【第一部完結】「子供ができた」と旦那様に言われました

リオール

文字の大きさ
32 / 63
第一部

32、寝物語6~自分が変人であるという自覚はある

しおりを挟む
 
「だから本当なんだってば! 獣がしゃべったの!」
「はいはい。夢を現実と思ってしまうほどリアルな夢を見たのね」
「だから違うんだってばー!」

 どれだけ言っても信じてくれないリンダに、私の心は折れそうになる。

「そんなことより、治療した生徒の親が、あなたを躍起になって探してるわよ」
「妖精のしわざだとでも思ってくれないかなあ」
「そりゃ無理でしょ。あんな重症、治せるのは光魔法使い以外あり得ないって話だもの」

 生徒が完治したという噂が流れた直後、リンダはすぐに私のしわざだと気づいた。隠すことは無意味と、問われるままに「そうだよ」と答えたのが数日前の話。

 だが今、私にはそんな話はどうでもいいのだ。いや、治せたのは良かったけれど、感謝とかいらないし。
 犯人(?)探しなんてしないでそっとしておいてくれと思う。

 まあ私だと気付く者はいないだろうから、ここはスルー。
 それよりも! と私はリンダに熱弁する。

「本当に見たんだって! 真っ黒な毛に真っ青な目の狼! それがしゃべったの、人間の言葉を!」
「そんな珍獣見たことないわ。魔物だとしても……言葉を話せる獣タイプの魔物なんて聞いたことない」

 しかし実際に見てはいないリンダからすれば、私の話は『胡散臭い』としか言いようがないらしい。
 うーん、なんと言えば信じてもらえるんだろう。

 誰かとこの感動と驚きを分かち合いたい! と思うのだが、それはどうにも険しい道のりらしい。

「なんですの、どうしたんですの、私も話に混ぜなさい!」
「あ、ミンティアはいいです」

 お呼びでない人は来るんだよなあ。

 そそくさとその場を離れたら、「ちょっとおっ!?」と文句が飛んできたが今は無視だ。

 家に帰っても……いや、どこであろうとこの数日、あの獣のことが頭から離れない。
 あれは本当に魔物なのだろうか? 邪気もなにも感じなかったのに?
 それにあの瞳……そして怪我。

「あの獣、なんか色々事情を抱えてそうだなあ……」

 話せると分かっていたら、もっと色々お話したのに。
 去り際にネタバラシするのはセコイと思う。

「はあ……また会えるといいなあ」

 それはどういった感情なのか知らない。ただ、最初に会ったあのビビッと感じたあれが一体なんであったのか……それを私は知りたいと思う。

 自室の窓辺で頬杖ついていたら、ノック音が響いたのは直後。

「メリッサ、今いいかい?」
「お父様? なにか?」
「うん、ちょっと相談なんだけどね……お見合いする気はないかな?」
「ないですさようなら」
「せめて五秒は考えてくれないかな?」
「……はい、五秒経ちました。この話は終わりですね、さようなら」
「父様にさようならはやめてぇ!」

 なんなのだいきなり。
 泣き真似とかやめて欲しいなあと、冷たい目を向けていたら、気まずそうに咳払いする父。男親って、娘への接し方が下手よねえ。

「実はだね。とある貴族様から、結婚の申し出があったんだ」
「……はい?」
「いやまあ、とりあえずは婚約なんだけど……結婚を前提にだね……」
「誰ですか、そのもの好きは」
「自分でもの好きって言っちゃうんだ」

 そりゃそうでしょ。
 こんななんの魅力もない土地を所有する子爵家。そこの令嬢である私。
 特別美人でも妖艶な魅力をもつでもない私に求婚するなんて、どこの物好きだとしか言いようがないではないか。

「どんな理由があるにせよ、答えはノーです」
「どうして?」
「どうしてって……それは……」

 聞かれると返答に困る。自分でも理由なんて分からないのだから。
 ただ、なんとなく嫌だと思った。

「ひょっとして、誰か想い人でもできたかな?」
「そんなことは……」

 ない。
 そう否定すれば良いはずなのに、なぜかそれができなかった。
 そして不意に脳裏をかすめる、あの青い瞳。

 いやいや、待って、冷静になれ。
 相手は獣だよ?
 リンダやミンティアが、婚約者に会った時にビビッときたとは言ってたし、私はあのとき確かにビビッと感じた。

 でも相手は獣だ!

 獣に恋するなんて、ちょっと……いや、かなり変人ではないか?
 ペット感覚?
 う~ん、それも違う気がする。

「おや、あながち間違ってはいなかったかな?」

 すぐに否定されると思ったのにと呟く父に、私は何も言えなくなってしまった。
 だが「じゃあこの話は断ろうか?」と言われた瞬間、なんに対しての意地か反抗心かしらないが、「お見合いします!」と言ってしまった。

 ああ軽率。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...