【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール

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女子大生三人組

2、

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「早苗……?どしたの?」
「ごめん起こしちゃった?ただのトイレだから、寝ててね」
「うん……」

 そんな会話をしたことは何となく覚えてる。けれど直ぐに眠ってしまった私は、次に目を覚ましたら朝だと信じていた。だが実際にはまだ暗闇の支配する夜。
 手探りで枕元のメガネを探し、かけてから携帯を確認する。それはまだ日の出前の時間を指していた。カーテンの向こうでは、まだ太陽が昇る気配はない。

 ふと横を見れば、三つのベッドの真ん中が空になってる事に気付いた。そこの主は早苗だ。
 私達三人組の中で最も派手な、いかにもリア充と思わせる金髪メイクバッチリの早苗。メイクを落とせば眉は消え、一体誰だと別人になる彼女に笑ってしまったのは寝る前の話。
 その早苗が居ないのだ。

「トイレかな?」

 会話を思い出し、ベッドを降りてトイレの扉をノックした。シンと静寂だけが返って来る。電気が漏れる様子もないので扉の取っ手をひねれば、難なくそれは開いた。もちろん中には誰も居ない。
 ふと見れば、部屋の入口そばに設置された鍵置きに、あるはずの鍵が無い。早苗が持って出たのだろうか?
 ここはオートロック式だから、扉が閉まれば自動でロックがかかる。持って出なければ部屋に入れない。

 でもどうして?

 こんな夜中に館内を一人で散策ってのは考えにくい。
 考えられるのは……

「う~ん……タバコ、かなあ?」

 実は早苗が喫煙者であることを、私は知っている。本人はイメージが良くないからと隠したがっているが、香水に隠れて香る煙い匂いに、私は気付いていた。
 この洋館は、ホテルとして建てられたものではないが、今は宿泊客を受け入れる時点で色々改装されている。火災報知器も当然あるので、好き勝手にタバコを吸う事はできない。トイレでこっそりなんてことすれば、私と結衣にバレてしまう。もう少しお金を出せばバルコニー付きの部屋に泊まることも出来たが、残念ながらその余裕はなく、この部屋には無い。

「外に吸いに出たのかな?」

 玄関扉が開いてるのかは分からないが、一階のどこかの窓を開けて吸ってるのかもしれない。
 なかなか帰ってくる様子がないのが心配で、私は上着を羽織った。ちょっと探しに行ってみよう。もし外ならスリッパでは出れないからと、靴を履く。
 爆睡する結衣を起こさぬよう静かに扉を開けて、そっと廊下を覗き見る。深夜だから当然誰も居ないのだが、シンと静まりかえる廊下に、少し足がすくんだ。
 ややあって、どうにか足を踏み出し廊下へと出て、扉を閉めた。
 カチャンと自動で閉まる鍵の音に、なぜか不安を感じる。鍵を持ってないからだろうか。別に扉の向こうには結衣がいるのだ、激しく叩けば起こす事も出来るだろう。まあそんなことしなくても、早苗が鍵を持ってるのだろうけど。
 これからその早苗を探しに行くのだから問題ない、と自分に言い聞かせて私は歩き出した。

 なんだかよくある中世ロマンの漫画の世界のようだ。
 そう思って自分が選んだこのツアー。卒業してしまえばもう二人とはあまり会えなくなる。その最後の旅行に自分の趣味を押し付けるのも気が引けたが……優しい二人が頷いてくれた時は小躍りしたものだ。
 だから誰にも文句を言える立場ではないのだけれど……やっぱりこういった雰囲気は苦手だ。
 一部リフォームされてるとはいえ、基本は古めかしい洋館。散策時のガイド、真殿のあの演出的な表情を思い出して苦笑する。バトラーみたいだなと、凝り固まったイメージでテンションが上がったものだが。今思い出すと、なんとなく恐くなってくる。それこそがガイドの狙いなのだろうけど。
 こんな洋館ツアーにやって来るような人間は、そういう雰囲気を楽しみたいに違いない。きっとツアー会社はそう思ってることだろう。
 私としては、お嬢様気分を味わいたかったんだけどね。

 考えてるうちに一階に着いた。だだっ広い玄関ホールからグルリと周囲を見回す。
 さて、早苗はどこにいるのかな?
 と思った直後。

「あれ、早苗じゃん」

 なんと早苗が食堂の扉前に立っていたのだ。
 食堂か、その奥にあるキッチンの換気扇使ってタバコ吸ってたのかな?
 とにかく見つかって良かったと安堵し、足早に駆け寄る。
 その時だった。

「わ!?」

 何かが足に引っかかり、つんのめる。転倒はどうにか免れたが、一体何につまづいたのだと足元を見て──私は絶句した。
 手があったのだ。
 正確には、肘より先の手だけがあった。肉体などない。ただ手だけが床の上に存在し──それが……その指が……

「ひい!?」

 動いたのだ。カクカクと奇妙な動きで指がうごめき。
 そして──消えた。
 まるで最初から何も無かったかのように、その場から消失したのである。
 何がなんだか分からない。私は夢でも見ているのだろうか?だが踏みしめるこの足、確かに掴まれた足首の感触。それはハッキリ感じた。夢だとは思えぬほどリアルに。

 恐ろしくなって、とにかく早く早苗の元にと顔を上げ、私はまたも言葉を失った。

「早苗──?」

 そこに立ってたはずの早苗が居ないのだ。代わりに開いた食堂の扉。その奥にポッカリと、穴のように暗闇が広がっている。早苗は食堂に入ったのだろうか?

 恐る恐る扉から中を覗く。
 微かに室内が月明かりに照らし出されているものの、その大部分が暗くて見えない。壁をまさぐって照明のスイッチが無いかと探すも、そこにはただ凹凸のない壁が存在するのみ。
 その時、奥の方に何かがあるのが見えた。

 何かが揺れてるのが、見えた。

 勇気を振り絞って食堂内に歩みを進め、目を凝らし──
 それが何かを理解した瞬間、私はその場に尻もちをついた。

 揺れている
 体が揺れている
 天井からロープが垂れ下がり
 そのロープの先に作られた輪に頭を通して
 早苗が

 首を吊って死んでいた。

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