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女子大生三人組

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 心臓がバクバクする。見知った親友であるはずの杏子が目の前に居るだけなのに、彼女が今身にまとう雰囲気のせいで、私は恐ろしさを感じている。いつもの呑気で明るい杏子とは別人のような、青ざめ血走った目の彼女は、本当に同一人物なのだろうか。
 そんなこと考える方がおかしいのに、それでも杏子の雰囲気があまりに異様すぎて、私はそんなことをつい考えてしまった。

「電話、通じないの?」

 そんな私の恐怖に気付いているのかいないのか、杏子は聞いてきた。意外にも声は普通のトーンで、それは私を冷静にする効果があった。
 私は静かに頷いた。

「うん、なんでか圏外になってる。杏子のは?」
「私も駄目、同じく圏外。当然ネットも繋がらない」
「そっか。……無理だとは思うけど、一応早苗のも……」

 早苗がどこに行ったのか分からない。本当に死んでしまったのかも分からない。だが残された携帯が、早苗は確かに一緒に居たのだと、夢や幻ではないのだと告げている。
 勝手に見てゴメンと心の中で謝罪してから、私は早苗の携帯を見た。待ち受けは好きな芸能人のアップ。いつも、テレビでその芸能人を見たと嬉しそうに報告してくれた早苗の顔を思い出し、クスリと笑って。直後、自分の顔が曇るのを感じた。

「やっぱり圏外か……」

 呟いて顔を上げれば、今度は杏子は近くには居なかった。彼女は自分の荷物をあさっている。
 ゴソゴソしたかと思えば、何やら下着を出してきた。

「なにしてるの?」
「汗かいて気持ち悪くなっちゃった。シャワー浴びてくるわ」
「そんな呑気な……ねえ、早苗は本当に死んだの?」
「……死んだよ」

 少し落ち着いた杏子に安心し、本当の事が聞きたくて質問した。問いに対して少しの間があって、回答が寄せられた。

「どこで?」
「食堂」
「首を吊ってたの?」
「そう」
「どうして……」

 その問いに返される答えはない。先ほど言ってた『あいつ』に関する言及もなく、杏子は黙り込んだ。
 まあとりあえず落ち着く必要はあるだろうから、シャワーを浴びるのも良いかもしれない。
 もうすぐ日の出だ。間もなくスタッフが到着することだろうから、早苗のことはその時でいいだろう。正直……早苗を探しに行く勇気は、ない。
 宿直スタッフが数名いるらしいが、どの部屋にいるかなんて知らない。そもそも、部屋の外に出ること自体が恐ろしい。
 全ては明るくなってから行動した方が良いだろう。
 そう考えたところで、少し自分も冷静になれたかなと思えた。思って杏子を見ると、タオル片手にこちらを見ていた。

「浴びてきてもいいかな?」
「あ、うん、どうぞ。私は何か食べようかな」

 近場に店は何もないと事前に説明があったので、お菓子は大量に買ってある。初日は疲れてバタンキューだったから必要としなかったが、翌日の夜から話のツマミになるだろうとふんでいたそれら。甘いチョコ菓子を口に放り込めば、その甘さが眠い体に心地よくしみわたる。

 一口大のサクサクな触感が美味しいチョコ菓子を、もう一つ手に取る。それを口に放り込めようとした瞬間。

ドンドンドンドンッ!!!!

 またも大きな音が鳴り響き、ポロリと手からチョコが落ちてしまった。恐怖に体が硬くなる。

「きょ、杏子……」

 名前を呼んでシャワールームに顔を向けるも、流れ出る水音だけが響いてきた。どうやら杏子は気付いてないようだ。
 ガタガタと体が震えだす。

 その時だった。

「もしもし、もしもし!?お二人ともおられますか!?お連れ様が大変です!!!!」

 扉を叩く音と同時に声が聞こえ、固くなった私の体が一気に力を失う。その場に倒れ込みそうになった。
 声は間違いなく、泊まり込みしてるスタッフの一人。メインガイドの渡部さん、その人のものだったから。
 恐怖の後に聞く見知った声は、たとえ頭髪が薄くなり脂ぎった中年のそれでも、なんと安堵させることか。

 私はホッとしてスリッパに足を突っ込み立ち上がった。
 扉に近付いて返事する。

「あ、あの、渡部さん……ですよね?どうかされたんですか?連れって……早苗のことですか?」
「ああはい、そうです。葉山早苗様が大変なんです!」

 早苗のフルネームを渡部さんが言う。大変と言葉を濁しているが、それの意味するところは一つだろう。杏子が言ってたそれ。

早苗が死んだ──

 その事実を突きつけられるのだろうか。
 ゴクリと知らず喉が上下する。
 開けたくはなかった。開けてしまえば、その事実を渡部に聞かされることになるだろうから。
 けれど開けないわけにはいかない。だって早苗は親友なのだから。大切な友達なのだから。

 だから私は扉に手をかけた。
 カチャリと音を立てて鍵が開き、私は静かに扉を動かす。

 夜のとばりが未だ下りたまま。スタッフといえど起きるにはまだ早いであろう深夜と呼べる時間帯。
 なぜスタッフの渡部が早苗に関する話をしに来たのか。
 そんな事を考えることもなく。

 私は、扉を開けた。

 開けて しまった

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