【第一部完結】「子供ができた」と旦那様に言われました

リオール

文字の大きさ
27 / 63
第一部

27、寝物語1~世界は退屈で面白い

しおりを挟む
 
 世界はとっても退屈だ。
 14歳にして、私、メリッサ・クリエール子爵令嬢はそう悟った。というか、悟らざるをえないと言うべきか。

「メリッサー! これからお夕飯の用意をするから、手伝ってちょうだい!」
「はーい、お母様!」

 子爵家にも色々あるが、うちは子爵とは名ばかりの非常に貧乏貴族。
 持っている領地はちっぽけで、そのほとんどが荒れ果て住人はほとんどいない。当然税収なんて雀の涙。

 それでも少数ながらいる領民のため、少しでも住みよい土地にしようと、父は奮闘している。
 それはいい。とても素晴らしいことだと思う。貧乏なのも生まれつきなのだから、全然平気。

 貧しい家を何とも思わないのだが、両親にはもう少し計画というものを持って欲しかった。

 他の貴族に比べれば犬小屋レベルに小さいながらも、この地ではまだ大きい方な我が家の、あてがわれた小さな自分の部屋で溜め息をついて、私は立ち上がる。それから母がいる台所に向かおうと扉を開けた。

「うえーい!!!!」
「ごふっ?!?!?!」

 開けた瞬間、お腹に加わる強烈な圧に、思わず変な声出たわ。
 苦し気にお腹を押さえる私の横を、バタバタと小さな足が激しい足音を共に走り抜けていく。

 なんとかスックと立ち上がった私は「くおらあ! ダルシュにアンシュにカッシュ! 廊下を走り回るんじゃないっていつも言ってるでしょお!?」と怒鳴った。

 すると遊びたいざかり、ヤンチャざかりの弟三人が一瞬立ち止まって私を振り返った。どうよ、姉の鶴の一声!

 だが鶴はアッサリ無視される。

「うえーい、姉上、うえーい!!!!」
「ごふうっ!?」

 長男のダルシュが私に向かって手に持ったオモチャの剣を突き出して来た。いやちょっと待て、いくら先っちょが丸かろうと、素材が柔らかろうと、それを姉に突きさそうとするか普通!?

 あとなんだよその『うえーい!』って! 私は姉上だが、その上があるんかい!?

「姉うえーいにケンカ売るとかいい度胸よね!」

 だてに弟三人持ってないわよ! くるなら来い! と身構えたら、なぜかダルシュが立ち止まった。そして弟二人を振り返り、そして言った。

「姉うえーいだって、寒っ!!!!」
「よしそのケンカ買った、マジで買った。ちょっとアンシュ、その手に持った剣を寄越しなさい。ダルシュ、決闘よ!」
「望むところだー!」
「あねうえ~、うえ~い! きゃはは!」
「んごふううっ!?」

 ダルシュと決闘! とか言ってる私の腹に突きささったのは、まだまだ幼くて無邪気な末弟カッシュによる一撃。
 姉上撃沈。

 う、うえ~い。

「ちょっとメリッサ、なにをしているの!? 早く手伝ってちょうだい! あああ、お鍋が噴きこぼれてるーーーーー!!!!」

 ゲラゲラ笑う弟達の笑い声。
 お腹を押さえて悶絶する私。
 そして響き渡る母の悲鳴。

 ラブラブ夫婦している両親は、無計画に子供を作って貧乏な我が家はもっと貧乏に。
 笑い声が絶えない貧乏貴族を作り上げたのである。

 いやまあ、いいんだけどさ。
 両親は大好きだし、弟達も可愛いし。

 クリエール家は今日も賑やかなのです。


* * *


「退屈だわ!」

 ダンッとフォークを机に置いて、私は叫んだ。

「どうしたのメリッサ、いつもの発作?」
「発作ちゃう、退屈だと私は今言いました」

 退屈と言うことが、なぜ発作なんだよ、解せぬ。
 そう言う私のことを、友人のリンダは食べ終えたお弁当箱に蓋をしてから見た。

「だってその発言、今月に入って何回目よ。いい加減聞き飽きたわ」

 ここは貴族が通う学園……ではない。そんなものに通う余裕は、我が家にはない。
 うちはつつましやかに、庶民が通う普通の学園に通っているのですよ。

 そしてそこで知り合った庶民のリンダとは、親友だ。私たち永遠なるずっ友よね! と言ったら「え、やだ」と言える関係。冗談だよね? 冗談だと言って。

「貧しくても家族仲がいいなんて、素晴らしいことじゃない」
「そうではないわ。家族仲がいいのは私も大歓迎。そして家族のことは大好き。でもねえ、あまりに退屈すぎるのよ」

 だって考えてみて?
 私は貴族とは名ばかりな生活を送っているが、それでも一応子爵家令嬢。
 家の後継は弟達の誰かがやってくれるとして、ならば私は父の仕事を手伝って盛り上げるか貴族の婚約者を見つけるのが通常。

 でもそれがままならない。
 父の仕事を手伝ってはいるが、私別に優秀じゃないからね。才覚まったくないし。なもんで領地や家を盛り上げるなんてこと、微塵もできない。

 それから婚約者探し。これはもっとハードル高い。

「ねえリンダ、どうやったら彼氏できるの?」

 そう教えを乞うのは、現在絶賛お付き合い中のずっ友リンダ。

「なんかビビッときたの」
「そうなのねありがとう全然参考になりません」
「知りません」

 ビビッとってなによ。そんなの生まれてこの方、一度も経験ないわ。

「初恋もまだなお子ちゃまには、難しかったかもねえ」
「どうせ私は絶壁胸だ」
「誰がいつそんなこと言ったのよ」

 こじらせてるなあ。
 リンダが呟いた時だった。

 フッと視界に影が落ちたのは。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...