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第一部
59、人の話はちゃんと聞きましょう
しおりを挟む光魔法を放ち、オオトカゲ3体を取り囲む。食事を浄化するように簡単にはいかないと感じるも、それでも大差ないとも思う。
意識を集中すること数分。
次第に光は小さくなり、そのままフッと掻き消える。
「終わった…かな?」
多分大丈夫だとは思うが、それでも初の試みに自信をもてるはずもない。
集中するために閉じていた瞳をそおっと開けば……開いたら、目の前には異様な光景が繰り広げられている。
「よーしよしよし、いい子だよーしよしよし」
「……無表情で淡々とオオトカゲを撫でないでほしいな」
最初から一貫して表情がないその顔でもって、魔族の男がオオトカゲの頭を撫でているのである。実に不気味。まったくもってほのぼのしない。
「いい子だねえ!」
魔族の子がその大きな鱗に覆われた背に乗って、キャッキャ笑っている。うん、こっちはほのぼのするし癒やされるな。オオトカゲの迫力あるいかつい顔は見ないことにしておこう。
どうやら成功したらしい。
「大人しくなりました?」
「見違えるほどにな」
これが本来の姿だと男は言う。
「撫でるか?」
「のーさんきゅー」
「のう?」
「結構ですという意味です」
「人間界の言葉は、奥が深いな」
「まあ私は特別色々な言葉を知ってますもんで」
時折前世の知識が呼び起こされるんですよ、なんてことは面倒なことになるので言わないが。
大人しく撫でられるがままになっているオオトカゲの姿に、やれやれと胸を撫で下ろしたところで「メリッサぁっ!」「うおっふ!?」衝撃に息が止まりかけた。
背後から腰にタックルしないで欲しい。
そう叫びかけて、でも私の腰にしがみつく手が震えていることに気づいて、その言葉は呑み込んだ。
「ゼン、大丈夫?」
「うん」
「ノンは大丈夫ですか?」
「まあね。あんたが来なきゃヤバかったけど」
「ヒーローは遅れて登場するのです」
「は?」
「冗談なので、本気で馬鹿にした目を向けるのやめて」
会話はほのぼのしているが、空気がピリッとしているせいで心から笑えない。
なにせノンナリエが放つ気配が恐すぎて……。殺気、隠す気ないんだもんなあ。
「ねえあいつ、魔族だよね?」
「あーまあそうみたいです。あの子の父親なんだそうで」
「ふうん? 害はないのかい?」
「今のところは」
「オオトカゲを随分手なづけてるみたいだね」
「そうですねえ」
「……」
「……」
なぜに無言かって?
私とノンナリエ、二人同時に地面に目を向けたからである。
そこには、私が到着する前にノンナリエが倒したオオトカゲ2体が倒れていたから。
これ、やばいんじゃなかろうか。
もしあの魔族の男が、オオトカゲを殺したことを激怒したら?
いつでも逃げられるようにしておいたほうがいいんじゃないかしら。
なんて思ってたら、ノンナリエが私の顔を見て言ってきた。
「治せるかい?」
「え、生きてるんですか?」
「かろうじてね」
「そう、ですか……」
死んでしまったら、どうにもならない。
でも生きているなら、多分どうにかなる。
魔物を治療なんてしたことないけれど、まあ生きとし生けるもの全て、似たようなもんだろう。
倒れているオオトカゲに手をかざして意識を集中させる。生きている気配に、失敗する気がしない……なんて思いながら、治癒魔法をかけるのだった。
* * *
で、元気になったオオトカゲ5体と、それを従える魔族の男が一人。
その男に肩車してもらっている魔族の少年一人。
それから私の背後にはノンナリエとゼン。
さあこれからオオトカゲがおかしくなった原因を探そうって思ってるんだけど。
だ・け・ど!
どうしてこうなった。
「あのお……手を離してもらえませんか?」
そう言う私の手は、握られている。誰にって、魔族の男に、だ。綺麗な男性に握られてキャッドキドキする! とはならんよ。私にはクラウド様がいるから。あと美形はクラウド様で見慣れているから。
だがそんなことはお構い無しとばかりに、美しい笑みを浮かべる魔族が一人。
私の手を離すことなく言い放った。
「もう人の世界に帰るな。俺の嫁になれ」突然の求婚。
「いや、私既婚者ですので……」お断りしても
「お前のそばに居ないやつのことなど忘れろ、俺の嫁になりこの子の母となれ」と聞く耳持たない。
「いやあ、でも私……」
「あれは百五十年前の話」
お前の話はいいから私の話聞けや。でもって百五十年前ってなんだよ、魔族の寿命規格外すぎるだろ。
話を聞かない魔族は話を続ける。
「私は一人の女と出会った。あれはとても美しい魔族であり、強い女でもあった。私達は一目で恋に落ちたのだ」
「なぜいきなり魔族の恋バナ聞かんとあかんの」
「そして彼女との間に子供ができた」
「話聞かない継続ですね、はいはい。でもって色々すっ飛ばしていきなり子供ですか」
『子供ができた』
なんだか懐かしいフレーズだな。
「しかし彼女はもういない」
「亡くなったんですか?」
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「ローディアス? ああ、あなたの子供のことですね」
言って魔族の子に目を向ければ、にっこり微笑まれた。可愛いのう。
「あの子が不思議とお前に懐いている。だから私の嫁となり、あの子の母となれ」
「いやだから、私には夫がおりまして。なんなら子供も居ます」
言った瞬間、魔族の目に剣呑な光が浮かぶ。
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