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第一部
14、吸血鬼と甘い時間(2)
しおりを挟むほぉぉぉぉっっっ!!!
けしてフクロウになったわけじゃないよ。
頬!ホッペ!ほっぺにぃぃぃ!!
確かに感じた柔らかな感触。
間違いない、キスされた。
……キスされたー!!!
鏡を見なくても分かる。私の顔は真っ赤っかだ。
「な、何を……」
何をするんですか!?
本当は無礼だと引っぱたくべきなんだろうけど。
ライフゼロの私は動くことも出来ない。
出来るのは口をパクパクさせるだけだ。
それを見て、また優しく微笑む公爵。
だからそれ反則だからぁ!
恥ずかしくて涙を浮かべてると、舐め取られた。
…………って、ええぇぇぇ!!
もうやだこの酔っ払い!
格上の公爵だとかもうどうでもいい、引っぱたいてやる!
そう思って手を動かそうとしたら、公爵の口が先に動いた。
「本当は結婚なんて乗り気ではなかったんだ。こんな私を好きになる者など居るはずも無い」
その内容に、動きかけた手が止まってしまった。思わず聞き入ってしまう。
「お祖父様も父上も……愛する伴侶がいる喜びをよく語っていたが……どうにも私にはピンとこなかったんだ」
それはつまり、あれだろうか。
長い長い時を生きる吸血鬼。
愛する者と出会えても、けして長くは一緒に居られない。
愛する者だけが老いて居なくなる悲しみもまた、見てきたからだろうか。
「だから私は生涯一人でいいと思っていた。こんな血は途絶えさせた方がいいと思っていた」
それは悲しい決意だったのだろう。公爵の声に寂しげなそれが滲む。
思わずギュッと公爵の服を握り締める。
そんな寂しげに言わないで。泣きそうな目で言わないで。
──なぜだか胸が締め付けられる。
「けれどそれは違った、間違っていたんだ」
不意にその声音から悲しみは消える。
真っ直ぐに私を見つめて。
公爵は静かに語る。
「こんなにも幸せなんだと知った。愛する者が居ることはこんなにも嬉しくて幸せなんだと……ようやく知った」
「え……」
言われた内容に理解が追いつかず、公爵の顔を見つめ返す。
そこには幸せそうな笑顔で私を見つめる吸血鬼が居た。
愛しげに私を見つめる赤い瞳──
え……え……ええ!?
今愛する者とか言った!?
え、なに、誰!?誰のこと!?
え え えええ!
これは自惚れて良いのだろうか。
私は良いように解釈して良いんだろうか。
まだ会ったばかりなのに。今日会ったばかりなのに!
私は、自分に都合の良いように公爵の言葉を解釈していいのだろうか?
戸惑ってもう一度公爵の顔を見ようとしたら。
柔らかいものが触れた。
掠めるように軽く。
柔らかなそれが。
公爵の唇が。
私のそれに。
く、く……唇に!
一瞬だったのに感触がまだ残ってる。
微かなワインの香りと共に残ってる。
柔らかいそれが、私の唇に当たって
あたって
あ、あた……
あた…………
「ほぁたぁぁぁ!!!」
叫びと同時。
公爵の顔面に、私の拳が見事にクリーンヒットしたのだった。
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