【第一部完結】「子供ができた」と旦那様に言われました

リオール

文字の大きさ
4 / 63
第一部

4、願うは子の幸せ

しおりを挟む
 
「メリッサ、キミは絶対に俺の妻で、それは永遠に変わらない事実だ。それは絶対に忘れないでくれ。俺はキミを手放すつもりはない!」
「わーお、全力で愛の告白されてる気分です」
「愛の告白だ!」

 わーお。
 旦那様は年上だというのに、こういうところが子供っぽくて熱くて、可愛くて……うーん、好きだなあ。
 なんてことを口にしようものなら、『ノロけてんな、早く話を進めろ』と優秀執事が屋敷破壊しちゃうから言わないけど。

「えーっと、では私に母親になれとはどういう……?」
「それはつまり、弟の子をうちの養子にして……」
「後継にすると?」
「そうだな。両親にはおって連絡するが、決定の権利は私と弟……そしてメリッサ、きみにある。メリッサ、きみはどうしたい?」
「養子云々はともかく、あんな情勢不安定で極寒の地に生後一ヶ月の子を送ることはできませんね。我が家で引き取ってから考えましょうか」
「そ、そうか。すまないな」
「いえいえ、愛しい旦那様の弟君とそのお子のことですもの。私なんかでお役に立てるなら」

 胸をドンと叩いて言えば、「メリッサぁっ!」と抱きしめられてしまった。

ダンッ!!!!

「イチャコラは後でー!」
「「はいー!!」」

 うちの執事、マジで恐いんですけど!

* * *

「兄上、義姉上、このたびはご迷惑をおかけし申し訳ありません」

 三年ぶりに会った義理の弟、ラウルド様はそう言って私達に頭を下げた。記憶にある姿より痩せたように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

(苦労したんだろうなあ……)

 若いみそらで伯爵として忙しく働き、ようやく産まれた我が子を置いて妻が逃げる。それで大変でないはずがない。その苦労は推して知るべし。

 ゲッソリした様子のラウルド様は、それでも腕の中の存在は、それはそれは大切そうに抱いている。

「この子が?」
「はい。僕の子供です」
「そうか。話には聞いていたが、お前にそっくりだな」
「ええ」

 ラウルド様の腕の中では、小さな赤子が、安心しきった様子でスヤスヤと眠っている。その髪は、見事な緑。ラウルド様と寸分たがわぬ同じ色だ。それこそが、その子がラウルド様のまぎれもない実子であることを証明している。

「名は?」
「それがまだ……忙しくて……もしよろしければ兄上達で決めていただけませんか?」
「いいのか?」
「はい。そのほうが、僕としても未練なく出向できます」
「そうか。なら決まり次第、文で知らせよう」
「お願いします」

 頷いたラウルド様が、私を見た。そして腕の中の赤ん坊を差し出す。

「えっと……」
「どうか、この子のことをよろしくお願いします、義姉上」
「ラウルド様、私のことは名前で呼んでもらっていいと何度も……」

 彼は22歳で、私は18歳。年上に姉と呼ばれることに抵抗を感じて、名前で良いと三年前に言った。だが彼はそれでも私のことを姉と呼ぶ。それはけして引けないラインなのだろう。

 ラウルド様は無言で首を横に振り、もう一度私に赤ん坊を差し出す。私はおずおずとその子を手にとった。

「可愛い……いい匂い。弟たちのことを思い出しますわ」

 私には実家に残した弟が三人もいる。みなすくすく育っているが、一番下の弟が赤ん坊だった頃はいまだ記憶に鮮明に残っている。

 赤ん坊特有の、甘い香りに目を細めた。

「大切に……愛情もって育てます」
「宜しくお願いいたします」

 そう言って、ラウルド様は慌ただしく出立した。彼がいつ戻ってくるのかはわからない。
 早くても五年は無理との話だが、へたをすれば永住なんてことも……。

「情勢が改善されれば、一時的でも帰ってこれるさ。もしくは落ち着いたら、こちらから出向くこともできる」

 心配する私の気持ちを思いやってか、旦那様が優しく声をかけてくださった。
 それはけしてわからない未来。誰にも見えない未来。

 それでも。

 私は腕の中でスヤスヤと眠る赤子を見て思う。

「この子の未来が、幸せに満ち溢れていますように……」

 それこそを願う。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...