25 / 37
25、
「無礼は承知の上でございます、罰は全てが終わりましたら受けます!お嬢様、問題が生じました!」
かなり焦った様子で早口にまくしたてるマイヤ。が、これまで培われたメイドの経験ゆえか、ヘンリー様に頭を下げる様は礼を保っていた。
主の部屋にノックも無しに乱入なんて普通なら大問題だ。だが、罰だなんて有り得ない。マイヤがこれほどまでに慌ててるのだ、かなりの問題なのだろう。
慌てて立ち上がった私は、勢いのままマイヤに付いて行きそうになる。
そして思い出す、愛しく大切な存在を。
突然の事に目を丸くしてるヘンリー様を見て。
無言で急かすマイヤを見て。
私は深々とヘンリー様に頭を下げるのだった。
「申し訳ありません、ヘンリー様。私、急用が出来てしまいました!この埋め合わせは後日、必ず……!」
「あ、ああ。気にしないで……」
戸惑いつつも言って下さったその言葉に、もう一度深々と頭を下げて。
私は部屋を後にする。
いや、後にしようとした。
だが。
「あ、アデラ待って」
急がねばならないというのに、呼び止められると立ち止まってしまうのが、恋に夢中の悲しい性よ。
私は思わず足を止めて振り返る。
と、視界一杯に青を認めて──
「──」
「──」
それは一瞬のようで、永遠のような……。
けれどそれは唐突に終わりを告げる。
離れる温もり。
「行ってらっしゃい、アデラ」
その言葉に背中を押されて、私は足をどうにか動かして部屋を後にした。
ドクンドクンと心臓が煩い。
これからの事を考えるため冷静にならなければいけないのに。
触れた唇が、とても熱かった──
※ ※ ※
「ベントル村で暴動です!」
「暴動!?」
部屋を出て開口一番、マイヤはそう叫んで私の腕を引くのだった。
「村からの使いの者が来ておりますので、詳しい話はその者から聞いてください」
「え、ええ……!」
ベントル村……ここ数カ月、日照り続きで干ばつ問題が起きている。その中でも最も被害状況が酷いと聞いていた。
近々視察に行くつもりで居たのだけれど(10話参照)、バタバタしてたせいで未だ行けないでいた。
結果の暴動。
完全なる私の失態だ。
浮かれていた。
好きな人が出来て、その人も私の事を好いてくれて。
婚約して幸せな日々を過ごしていた影で、苦しんでる人々が居る事を考えないでいた。
何たる愚かな失態か!
ギリと歯を食いしばったところで、事態は好転してはくれないのだ。
「直ぐにベントル村に向かいます。説明は道中で聞くわ。マイヤ、準備をお願い」
「かしこまりました」
指示をすればマイヤの行動は早い。すぐに準備に動く。
私は村の使いの者が居る部屋へと向かう。移動中にと言ったが、準備が整うまで聞く時間はあるのだ、少しでも話をと、足早に移動する。
が、目的の場所に着く前に、その足を止めた。止めざるをえなかったのだ。
「スザンナ邪魔よ、どきなさい」
「嫌です」
正確には目的の部屋の前。
そこにスザンナが立って居たのだ。
ニヤニヤと……見てると気分が悪くなりそうな、嫌らしい笑みを浮かべて。
眉宇を潜めるも相手をする時間も惜しいと、私は彼女を強引に押しのけて扉に手をかけた。
その時だった。
「私の言ったとおりになったでしょ?」
ピタリと手を止めた。
私はスザンナを見る。
何を言いたいのか、聞かずとも分かった。だから私はそれに反応はしない。代わりに……
「スザンナ、貴女も我が公爵家の娘ならそれらしい行動をしなさい。私はしばらく留守にします。その間の事は任せたわよ」
「んっふふ~。スザンナにお任せ☆」
その言い方とウインクにイラッときたが、今は問答する時間も惜しい。
「……暇ならお父様を呼んできて」
まがりなりにも公爵家当主だ。さすがに動いてもらわねば手が回らないというもの。
だが、私はまだ家族に何かを期待していたようだ。
──そんなもの、裏切られることしかなかったのに。
「あ、お父様は忙しいので無理ですって」
「は?」
「ですからあ、忙しいんです」
忙しいって……領地の問題より重要な案件があるというのだろうか?
だがスザンナはニヤニヤするだけで、それ以上は教えてくれなかった。
仕方ない、父は後回しだ。
私はそれ以上スザンナの相手をするのは無駄と思い、今度こそ扉を開けて入るのだった。
スザンナはそれを邪魔する事は無かった──
あなたにおすすめの小説
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
※表紙イラストは猫様からお借りしています。
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?