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第一部
15、吸血鬼とキツネ
しおりを挟む「なるほど、つまり全く税収が無いと」
「ええ、うちの領地と言えば、だだっ広い森だけでして」
「領地は実家の三倍以上……無駄に放置は勿体ないなあ。木々が荒れ放題だったから、整備して通りやすくして……。ちなみに買い物はどうやって?」
「あの……」
「まあそこはあれですね、私の特技を活かして……」
「え、狼に変身して行ってる?自由に変身できるの!?」
「あの、フィーリアラ……」
「満月の夜だけとか今時流行んないですよ。時代は動いてるんです、狼男だって進化しますよ」
「……進化に流行る流行らないってあるの?でも、一度変身した姿を見てみたい!」
「フィ、フィーリアラさん……あの……」
「公爵うるさいです」
「ゼルストア様、うるさいですよ」
最後はヨシュとハモった。
ピシャリと冷たく言い放てば、半泣き顔の公爵。
う……ここで甘やかしてはいけないという思いと、もういいかなと許したくなる自分が葛藤している。
公爵家お屋敷にやって来て早1週間。優秀なメイド、エミリーのおかげで大分片付き綺麗になってきた。
ならば私も私でやるべき事をしなければと、ヨシュに公爵家の経済状況やその他諸々を聞いている段階だ。
そして公爵へは絶賛怒りによる無視進行中。
「私は確かに嫁候補としてこの屋敷に来ましたが、まだ貴方と結婚すると決まったわけではありません!婚約もしてないのに、こ、こんな破廉恥な……!」
と雷落として公爵無視してます。
なのだけど。
めげない公爵が必死で話しかけてくるから許したくなってきた。
……シュンと落ち込む様子にキュンとなる私は、実はSの気があるのかしら。
「ゼルさ……じゃなかった、ゼルストア様は邪魔なんでどっか行っててくださいよ」
ヨシュがシッシッと手を振るけど、公爵はそれには強気にツーンとしてる。
ちなみにヨシュがわざわざ言い直したのには訳がある。
ゼル様と呼ぶと機嫌が悪くなるからだ。
なんかね、もうその呼び方は私だけの特別な呼び方なんだってさ。
特別になったので、ヨシュは駄目ー!だってさ。
子供か!
でもハイハイと素直に聞くヨシュは大人だ。伊達に数百年生きてない!
「初代もその息子である先代も、似たようなこと言ってましたんで~」
て言ってたけど、吸血鬼どんだけ器小さいの!ちょっと引くわ!
……まあ特別な呼び方を許可された身としては嬉しいような
サワサワサワ……
くすぐったいような
フワフワフワ
くすぐ……
モフモフモフ
くすぐったいわ!
私は思わず膝の上に座る存在を見やった。
「み、ミン……くすぐったいわ」
「キュ?」
ミン……それは椅子に座る私の膝に乗る、全身茶毛で尖った耳、犬より細く出た鼻と口、細い四つ足にフワッフワの太い尻尾を持った……
キツネ!
最初に見た時は緊張したけれど、とても友好的で優しく大人しいと分かった瞬間──飛び付いたわ!
モッフモフの尻尾、堪能しまくったわ!
カワウソは居なかったけどキツネはいた。もう幸せ!モフモフ最高!
そんなミン(そこは「ルン」じゃないのね)が今は私の膝に乗って……そのフワモフな尻尾を動かして私の腕や顔に触れるのだ。
ふおおお!気持ちよすぎて仕事に集中出来ない!でも下ろしたくない、もう少しこのままでー!
私が喜んでるのが分かったのだろう。
ミン──ちなみに男の子らしい──が、更に激しく私の体に尻尾をこすりつけてきた。
「や……これ、ミン……くすぐったい……ん……」
「うおおおあぁぁっっっ!!」
あれ、なんか公爵が泣きながら出て行ったんだけど。何で?
「……ヘタレ……」
呆れた声でヨシュが何か言ってるけど、私は首を傾げるだけだった。
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