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第一部
6、悪霊退散!
しおりを挟む「うふふふふ、クリームたっぷり甘いケーキに蜂蜜かけてチョコかけて……甘い甘いケーキのできあがり。いただきまー……」
「おい、起きろ! んなもん食ったら、夢でも太るぞ!」
「それは嫌っ!!!!」
最高に幸せな夢を邪魔するのはなにやつ!?
太るというNGワードを耳にした瞬間、ガバチョと起きた私は、声の主を睨み付けた。……つもりだった。
ところが、だ。
「え、誰もいない?」
そう、睨んだ先……声がしたであろう方向には、誰もいない。見えるのは、風で揺れるカーテンと赤ん坊がスヤスヤと眠るベビーベッドだけ。
「うーん、寝ぼけたかな?」
ケーキの夢を見ていたと思ったのだけれど、実は別の夢も平行して見てたとか? 私、そんな器用なことできるんだろうか。
なんて考えて頭をポリポリ掻いてたら「やっと起きたか、食いしん坊め」との声。
「夢じゃない!」
慌てて声のしたほうを見て、やっぱり誰もいないから周囲をキョロキョロして。
それから血の気が引いた。
「もしやこれが噂の幽霊!?」
ついに私にも霊感が宿ったか!
と青ざめていたら「アホか」という声に冷静になる。
いやまて、百歩譲って幽霊が実在したとしよう。まあそれはいい。良くないけど、いい。
だが問題は、その口の悪さにある。
「たとえこの世に未練があるとしても、幽霊にアホ呼ばわりされるのは我慢ならん!」
ムカついたので調理場に行って塩を取ってきてやる!
鼻息荒く部屋を出ようとする私に、またも悪霊が「おい待てっ! 人の話を聞け!」ときたもんだ。
「幽霊はもう人じゃない! よって話は聞きません!」
「俺は人だ! 生きてる人間だ!」
話はおしまいと部屋を出ようとする私に、またも声がかかる。そしてその内容に、私の足はピタッと止まった。
今なんつった?
「生きてる人間? じゃああなたは透明人間?」
そういう魔法は聞いたことはあるけれど、実際に見たことはない。だって透明になるんだもの。見ることなんてできるわけもないってね。
しかし声の主は「違うわい」と言うではないか。
そこで私は気付いた。口の悪いその声が、どうにも幼い舌足らずな声であることを。
ひょっとして。
いやまさか。
それはないでしょう。
でももしかして……?
自分と自分が脳内会議。
そして出た結論に、おそるおそる私は部屋の中央に向かって歩みを進めた。
そこになにがあるかというと……この部屋の中心人物である、赤ん坊が眠るベッドなのですよ。
たどり着いた私は、そおっと中を覗き込み。
「見なかったことにしよう」
と、ベッドを離れて再び眠るためにソファに向かう。
「現実逃避してんじゃねえ!」
しかしそれは許さない。私にしかと現実を見せるために、ベッドの中の『ガラガラ』を投げてきたのだ。
「うきゃあ!?」
「貴族の女がなんつー声出してんだよ」
「な、なにごとお!?」
ガラガラと足元で音を立てて転がるそれを拾い上げ、私は嫌々ながらもう一度ベッドへと向かう。
中を覗き込んだ私に、赤子がしっかり目を開けて私を見つめ……ニヤリと口元に笑みを浮かべて「よお、やっと俺のこと見たか」と言った瞬間。
私はガバッと赤ん坊を抱き上げて、部屋を飛び出したのだ。
「あ、赤ん坊に悪霊が取り付いた! 旦那様! クラウド様~~~~!」
違った、悪霊ならば神父様を呼ぶべきか!?
完全にパニックに陥った私の腕の中で、赤ん坊が「ば、馬鹿、落ち着け!」と声を上げるのだった。
ひいいいい!
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