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第一部
35、寝物語9~あれ、なんか間違えた?
しおりを挟む「へ?」
彼の言わんとしていることがよく分からず、首をかしげる私。お子ちゃまと笑うなかれ。いやもう、本当にそういった知識が皆無なのですよ。無縁だったから。
不思議そうな顔をする私から顔をそらして、クラウド様は言いにくそうに言った。
「その……私は幼少児の病が理由で……繁殖機能が無いのです」
「はあ……」
よく分からん。分からないが、まあつまりは子作りできないんだろうってことが分かった。
「つまり、私とあなたは永遠に白い結婚と?」
「まあそうなりますね。私には弟がいますので、いずれ産まれる弟の子を後継にするつもりです」
「なるほど」
後継は必要ない。それはちょっと驚きだ。
「では私に何を望まれるのですか?」
貴族、それも公爵が結婚相手に望むことなんて、自分にとってメリットがあるかどうかだと思う。
私は若いから後継を望めると思ったのかなと考えたが、それは違うと言う。
子爵家に魅力も皆無。
そして私自身の魅力も皆無(ここはちょっと泣ける)。
じゃあ一体、公爵家にとってこの結婚のメリットってなに?
それが無いのに結婚の申し込みなんて、怪しい以外のなにものでもないではないか。
(まさか怪しい儀式の生贄にとか考えてるんじゃないでしょうね)
あまりに胡散臭すぎて、一気に警戒心が高まる。安易に結婚を受けなくて良かったと思えてきた。
だがクラウド様は静かに首を横に振って言ったのだ。
「何も」と。
「え?」
「私はあなたに何も望みません。ああいや、違った、望むのはただ一つだけ。……どうか私のそばにいてください」
「へ?」
「私はあなたを愛しています。他の男と結婚するのなんて堪えられない。子供を望むことはできませんが、それでも私のそばにいてくれませんか?」
え?
うん?
え。
……うええええええ!?
い、いまなんて言った!?
愛してるって言った!?
ちょっと待って、待ってくださいよ。
産まれてこのかた14年、初恋もまだなら求愛された経験も皆無、なんなら色恋沙汰とは無縁の人生を送ってきた。そんな天然記念物な私。
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「あ、あわわわわ……」
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もう恥ずかしすぎて、まともに思考が働かない!
一体この危機的状況をどう脱するべきなのか。
それだけを考えてしまっている。
その時、ふと私を覗き込む青い瞳とぶつかった。
その目を見た瞬間、(そうだ!)と名案が浮かんだとか浮かばなかったとか。
(なんかもう、色々と無理! というわけで諦めて帰ってもらおう!)
もう美形だとか楽そうな結婚だなとか、そんなことはどうでも良かった。
とりあえずこの状況から逃げ出したい。
情けないことに私は半分泣きそうになっていたのである。愛の告白にビックリして泣きそうとか……子供すぎてほんと更に泣けるわ。
そして彼の目を見て、言い訳に最適そうなものを思いついた。──とんでもないことを思いついたのである。
つまりは、(私を変人だと思わせて帰らせる!)というとんでもないことを。
私は努めて冷静を装い、一つ咳払いをしてから言った。
「コホン、失礼しました。ですが……申し訳ありません。私はこのお話を受けることはできません」
「ど、どうしてですか!?」
断られるとは思っていたのかいなかったのか知らないが、いたく傷ついた顔をするクラウド様。ちょっと胸が痛むが、今の私はいっぱいいっぱいなのですよ、ごめんなさい。
「私、実は心に決めた人がいるのです」
「え!?」
そうだ、これはけして嘘ではない。
ずっと気になっている。気になって気になって仕方なくて……ずっと考えてばかりいる存在が一人。いや違う、正確には……
「正確には、人ではありません」
「……え? ど、どういうことですか?」
戸惑う公爵様の目を見つめて、私は言った。
その目と同じ色の存在を思い出しながら。
ビビッときた存在を思い出しながら言ったのである。
「私、狼が好きなのです」
「……へ?」
しかし公爵様からすれば、予想外すぎる話だったのだろう。一気に目が点になる彼に、私は言葉を続けた。
「実は一度だけ会った狼が忘れられないのです。いえ、これは恋。私は、あの狼に恋ををしております。それはとても普通の狼とは思えないほど大きく、全身を黒い毛で覆われておりました。なによりその瞳の色……普通狼は金であるはずの瞳が、真っ青な空のように青い瞳をしていたのです。そう、まるでクラウド様、あなたのような……」
どうよ、こんな変人な私との結婚、嫌になったでしょ。
そう思って彼の顔を見上げた瞬間。
(な、なんで!?)
戸惑ってしまうほどに真っ赤な……耳まで真っ赤になっているクラウド公爵様が、眼の前にいたのである。
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