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プロローグ
3、
しおりを挟む自分で旅程を考えて行く旅行ではなく、ツアー。なもんで、集合場所があったりする。
私と隆哉は待ち合わせて、一緒に目的の駅に向かった。
目的地の駅はかなり遠かった。
電車を何本も乗り換え2時間、バスに乗って数十分、更にバスに乗り換えとなったところで、一時間に一本のバスを目の前で逃した時には絶望を感じたものである。
早めに行ってどこかのお店で何か食べて行こうって考えてたから、時間に余裕はあったのだけど。
結局到着したのはギリギリで、何も食べれてない。お腹グーグー言っててうるさい。
「はい」
「わ、ありがとう」
差し出されるは何とかメイトとかいう栄養食。腹持ちいいのよねえ、これ!
用意がいい隆哉様サマである。用意の悪い私でスミマセン、はい。
食べながら集合場所に辿り着けば、人気のない駅に数名の人間が固まっていた。
隙間から見えた一人が持つノボリ。そこには『洋館ツアー』としっかり書かれていた。良かった間に合った。
「あの、洋館観光宿泊ツアーで合ってますか?」
隆哉がノボリを持った男性に近付く。
カッターシャツにネクタイ、そしてスラックス。汗をハンカチで拭う中年男性。それがガイドさんであろう。
ガイドオジサンは隆哉を見て笑顔で応対する。
「ああはい、そうですよ!ええっとお名前をよろしいですか?」
「夏野と如月です」
「はいはい、確かにご予約の方ですね。ではこちらのバッジを胸元かカバンに付けておいてください。このツアーの参加者であることの証明になりますので」
受け取ったバッジを隆哉が一つ私に渡す。隆哉は迷わずシャツに付けてるが、私はちょっと迷って肩にかけてるショルダーバッグに付けた。
だってこれ一週間もある旅行なんだもの。当然着替えるしその都度バッジを付け替えるの面倒じゃない?そもそも服に穴が開くのは嫌だ。
見ればやはり女性はバッグに付けてる人が多い。男性は半々だ。
そこで気が付いた。
参加者はそこそこの人数──今の時点で10人くらいいるのだけれど、色々なタイプがいることに。
私達のように若いカップルも居れば中年カップル?夫婦?もいる。まだ小学生になるかどうかの子供連れ家族まで居たのには驚いた。古い洋館なんて、子供には恐いんじゃないの?
バッジを付けたところで集合時間になった。
「え~時間になったのですが……まだ来られてない方がおられますね。規定通り15分待っても来ない場合は出発しますので、それまでにお手洗いなど済ませておいてください。マイクロバスで目的地に向かいますが、けして近くはありません。途中休憩もありませんのでご注意ください」
その言葉に動き出す人、そうでない人と様々だ。
とりあえず大きな荷物を預けた私と隆哉も、所用を済ませてバスに乗り込んだ。
ガイドさんが腕時計を確認する。
そして時間になったのだろう。
受付を済ました参加者が乗ってるかを確認し、運転手に声をかけようとしたまさにその時。
「わー!わー!わー!ま、待ってくれえええ!!!!」
「うわわ!?」
バスの扉付近に立っていたガイドさんを押しのけ、乗って来た人物がいたのである。
皆が驚いて視線を向ける中、汗をダラダラ流し息を乱した若い男性が乗車してきた。
「はあ、はあ、はあ!あー間に合ったー!ったく、ここまでのバスの本数少なすぎ!旅行代金がパアになるかと焦ったー!」
「そ、それは良かった。えっとお名前を伺っても宜しいですか?」
「あ、俺は~……あ、これこれ。この霧崎歩(きりさき あゆむ)っての!」
ガイドさんの手元にある参加者一覧を指さして、男性は名乗った。
「一応身分証明書を……」
「疑り深いなあ!ほら、免許証!」
「はい、確かに。失礼しました。これで参加者全員お揃いになられましたね、良かったです。それでは早速出発致しますのでお席にお座りください」
「はいよー」
この程度のトラブルや、賑やかな客なんて慣れてるのだろう。
汗を拭きながらも笑みを絶やさず、ガイドさんは男性を誘導した。
そしてバスはゆっくりと走り始めた。
「え~、皆様本日は我が社企画の洋館ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。わたくし皆様をご案内させていただきますガイドの渡部(わたべ)申します。どうぞ宜しくお願い致します」
ペコリと頭を下げるガイドさんの動きを視界の片隅に捉えながら、私は窓の外に視線を向けた。
駅の近くは、まだまばらにお店や住宅がある田舎道。それがどんどん減って田んぼや畑が増えていき……それらも次第になくなっていく。
坂を走るのを感じ、視界は一面木々と反対は山の斜面で埋め尽くされた。
本格的な山道に入ったのだ。
道路脇に生い茂る木々をボーッと見つめ、ガタガタと小刻みな振動にウトウトしそうになる。
「──というわけで、今回はとある財閥が建てたとされる古い洋館に向かいます。その規模は大きく、建物も三棟に分かれて存在しておりまして、それらを見学した後、ご希望の洋館にお泊まりいただけます。希望は毎日お聞きしますので、毎日お替え頂くことも可能です」
不意にガイドさんの声が耳に届き、私の頭は慌てて覚醒する。しまったちょっと眠ってしまったか。
時計を確認すればまだそれほど時間は経ってなかった。
今耳にした話からすると、ガイドが目的地に関する説明をしてるのだろう。
バスに乗る時に渡されたガイドブックを開く。そこには古めかしい外観とは異なる、煌びやかで豪華絢爛な内部写真が掲載されていた。
「うわあ、楽しみ……」
「美菜としてはもっと古めかしい内装の方が良かったんじゃないの?」
「お泊まりするなら綺麗な方がいいよ!」
確かに寝室や食堂など綺麗に整備されていて、あまり歴史を感じられそうにない。
だがそれでもところどころに昔懐かしい物を思わせる、雰囲気ある写真に私は興奮を抑えることが出来ない。
そもそも人が住まなくなった古い洋館なんて、公開されてなきゃ入れないものだ。公開されてるものは見学程度だし、古い洋風のホテルも多々あるが、あれはあくまでホテルだ。元々は個人が所有し住んでいた、完全なる居住空間であることというのが、私のこだわり。おまけにホテルはお高い。バイトに勤しむ大学生が手の届くってのはなかなか無いものだ。
今回はマイナーな旅行会社なうえに、かなり辺鄙で交通の便が悪い場所にある洋館だからこそ、参加費は安く手が届くというもの。お得なツアーを見つけてくれた隆哉には感謝しかない。
「ガイドさーん、これってどこぞの金持ちが所有してたもんでしょ?」
不意に参加者から質問が投げられた。
遅れてきた霧崎とか言う人だ。
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