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しおりを挟む私は未だ項垂れたままの父の視線の先、床の上にポンと書類を一枚置いた。
虚ろな目をした父はその紙に目を通して──ギョッとした顔で私を見るのだった。
そんな父に私は笑みも何もない、無の表情を向けて言った。
「お姉様がリラの家族を誘拐・監禁する案を考えたそうですが、お姉様の命のもと、実行犯に依頼したのはお父様だそうですね」
侯爵家ともなれば、それなりに裏家業へのツテがある。だが父がそれを出来る存在などたかが知れてるのだ、調べは簡単についた。
関わった者達からの証言はボロボロ出てきた。
実行犯たちも重い罪になるが、それでも依頼主に関する情報を提供するなら多少なりとも罪は軽くなる……かもしれない。と言えば、簡単に、実に簡単に証言を得る事ができた。そうオーバン様から話を聞いたのは先日のことだった。
誰も父や姉を庇おうとはしないのね。まあ当然でしょうけど。
「というわけで、お父様もそのように刑が決まりました」
「な、な、な……!」
言葉を失う父の目線の先。一枚の書類には、書かれていたのだ。
お父様の罪とお父様への罰が。
「おめでとうございます、死ぬまで永久に牢屋生活です」
「な──!!」
「良かったですねえ、平民生活だとお仕事しないと生きてけませんが。牢屋生活なら無職でも生きていけますよ」
まあかなり過酷な状況だとは思いますけどね。
不衛生極まりない牢屋で、一日に何度あるかも分からない食事。その食事内容も貧相極まりない。
陽の光もろくに入らない牢屋生活で。
はたして何年、貴方は生きられるでしょうねえ?
最後の言葉を告げたところで、遂に父は嗚咽を漏らし始めた。
それはどんどん大きくなり。
オーバン様の合図のもと現れた騎士に腕を掴まれた瞬間、遂にこらえきれずに大声で泣きわめくのだった──。
「最後までなんと見苦しい……」
そんな父の様を忌々し気に見やるのは、誰あろう父の兄──ノウタム伯父様だった。
彼とてあんな弟でも少しは情があっただろう。
けれど私が見習うべき公爵家当主は、己の感情よりも公爵としての責務のもと、実弟を無情にも断罪するのだった。──父の罪を王に訴え、処罰を願い出たのは、私ではない。伯父様が自ら進んで行われたのだ。
私もまた、なんだかんだ言っても父への情を消すことは出来ない。
だが私もまた侯爵家当主として、冷酷にならねばならない。それが無理なら私も貴族と言う立場を捨てる覚悟を持たねばならないが……残念ながら、それ程の価値は父にはなかった。
腕を掴まれ、騎士に連行される父。
バタンと扉が閉まる直前。
「さようなら、お父様──」
私の呟きが父に届いたかどうか分からない。
ただ、私に出来るのは、閉じた扉の向こうからも未だ聞こえる、父の泣き叫ぶ声を耳にしながら。
自嘲めいた笑みを浮かべることだけだった。
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