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第一部
13、吸血鬼と甘い時間(1)
しおりを挟む嘘おぉぉっ!
私の心の叫びは誰にも届かない。
私の視界は公爵の黒い服しか映さなかった。
モゾモゾと腕の中の存在が動いて、ハッとなる。
「ぜ、ゼル様!ランちゃんが苦しそうです!」
だから離して!
「……嫌だ」
ちょっとぉぉぉ!!
離す気は無いとばかりに、腕に力が入る。
……ランちゃんが苦しく無いように隙間をあけるとか、器用な事をしながら。
それでも嫌々とばかりに、ランちゃんは手から床に飛び降りて離れて行ってしまった。更にリン君も飛んで行ってしまう!
のおおおぉっ!!!
加減しなくていいと理解してしまった公爵の腕が強くなってる~!
ギュムッと抱き締められてるぅ!
自慢じゃないけど、恋愛のれの字も知らずに生きてきました!
婚約者のレイオンとはそういった感情無かったから、甘い雰囲気など皆無だったし!
外見に釣られて寄ってきた殿方も、少し会話しただけで引きつった笑顔と共に離れて行ってしまった。
こんな!抱きしめられるなんて!
経験したことありません!
どうしたらいいの!?
と、パニクる頭を必死に動かす。
……あ!そうだ、エミリーが居たんだった!
エミリー!主人の貞操の危機ですよ!助けてぇ!!
と、チラリと視線を投げてみれば。
「おや、お掃除してくださるんですか?えーっと……」
「エミリーと申します」
「失礼しました。エミリーさん、僕も手伝いますよ。散らかってるでしょう?何から手を付けたらいいか分からなくて」
「さん、は要りませんよ。そうですねえ、酷い状況ですが、書類やら何やらが散乱してたお嬢様のお部屋よりはマシですよ~」
エーミリィィィィ!!
「そうなんですかぁ?うちも主が酷くって」
「そうなんですね。お互いに大変な主人を持ちましたねえ」
あはははは
うふふふふ
っておぉい!
なに楽しげに会話してるんですか!
なに急速に仲良くなってるんですか!
って、なんでどっか行こうとしてるのぉ!掃除道具なんて今取りに行く必要無くない!?
エミリー、ヘルプミー!
……えみりーへるぷみー
語呂がいいな。
とか現実逃避的思考を展開してたら
「どこを見てるんだ」
って顔を掴まれた!
顎掴まれた!
アゴクイッてされたぁぁぁぁ!!!
「ぜ、ゼル様、落ち着いて……」
真っ正面に見据えた公爵は。相変わらずのイケメンを、ワインのせいか心なし赤くして。
トロンとした目で私を見つめていた。
近い近い近い!
何とか離れようと押してみるけどビクともしない。吸血鬼つよぉい!
「……わいい」
「はい?」
またなんか呟いてるし。
わい?ぜっと?なに?
諦めて力を抜いたら、フッと笑われた。
「!!!」
イケメンの笑顔!それ反則!
ただでさえ近い顔が私の心臓を激しくしてるのに。
もう息も出来なくなりそう。
バクバクと心臓がうるさい。
「可愛いな……」
「はい!?」
ようやくハッキリ聞こえた公爵の言葉。
でも我が耳を疑った。
え、なに言ったの今。
可愛い?可愛いって?
……耳、おかしくなったのかな。
「可愛い……」
聞き間違いじゃなかったね。
確かに聞こえた呟きと共に。
公爵は、そっと優しく……
私の頬に口付けた。
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