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「結論から言うと、俺はミリアに一目惚れだった」
「ちょっと待ってください。結論、早いんですけど」

 そして理解出来ないんですけど!?

 一目惚れ!?
 一目惚れした相手にブスとか言ったの!?
 それ以前に大嫌いとか言ってなかったっけ!?

「照れくさくてだな、素直になれなかったんだ。幼かったんだろうな」
「今もですけどね」

 全然成長してませんよね、あなた。

「お前がシャボン玉を吹いてる姿はとても愛らしく、ストローになりたいと思っていた」
「変態か」
「プールで泳いでる姿は眩しくてな。浮き輪なぞ使わなくても、俺にしがみ付いてればいいだろうと思ったもんだ」
「病気か」

 いちいち突っ込まねばならないような事を言われてるんですが。アルバートは気にしないで話を続けた。

「そんなある日、庭の木に実が出来てるのに気付いてな。あれはもぎたてが超絶美味いんだ」
「超絶ですか」
「超絶だ」

 力強く頷かれてしまった。さようで。

「それで俺は是が非でもミリアに食べさせたいと思ったのだ。あれは木からもいだ瞬間から味が落ちるからな。だからミリアに木に登ってもいだ瞬間に食べるように言うつもりだったんだ」
「食べるも何も、実を取る前にハシゴ取りましたよね貴方」

 それを言ったら、見るからに肩を落とす男が一人。何だこれ、いつも偉そうな態度はどこ行ったんですか。

「まさかなあ……」
「なんですか」

 そこで言葉を切って、チラリと見て来るアルバート。心なしか顔が赤いのはどうしてだ。

「見えたんだ」
「はい?」
「あの日、キミはワンピースを着ていただろう」
「覚えてませんが、そうでしたかね」
「ハシゴを登る時にだな。その……風が吹いて」
「はい」
「更には木に登ってしまえば下からも……見えたわけだ」
「……」

 あーうん。なんか……何が見えたのか、分かった気はしますが。
 まあ子供ですからね。
 大人なら気にしないものでしょうが、年近い子供のアルバートには刺激が強かったのでしょうか?

「あのまま木の上に居て、もし他に人が来たら良くないと思ったのだ」
「じゃあハシゴで降りるように言えばいいじゃないですか」
「ハシゴでも見えるだろう!」
「めんどくさいですね!」

 だからってハシゴはずすか!?木を蹴って落とそうとするか!?
 そう言ったら、落とそうとしたのではない!と言われた。どの口が言うか!

「毛虫が居たのだ!」
「はい!?」
「だから!お前のすぐそばに毛虫が居たのだ!だからそれを落とそうとしてだなあ!」
「でも飛び降りろって言ってましたよね!?」
「毛虫が全く落ちる気配が無くて、どんどんミリアに近付いてるのが見えたんだ!それも10匹くらい!だから早く飛び降りろと……受け止める自信があったのだ!!」

 はあ!?
 まあ確かに10匹もの毛虫、気付いたら卒倒もんだったろうけど。
 だからって……!

「大人なら受け止めれるでしょうが、子供が子供を受け止めれるわけないでしょっ!そんな事も分からなかったんですか!?」
「……」
「分からなかったんかーい!!」

 まあ子供だからね!子供だったからね!
 子供ってのは無駄に自信あるからね!何でも出来ちゃうと思っちゃうお年頃。

 だけどねえ。

「じゃあどうして逃げたんですか」
「逃げてない」

 自信満々に言われたが、そんな馬鹿な。

「いや、私が泣き喚いてる時に貴方居なかったじゃないですか」

 少なくとも私の記憶には無い。だからそう言えば、首を横に振られた。

「俺はあの時──キミの下に居たんだ」
「────はい?」

 下?
 下ってどこ?

 ──馬鹿丸出しのことを考えてしまった。下?私の下?つまり……

「落ちた私の下?」

 問えばコクンと頷かれた。

「受け止めようとして、でも無理だった」

 見事に失敗して。

「キミの尻に敷かれたのだ」
「なんかその言い方語弊がありますね」

 そこだけ聞いたら誤解されるレベル!

 えーっと……つまりはなんですか。

「私を受け止めようとして」
「出来ずに体でお前を受け止めた」
「そして私の下敷きになったと?」
「ああ。それで何とかいけるかと思ったのだが……お前の足は折れてしまった。なんとも情けない……」

 何これ。見るからに落ち込んでガックリ項垂れてるんですけど。うまく出来ずにショックだったの?

「それで?」
「その時点で俺は気絶してたのでな。後から骨折の話を聞いて申し訳なくて落ち込んでいた」
「だから謝罪にも来なかったと?」

 幼くて記憶が曖昧だったことは認めよう。骨折のショックが大きすぎて、尻にアルバートを敷いてたことなんて微塵も覚えてない。

 でも元はと言えば、貴方が木登りさせたからだろうが!

 謝罪ぐらいしに来るべきだ!あなた確か一年くらい顔見せなかったよね!?
 
 

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