【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール

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女子大生三人組

4、

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ダンダンダンッ!!!!

 激しい音に、眠っていた私は一気に覚醒した。
 なんだ?と目を開けば、室内はまだ暗い。日の出前の時間に一体なんだというのだろう。
 そう思って目をこらして、息を呑んだ。隣のベッド二つがもぬけの殻なのだ。寝ていたはずの友人──早苗と杏子がいない。
 どうして?そう思った直後。

ダンダンダンッ!!!!

 再び、大きな音がした。音の出どころはすぐに分かった。扉だ。部屋の扉を誰かが叩いてる。
 恐くなって身を固めたら、怒鳴り声がした。

「結衣!開けてお願い!早く……早く開けて!!!!」
「……杏子?」

 それは間違いなく杏子の声だった。切羽詰まった声に、私は慌ててベッドから飛び降りて扉に向かう。
 鍵を開けた直後、倒れ込むように杏子が入ってきた。なんだと思う間もなく、床に倒れ込んだ杏子が顔だけ振り返り叫ぶ。

「閉めて!」
「え?」
「扉を閉めて!早く!!」

 なんなのだと思いつつ、勢いに圧されて急ぎ閉めた。
 直後──

ドンドンドンッ!!!!

「え!?」

 またも扉の向こうから何かが叩く音がしたのだ。身をすくめ立ち尽くす。音はしばらく続いたが、ややあってパタリと止んだ。

「な、なんだったの……?」
「開けちゃ駄目!あいつが入ってくる!!」

 扉に手を伸ばしたら、杏子がその手を掴んできた。それは驚くほどに強い力で。

「あいつ?あいつって誰のこと?」
「あいつはあいつよ……」

 私の問いに答えはするも、杏子の目は私を見てはいない。落ち着きなく宙をキョロキョロ彷徨わせたかと思えば、床を睨みつけてガジガジと爪を噛む。苛立たし気な表情は、よく見れば恐怖に染まっている。

「意味が分からないわ、ちゃんと説明してよ。それと……早苗は一緒じゃないの?」

 早苗の名前を口にした瞬間、ビクリと体を震わせた後、ようやく杏子は私の顔を見た。大きく見開かれた目は、血走っている。

「ちょっと杏子、あなた本当に大じょ……きゃあ!?」

 大丈夫なの?そう問おうとした私の言葉は阻害される。杏子が私の両肩をその手で掴んできたのだ。
 肩に食い込む爪が、その強さを物語る。

「ちょ、杏子、痛い!」
「……んだ」
「え?」

 私の両肩に手を置いたまま、俯き、杏子は何かを呟いた。よく聞き取れなくて顔を近づければ、バッと杏子が顔を上げる。その血走った目が、私の視界を埋め尽くす。

「早苗は……死んだ」
「え!?な、何言ってるのよ杏子」
「首を吊って死んだ。早苗は死んだ……あいつに殺された」
「ちょっと落ち着きなさいよ。首を吊って死んだ?自殺なの?でもあいつに殺されたって何…(ドンドンドンッ!!)…ひい!?」

 突如響き渡る音。それは先ほどと同じ、扉を叩く音。私と杏子は身を固くして、扉の方を凝視する。
 だが音は続かず、シンとまた静寂が場を支配した。ホウと大きく息を吐いたのは、私か杏子か二人ともか。
 杏子は私の肩から手を放し、その手をブランと垂れ下げたまま、放心したかのように焦点定まらずただ目を血走らせる。

「殺される殺される殺される……私達、あいつに殺されるんだわ……」

 ブツブツと物騒なことを呟く杏子。正直、私にとっては今の杏子の方が恐い。
 一体どうしてしまったのだろうか。今回の旅を計画したのは杏子だというのに。彼女が望んだ目的地に、私と早苗は頷いただけなのに。
 眼鏡っ子でちょっぴりオタク、なんだか憎めない可愛い子。それが杏子という子だったはず。
 何が彼女をここまで変えてしまったのか。

 早苗が死んだと杏子は言った。それが本当だとしたら、その死を目の当たりにして杏子はおかしくなってしまったのか。
 扉を叩く者の正体は分からないまでも、何やらまともではない状況であることは、なんとなく理解できた。
 そもそも三年生時に卒論を終え、早々に就職も決まり、新生活に目を輝かせる前途洋々の彼女が自殺するとは思えない。となれば、考えられるのは殺されたということ。
 ツアーの関係者か、外部からの侵入者か分からないが、危険人物がいるのかもしれない。
 となればだ、私にできる事は一つだけ。部屋から出ずに、警察に電話するということ。ここは山奥だが、かろうじて電波が届いてることは確認済みだ。就寝前に到着した旨を親に伝えていたのだから。

 私はベッドサイドに戻って自分の携帯を手にした。だがその画面を見て、我が目を疑った。

「嘘、なんで圏外……!?」

 電波は安定していたはず。なのにそこに表示される文字は、確かに圏外とある。どうして?
 訳が分からず、杏子の携帯はどうかと聞こうと顔を上げ──

「ひ!?」

 悲鳴が喉をついた。
 血走った目が目の前にあったのだ。

「きょ、杏子!?驚かせないでよ!」

 それは杏子だった。音もなく──いや、自分が気付かなかっただけなのかもしれないが、いつの間にか目の前に杏子がいて、私の顔を覗き込んでいたのだ。
 携帯ではなく、私を見ていたのだ。

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