吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

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第一部

3、吸血鬼と婚約破棄された令嬢(3)

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「おま……!ふざけんなよ!」
「いだだだ!やめてフィーリアラちゃん!髪が、髪が抜けるぅぅ!!」

 抜いてんだよ!
 痛がるのを無視して、私は父の髪を引っ張り続ける。

 そりゃ怒るわ!
 よりによって……何で、何で!

「吸血鬼公爵ですって!?お父様は私を殺す気ですか!?」

 吸血鬼ってー!

 ランディ公爵──またの名を吸血鬼公爵と言う。

 なんでも古代吸血鬼の末裔だとか。
 強大な力を持った始祖は、人間との間に子をなした後、伴侶の死と共に姿を消した。

 生まれた息子にもまた、強大な力が受け継がれたという。

 その力は魔物をも凌ぎ、かつて大挙した魔王の軍勢を退けた。
 また、国同士の戦争の際に、一人で敵国に乗り込んで滅ぼしたとか。
 そんな伝説まである存在だ。

 たしか今は3代目の公爵となる。つまり始祖の孫、だ。
 気の遠くなるほど昔に存在した始祖の、まだ孫なのだ。
 公爵となって一体どれほどの年数が経ってるのか、正確な事は分からない程だと聞いた。

 そしてそんな吸血鬼公爵の花嫁とは、それすなわちその身を捧げることに他ならない。
 吸血鬼公爵の名のままに生き血を吸われ、最後は干からびて息絶える──それが誰もが知る、けれど隠蔽された事実だ。

 ただしそんなことを頻繁に行われては公爵も危険分子扱いされていたことだろう。
 百年に一度の事だからと、王家も目を瞑っているのだ。

 そして今年がその百年に一度の事、だという。

 そんな花嫁という生贄に私を差し出すだあ?
 お前それでも親か!
 散々家のために頑張ってきた私に対する仕打ちか!

「禿げろ!禿げて私に詫びろぉぉっ!」
「いや~~~!や~めてぇ~え~!」

 この馬鹿親父はきっともうOKの返事をしてるに違いない。そして公爵家相手に言ったことを覆せるわけもなく。

 もし怒りを買うような事になったら、きっとお家断絶……

 あ、待てよ。

 ここで私はふと気付く。

 断絶良くね?こんな家滅んでも良くね?

 禿げ予備軍な父は禿げ、お花畑な母は畑をいじり、お馬鹿な妹はお馬鹿に地に這いつくばる。

 いいんじゃない?良いんじゃない!?

 なんか楽しくなってきた!ワクワクしてきたわ!

 よし、そうと決まったら
「仕方ありません。ランディ公爵様の元へ嫁ぐ事に致します」
 宣言しちゃうよ!

 急に髪を引っ張るのをやめて大人しく受け入れた私を訝しげに思いつつも、気が変わるのは困ると思ったのだろう。

「ありがとう、流石フィーリアラちゃん!大丈夫、君なら血なんて吸われることなく公爵に気に入って貰えると思うよ!」

 なんて調子のいいことを言ってきた。

「そうよ、フィーリアラちゃん。いくら吸血鬼公爵でも後継ぎは必要なんですから。きっと貴女との子を欲しいと公爵様も思われるはずよ。なんてったってフィーリアラちゃんはとっても美人なんですから!」

 と、母も乗ってくる。

 まあね、自惚れでも何でもなく、実際私は美人だと思います!
 顔だけはいい両親の元に生まれましたからね。顔だけは!ここ強調。

「そうですわ、お姉様。顔だけは良いのですから、しっかり吸血鬼公爵を誑かしてくださいな。そして私達のために、貢がせてやればいいのですわ!」

 ……何だろうな、自分で思ってても人に言われるのって何か腹立つよね。それが妹となれば尚更。不思議。

 同じく顔だけは良い妹ウェンティは、ニコニコ無邪気笑顔で応援(?)してくれた。

 ほんとお前、結構酷いこと平気で言うよね。
 さすがに誑かして~とか考えないわ。ないわあ。

「そうだね、フィーリアラなら逆に吸血鬼公爵の血を吸っちゃうかもしれないもんね。大丈夫大丈夫」

 お前の血を吸ったろか!

 ふざけた事をぬかす元婚約者に殺意を覚えた私をお許し下さい。

 よし、いいだろう。吸血鬼公爵の元へ行ってやろうじゃないか!

 ……違う。

 行くフリをして逃げてやる!
 そして怒った公爵にこの家を滅ぼしてもらおう!

 人生最大の選択肢は、こうして決定したのだった。


 
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