22 / 23
22、
視線を戻せば、涙を流しながら呆然とするロアラが目に入った。
「あ、あ……お父様、お母様……そんな……」
私はそんな彼女を眼下に見下ろす。
「可哀そうなロアラ、憐れな妹」
そう言えば、キッと射抜くような目を向けてきた。
「こ、の……魔女!よくも、よくも……!」
呪うような目だ。実際私を呪い殺したいくらいに憎いんだろう。
でも彼女は何か勘違いしてるようだ。その間違いを私は正してあげなければいけない。それが姉としての務め。
「ロアラ、よく考えなさい。どうしてこうなったと思う?全てはお父様の不義理が始まりかもしれない。それでも私は耐えた。貴方達の行いを必死に耐えたわ。けれど全てを破滅させたのは誰?破滅のキッカケを作ったのは誰?……貴女でしょ、ロアラ」
忘れてもらっては困るというもの。
私を魔女として追放したのはロアラとテルディスの策略によるものだ。
私は王太子妃として平穏に暮らせたらそれで良かったのに。
何もかもを私から奪おうとしたロアラが。
目先の欲しか見えなかったテルディスが。
元凶は彼らだという事を理解してるのだろうか。
「ふっざけんな!この糞女……!」
どうやら理解できてないようだ。
その台詞が、どれだけ私の、民衆の神経を逆なでするかを。全く分かってないロアラに、私は苦笑するしかない。
当然のように。
ロアラは民衆に囲まれた。
「この糞アマ!聖女様になんて口ききやがる!」
「そうだ、謝れ!」
「これ以上魔女様の逆鱗に触れるような事言ったら承知しないよ!」
「いや、この女はもう駄目だ。これ以上下手な事言って魔女様が滅亡を祈っちまったら取り返しがつかねえ」
完全に目が座ってる連中に囲まれて、流石のロアラの顔も青ざめる。
「な、何を……」
これから何が起こるのか。
その身に何が起きるのか。
分かっているのか居ないのか。
だが、その青ざめた顔が何かを察してる事を意味する。
ジリジリと血眼になった人々が近づくのに恐怖し。
「て、テルディス!」
救いを求めるのは、唯一同じ立場の存在。
だがそこにテルディスは居なかった。
そこには威厳も何もなくなった、ただの年老いた男──国王ただ一人。
それも民衆の怒りの矛先が向けられて、虫の息だ。
テルディスは!?と周囲に視線を巡らせるもその姿はどこにもなかった。
「ああそう言えば、テルディスは先ほどロープに繋がれた状態でどこかへ引きずられて行きましたよ。察するに市中引き回しといったところでしょうか」
民衆の叫びで聞こえてなかったようだが、ちょっと前に視界の隅にそれが見えたのを思い出した。
「──ひ!」
喉の奥から引きつるような悲鳴を上げて、ロアラはその場にへたり込んだ。
そしてようやく己の立場が理解出来たのだろう。
溢れる涙、そして涎。
「あ、ああ……助け……」
鋤や鍬に包丁、木の棒まで……各々用意できるギリギリ武器と呼べる物を持った、民衆を目の前にして。
ロアラが出来るのは、最後の望みへの懇願だけだった。
ロアラは血走った目で私を見上げた。ボロボロと涙しながら。
「助け……助けてお姉さま!私が悪かったわ、ごめんなさい、ごめんなさい!謝るから……だから助けてよお姉さま!」
数年とはいえ共に暮らした存在。
半分とは言え血を分けた妹。
それが涙ながらに助命を懇願する。
その様を見ても、私の胸には──
「凄いわ、何も感じない」
何の感情も生まれはしなかった。
可哀そうになんて思わない。
けれどいい気味とも思わない。
ただただ無、だ。
「ロアラ、私は貴女に何も感じないわ」
聖女の自分も。
魔女としての自分も。
「何も感じないということは、この世界に貴女は要らない存在だってことね」
不要な存在。
先ほどの両親同様に。
「貴女は要らないの、ロアラ」
だからさよなら。
最後の一言を告げると同時。
もう何も言えずに見開いた目を呆然と向けていたロアラ。
それに振り下ろされる鍬。
そして。
少しの騒動の後、静寂は訪れたのだ。
全てが終わった静寂が。
「ああ、終わった……そして始まるわ」
私の呟きと同時に。
ずっと黙って側に居てくれた存在が。
魔王スピニスが。
私をそっと抱きしめてくれた──
あなたにおすすめの小説
わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました
柚木ゆず
ファンタジー
より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。
「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」
現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。
青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。
婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。
王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。