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しおりを挟む「無礼は承知の上でございます、罰は全てが終わりましたら受けます!お嬢様、問題が生じました!」
かなり焦った様子で早口にまくしたてるマイヤ。が、これまで培われたメイドの経験ゆえか、ヘンリー様に頭を下げる様は礼を保っていた。
主の部屋にノックも無しに乱入なんて普通なら大問題だ。だが、罰だなんて有り得ない。マイヤがこれほどまでに慌ててるのだ、かなりの問題なのだろう。
慌てて立ち上がった私は、勢いのままマイヤに付いて行きそうになる。
そして思い出す、愛しく大切な存在を。
突然の事に目を丸くしてるヘンリー様を見て。
無言で急かすマイヤを見て。
私は深々とヘンリー様に頭を下げるのだった。
「申し訳ありません、ヘンリー様。私、急用が出来てしまいました!この埋め合わせは後日、必ず……!」
「あ、ああ。気にしないで……」
戸惑いつつも言って下さったその言葉に、もう一度深々と頭を下げて。
私は部屋を後にする。
いや、後にしようとした。
だが。
「あ、アデラ待って」
急がねばならないというのに、呼び止められると立ち止まってしまうのが、恋に夢中の悲しい性よ。
私は思わず足を止めて振り返る。
と、視界一杯に青を認めて──
「──」
「──」
それは一瞬のようで、永遠のような……。
けれどそれは唐突に終わりを告げる。
離れる温もり。
「行ってらっしゃい、アデラ」
その言葉に背中を押されて、私は足をどうにか動かして部屋を後にした。
ドクンドクンと心臓が煩い。
これからの事を考えるため冷静にならなければいけないのに。
触れた唇が、とても熱かった──
※ ※ ※
「ベントル村で暴動です!」
「暴動!?」
部屋を出て開口一番、マイヤはそう叫んで私の腕を引くのだった。
「村からの使いの者が来ておりますので、詳しい話はその者から聞いてください」
「え、ええ……!」
ベントル村……ここ数カ月、日照り続きで干ばつ問題が起きている。その中でも最も被害状況が酷いと聞いていた。
近々視察に行くつもりで居たのだけれど(10話参照)、バタバタしてたせいで未だ行けないでいた。
結果の暴動。
完全なる私の失態だ。
浮かれていた。
好きな人が出来て、その人も私の事を好いてくれて。
婚約して幸せな日々を過ごしていた影で、苦しんでる人々が居る事を考えないでいた。
何たる愚かな失態か!
ギリと歯を食いしばったところで、事態は好転してはくれないのだ。
「直ぐにベントル村に向かいます。説明は道中で聞くわ。マイヤ、準備をお願い」
「かしこまりました」
指示をすればマイヤの行動は早い。すぐに準備に動く。
私は村の使いの者が居る部屋へと向かう。移動中にと言ったが、準備が整うまで聞く時間はあるのだ、少しでも話をと、足早に移動する。
が、目的の場所に着く前に、その足を止めた。止めざるをえなかったのだ。
「スザンナ邪魔よ、どきなさい」
「嫌です」
正確には目的の部屋の前。
そこにスザンナが立って居たのだ。
ニヤニヤと……見てると気分が悪くなりそうな、嫌らしい笑みを浮かべて。
眉宇を潜めるも相手をする時間も惜しいと、私は彼女を強引に押しのけて扉に手をかけた。
その時だった。
「私の言ったとおりになったでしょ?」
ピタリと手を止めた。
私はスザンナを見る。
何を言いたいのか、聞かずとも分かった。だから私はそれに反応はしない。代わりに……
「スザンナ、貴女も我が公爵家の娘ならそれらしい行動をしなさい。私はしばらく留守にします。その間の事は任せたわよ」
「んっふふ~。スザンナにお任せ☆」
その言い方とウインクにイラッときたが、今は問答する時間も惜しい。
「……暇ならお父様を呼んできて」
まがりなりにも公爵家当主だ。さすがに動いてもらわねば手が回らないというもの。
だが、私はまだ家族に何かを期待していたようだ。
──そんなもの、裏切られることしかなかったのに。
「あ、お父様は忙しいので無理ですって」
「は?」
「ですからあ、忙しいんです」
忙しいって……領地の問題より重要な案件があるというのだろうか?
だがスザンナはニヤニヤするだけで、それ以上は教えてくれなかった。
仕方ない、父は後回しだ。
私はそれ以上スザンナの相手をするのは無駄と思い、今度こそ扉を開けて入るのだった。
スザンナはそれを邪魔する事は無かった──
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