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第一部
4、吸血鬼とお屋敷(1)
しおりを挟む「遠いわ!」
馬車に揺られて数日。
これ以上進めないと言われて、木々が生い茂った森を歩くこと数時間。
あまりに遠い道のりに、さすがに叫ぶわ!
あれか、吸血鬼公爵はもう隠居生活でもしてんのか!
想像の中の吸血鬼がどんどん老けていく中、ヘロヘロになって歩き続ける。
そうして想像の公爵がすっかりお爺ちゃんになった頃。ようやく見えてきた公爵家のお屋敷!
わ~お、吸血鬼が住むに相応しい、おどろおどろしさを醸し出してるね!
「ひ……」
まるで絵物語に出て来る化け物が住みそうなその佇まいに、背後のメイド──エミリーが小さく悲鳴を上げた。
気持ちは分かるけれど、公爵の前でその態度はやめてね?……あなたの命が危ないから。
余計に怖がらすだけだし、可哀想だから言わないけど。
公爵家に嫁ぐと決めた私に有るのは──少しの荷物と昔からの私付きメイド一人のみ。
……最後までいい根性してやがるよね、あの親父。
いいけどね。家の会計握ってた私が逃亡資金をコッソリ用意するなんて、簡単な事だったし。荷物は少ない方が動きやすいし。
本当はとっととトンズラするつもりだったけど、実家はともかくとしても領民が心配で。
公爵の人となりをある程度見極めてから、領民が大丈夫そうなら逃げることにした。
……逃げるまでに血を吸われて殺されかねないので、護身術はバッチリさ!ニンニクと十字架、聖水の用意もバッチリだぜ!
そうして二人きりで荷物も少ない花嫁は、公爵家の扉の前に立ちましたとさ。
さあ、これからが勝負よ!
意気込んで、ドアノッカーに手を伸ばしたら……
バンッ!!!
「へぶぅっ!!」
見事に扉が顔面にヒットした!
痛い!
「だから結婚などしないと言ってるだろうが!俺は会わんぞ!来たらとっとと帰ってもらえ!」
「何をおっしゃいますか!いつまでも身を固めずフラフラと……後継ぎもなく、公爵家を絶やす気ですか!?」
「だーかーら!いつかはするさ、いつかは!でも今はまだいい!」
俺はしばらく留守にする!
そう叫ぶ声と共に、私の鼻を真っ赤にした犯人がこちらに顔を向けて。
固まった。
私は痛む赤鼻を押さえてた手を下ろし、ニッコリと微笑んだ。
そしてうやうやしく礼をとる。
「お初にお目にかかります。ファインド伯爵家が娘、フィーリアラ・セラス・ファインドと申します。以後お見知りおきを」
サラッと自己紹介してみたけれど無反応。いや戸惑ってるのかしら?
さて……どうしよう?
状況から見て、この方が吸血鬼公爵よねえ。
そう思ってジロジロと検分する。
首の後ろで一括りにした長髪はパッと見ただけでもビロードのような美しさが見て取れる黒髪。
驚愕で見張られた瞳は切れ長で美しい一対となっていた。
すっと筋の通った鼻に整った唇。肌は驚くほどに白いけれど、別に顔色が悪いとか不健康そうとかではない。健康的に白い、と言うのがしっくりくるかもしれない。
この世にこれほど稀有な存在があるのかと思えるような美貌の主は、今驚愕の目で私を見ている。
その赤い双眸を──確かに吸血鬼なのだと納得してしまうほどに、血のように赤い目を見開いている。
なんて美しい人──
思わずその瞳に魅入られる。
そして心の中で叫んだ。
\超タイプなんですけどー!/
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