悪役令嬢にざまぁされるのはご免です!私は壁になりました。

リオール

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39、みんな一応強いんだったね。忘れてたわ

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「あ~そう言えば思い出しましたわ」

 その時、場の空気を読まない実にのほほんとしたシュリエッタ様の声がその場に響いた。

 ポン、と手を打ちニコニコ顔で

「この湖には古の魔王が封印されてたんでしたわ~」

 と、実にかるぅ~く言われてしまったので、こちらも

「へ~そうなんですかぁ」

 と、軽く返しそうになったわ!

 そう言えばちゃいます、そういうことは早く言っといてください。
 ていうか、知ってたなら、ヘルンドルのくっだらないネタに手を貸さないでください!

「古い話だったので、すっかり忘れてましたわ」じゃないですよ!

 そしてこの状況を誰かどうにかしてぇ!

 でも誰も動かない。なぜだ。そうか魔王だからか。強そうだもんな、安易に動けないわな。

 そういや23話あたりで教科書の英雄の横にいたっけか。デコの広い英雄画の横に、ものっそ怖そうな魔王いたっけか。フラグよろしくいたっけか。

 目の前の魔王をチラリと見やる。──誰だあの絵を描いたの!全っ然違うし!
 いくらなんでも悪者の魔王を、そのままイケメンに描くのはよろしくなかったのだろうか。

 この世界では珍しい、けれど前世の私からすれば懐かしい黒髪は、風になびく様も美しい。こう、サラサラ~って効果音がよくお似合いで。櫛でとかなくてもそれが通常なの?凄いね、うらやま!

 優しく微笑んで(!)私を見つめるその金の目に、何だか吸い込まれそうになって……って、実際近いし!

「あの、魔王さん近いんですが」
「魔王さ……我にはゾルトという名前があるんだが。特別に呼ぶ権利を与えてやろう」

 そんな特権いらないから!
 大量の魔物で国滅ぼそうとした魔王の名前を呼ぶ特権なんているか!

 私がどうしたものかと黙っていると、魔王がニヤリと笑う。あ、なんかすっごい嫌な予感。

「なんだ、寒くて唇が凍ったのか?溶かしてやろう」

 いえいえいえいえいえ家!結構ですから!
 ヘルンドルの冷気魔法のせいで真夏が真冬になっちゃって寒いですけど!

 だからって顔を近づけてこないでください!口を近づけないでくださいぃ!

 お姫様抱っこの状態でどうやって逃げようかと焦っていたら。

シュビッ!!!!

 目の前に。
 魔王と私の顔の間に白い物が突如現れた。

「貴様……今何をしようとしている……」

 さっきのヘルンドルと同じくらい……いやそれ以上か?低~いドスのきいた声で。剣を握ってるのはムサシムだった。どっから出したのその剣。

 ていうか!
 目の前に剣を突き出すな!怖いわ!

 私と魔王の距離は相変わらず近い。その狭い隙間に器用に白い刃が挟まれている。よく切られずにこの剣が飛び込んで来たな。

 チラリと見やれば、ムサシムが珍しく真剣に──怒っていた。え、なんで。
 ハンサムに戻ったムサシムの怒り顔もまた凛々しく素敵……などと見惚れてる場合ではない。

 見ればヘルンドルも冷気魔法で作り出した氷の剣なんて物を持ってるし。
 メンテリオスもゴゴゴ……という効果音を背景に、拳握ってる。

 なんだどうした、なぜこんな寒い状況になってるんだ!
 いや待て、ヘルンドルの冷気を上回るムサシムの炎魔法による熱気で暑くなってきた、夏が戻ってきた!ってどうでもいいわそんなこと!

「あらあら、アイシュラったらモテモテですわねえ」
「相変わらず暑苦しいのばっかにモテるんですよね」
「アイシュラがそれだけ魅力的ってことなんじゃないかな?」
「お姉さまの魅力は魔王にまで分かるってことですね」
「ふあああ……これが、これが逆ハー!あの本でもあの本でも、いっぱい読んできましたけど……本物の逆ハーなのですね!さすがですわお姉さま!」

 シュリエッタ様⇒チェイシー⇒キュリアス様⇒グリンマルト⇒アミュキューラ

 ……アミュキューラ、お姉ちゃんは無事に帰る事ができたら、全力で君の蔵書をチェックしたいと思います。

 みんな何のほほんとお茶とお菓子パクつきながら見とんじゃーい!

 魔王前にして、なんでそんなデッキチェアに座って優雅にくつろいでんの!
 キュリアス様!王家としては魔王復活なんてヤバイんじゃないすか!?

「あ、もうその魔王にかつての力ないよ」

 あっけらかーんと言われた。え、そなの?

「封印中に力を吸い取られ続けたんだろうね。もう国滅ぼすような力ないよ、全然」

 あーそうなのね~。なんか悪だくみしても簡単にねじ伏せられると。

「でも十分強いから気を付けてね」

 強いんかい!結局は強いんかい!
 ただ、この場にいる全員相手だと、余裕で魔王を抑えられるとか。まあそのレベルの強さ。

 だからキュリアス様はそんな余裕なのね。ちょっとそのクッキー私も食べたいと思って狙ってたんだけど。

 いい加減、降りたい。降ろして魔王。

「ふん、確かに今の我にはかつての力は無い。だが時間と共に戻るだろう」
「ならば今ここで成敗してくれる」

 わー、剣を構えるムサシム素敵~。久々にまともな姿見たわ~。でも海パンに剣って何だか間抜けよね。

 ねーほんと、この状況どうなるのかなあ。

 未だお姫様抱っこされた状態の私は、ちょっと遠い目をしてしまった。













===作者の呟き=================

ゾルト……1秒で決めた名前。
毎回名前を考えるのには苦労するけど、今回は早かった。深く考えてないです。
なんかで読んだんだろうけど、覚えてないしありがちだから気にしない(;^_^A

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