別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール

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 伯爵令嬢として生をうけて17年。一年前の16歳の時に、とても驚いた事があった。
 幼少時からの婚約者であるサルボス侯爵令息から、突然婚約破棄を言い渡されたのである。

『他に好きな奴ができた』

 それだけ。その一言だけで終わりという、実に呆気ないものだった。
 呆気ないとは言っても、当時はそれなりに傷ついたものだ。だが一年も経てば、時が癒してくれるというもの。
 今はもう未練も何もなく、清々しい気持ちで学園生活を謳歌してたのだけれど……。

 まさか人生最大級の驚きが、二度もあるとは思いもしなかった。
 何があったのか、それはまたもサルボスに関係すること。
 そう、今目の前にいる奴の事である。

 私も彼も、同じ貴族の為の学園に通っている。学年も同じなのだから、学園内で何度も会ってしまうのは致し方ないことだろう。
 けれど婚約破棄がなされてからこれまで、サルボスが私に話しかけた事は一度も無かった。
 ──ずっと彼のそばには、一人の女性が居たから。
 男爵令嬢だったかな?随分たくさんの殿方と親し気にしてる、奔放な子だなという印象があったけれど……そういえば彼女の姿が見えないな。

 どうしたんだろう?と首を傾げていると、腰に手を当てたサルボスが、フフンと鼻で笑って来た。いやだ気持ちわる……コホン、なんでもないない。

「サルボス様?わたくしその先に用があるのですが。退いていただけませんか?」

 サルボスが邪魔で通れないのだが、彼の背に続く廊下は図書室につながっている。今日は借りてた本を返して、新しいものを探そうと思っていたところなのに。なのに行く手を阻むかのように、私の前に立ちふさがるサルボス。
 ……早くしないと昼休みが終わってしまうんだけど。

 立場上、強引に押しのけて通るわけにもいかない。立場が無ければ張り倒して進むのだが、いかんせん立場が許さない。
 困ってその顔を見れば、また鼻で笑われた。一体何がしたいのか……。

「エリス」
「はい」
「……やはりな」
「?」

 会話が成り立たない。一体何が『やはり』なのだろう。意味が分からず首を傾げていれば、ニヤリと笑うサルボス。不気味な笑みを浮かべたまま、ふんぞり返って口を開いた。

「お前、まだ俺のことが好きなんだろう?」
「は???」

 未だかつて、これほどの疑問符が頭に浮かんだ事があろうか。
 突然現れたかと思えば行く手を阻み、理解不能な言葉を述べる。彼は一体何を言ってるのか……

「仰ってる意味が分かりません」
「そのままの意味だ。お前、俺に未練があるな?」
「ありません」
「嘘をつくな、俺には分かる。お前が俺を見る目は恋する目だ!」

何が『俺には分かる』なのだろう。
呆れて、開いた口がふさがらない。……はしたないので、すぐに閉じたけど。

「そうだとは思っていたがやはりな」

 うんうんと頷き腕を組んで、一人納得するサルボス。

「仕方ない、そんなに俺のことが好きなら、もう一度婚約してやっても良いぞ!?」
「結構です」

 即答である。
 唐突すぎる意味不明な発言に、私は即答で拒絶した。話はこれで終わりとばかりに、私は一応頭を下げてサルボスの横を通り過ぎようとしたのだが……またしても阻まれた。
 眼前にニュッと出て来る腕。その腕へし折ってやろうか。

「待て、どこへ行く!」
「っ!痛いですサルボス様、放してください!」

 不穏な事を考えていたら、突然私の腕を掴むサルボス。それがかなりの力を込めてだったので、思わず悲鳴が漏れた。
 涙目になって痛みを訴えるも、その力が緩む事はない。

「明日の休日にお前の家に行くから待ってろ!もう一度婚約の手続きをする!」
「え……」

 言いたいことは言った、という風にバッとサルボスの手が離れた。そしてドカドカと荒々しい足音と共に、サルボスは去って行った。
 その背中を呆然と見送った私には

「なんなの……」

 と呟くことしか出来ないのだった。
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