかかっても仕方ないと思うのです。
苦笑まじりに声のしたほうを見て、俺はそこに目当ての人物を見つけるのだった。
「なんだ、もうゴールか」
「……騒々しい奴らだねえ」
長い足でもってスックと立ち、腰に手を当てて俺を見つめる存在。
それは紛れもなく、シャティア達をさらった女魔族だった。
青い髪と瞳、妖艶な笑みを浮かべたそいつは人間のようでいて、その尻から鞭のようにしなる尻尾を生やしている時点で人間ではない。クネクネと動くその選択は鋭く尖っている。油断すればブスッとくるやつだな。
「娘を返してもらおうか」
背後に鉄格子を確認して俺は言った。その中には、シャティアとアリー。あとなんか複数モフモフが見えるけど、なんなのあれ。モフモフに気持ちよさそうに埋もれていた二人が、俺の姿を見て慌てて格子に駆け寄って来た。ガシャンと鉄格子が音を立てて揺れる。
「パパ!」
「レオン!」
とりあえず元気そうで何より。怪我も多分してなさそうな二人は、俺の顔を見て安堵の笑みを浮かべた。
「よ、待たせたな。もうちょっと待ってろよ二人とも。今すぐそっから出してやっから」
手を挙げてニヤリと笑う俺。きまった。
まあ服が綺麗に燃えて丸出しになった尻は、けして見せられんがな。
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