29 / 40
第一部
28、吸血鬼と悪妹の姉
しおりを挟む時刻は深夜。
ウェンティの気配がしないか気にしていたはずなのに、いつの間にか寝そうになっていたようだ。
コックリコックリと……夢が始まろうとしていた、まさにその時。
『ぎゃぼう!!??』
突然響いた悲鳴に、私の意識は一気に覚醒した!
「え、何!?」
飛び起きて、慌ててベッドから降りる。上を羽織って廊下に飛び出した。
右見て左見て、でも何ら変化ないように見えるのだけど。
「まさか……!」
考えたくないけど、予想の範囲内。
私は悪妹の部屋へとダッシュして、そして、バンッと勢いよく扉を開いた。
「……いない」
案の定、そこはもぬけの殻。
すぐさま踵を返すと、私はまたもダッシュした。
確信を持ってそこへ向かう。──公爵の部屋へと。
部屋の前まで来ると、既にヨシュが来ていた。何だか困った顔で部屋の中を見ているようだ。
走るのをやめて、私は歩いて近づく。
「ヨシュ、今のは何?」
「あ、フィーリアラ様!えっと、あのですね……!」
何だか私を見て慌てふためいてるようだけど。
なぜ私の前に立つの。
なぜ通せんぼするの。
「ちょっとヨシュ、通れないわ……退いてちょうだいな」
「あーえーっと、今公爵は取り込み中でして~」
なんつー怪しい。
怪しんでくれと言ってるような態度のヨシュに、知らず眉が寄る。
「ヨシュ……」
「はい!」
私は彼を睨んで、おもむろに右手に握ったものを──投げた!
「取ってこーい!」
「わおーん!」
うむ、やはり狼を釣るのは肉だわね。
骨付き肉を投げたら、思わずヨシュはそっちに向かって走り出した。
「どこから出したんですかー!」とか叫びながら肉を追うな。
食べ物を投げてごめんなさい。
お肉に心の中で謝って。
私は公爵の部屋に足を踏み入れた。
そこで見たものは──
「ふぃ、フィーリアラ!いやあの、これは、その、だな……!!!!」
あわあわと慌てふためく公爵可愛い。
じゃなくて。
「これは一体、どういう状況ですの?」
扉の真横の壁。
そこに背を預け座り込んだ状態の。
「────え~……」
私は絶句してしまった。
ピンクの!べ、べ……ベビードール(!)を着たピンク頭が……!
鼻血を出して。
白目向いて。
気を失っていたのだった。
「…………なんですの、これ」
たっぷり間を置いて質問しましたわ。
絶句。
ほんと何があったのこれ。
いや、何となくは分かるよ、妹のこんな姿見たら。
どうせ夜這いかけたんだろーなー。
イケメン公爵に惚れて夜這いかけちゃったんだろーなー。
お姉ちゃんは悲しいよ。けして予想を裏切らないお馬鹿な妹の行動に。
予想が当たってもなんも嬉しくないわ、これ。
私はしゃがみ込んで間抜けな妹の様を見て……溜め息をついた。
「ふぃ、フィーリアラ!ちちち違うんだコレは、違うんだ!」
公爵が泣きそうな声で必死に言いつのるのを聞きながら。間抜け顔の妹を見てると、こう……無性に……
「けしてキミの妹と不埒な行為をしたわけじゃないんだ!何もしてない、いやしたのか、いやそれは殴ったという意味で……けしてキミへの気持ちを裏切るようなことをしたわけでは……て、フィーリアラ何してるの」
「あ、思わず」
何処からともなく出したペンを片手に。妹の顔に落書きしようとしてた自分の手を、慌てて止める。
いやでもこれ、誰でも絶対書きたくなるって!こんな間抜け顔見たら書きたくなるって!
「ちょ……こ、これだけ……」
駄目だ理性が勝てない!私の右手が言うことを聞いてくれない!
「……ふう……まあ、今日はこれくらいで……」
オデコに文字を書くのは止めてあげるわ。ホッペにグルグル渦巻きで勘弁してやろう!ヒゲは……うん、ダメダメ。一応伯爵令嬢の私が、そんな……ヒゲの落書きなんて……く……!
どうにか理性が勝って、ヒゲはやめておいた。
ひと仕事終えて、満足げに私は額の汗をぬぐう。ふー、いい仕事出来た!
それから立ち上がって、私は公爵の顔を見た。私に怒られる、嫌われると不安そうな泣きそうな顔の彼を。
そんな彼を安心させるべく、私は彼の顔にそっと両手を添えた。
「大丈夫ですよ、ゼル様。ウェンティの行動は想定内です。けしてゼル様を疑いはしませんよ」
ハッキリ言われたわけではないけれど、まあ……さすがに。公爵の私への好意はあからさまで。
妹と過ちがあるなど、絶対に疑うことはない。
「そ、そうか……」
心底ホッとした顔に、微笑みを返す。
すると、両手を包まれてしまった。
「そやつに『ゼル様』と呼ばれて、つい頭に血が上ってしまったんだ。もうその呼び方は……キミ以外には呼んで欲しく無いというのに……」
ああなるほど。公爵のこだわりなんですね。長年そう呼んできたヨシュにまで止めさせる、徹底ぶりですもんねえ。
……て、握り締めた私の手に口付けないで下さい!恥ずかしくて爆発するわ!
照れること無くサラッとそんなこと出来てしまうの凄いですね!
部屋の照明は薄暗いから、私の顔が赤くなってるの分からないよね。多分……
そうして暫しの沈黙の後。
私の手から唇を離した公爵は、熱い目で──暗くてもハッキリ見える赤い、情熱を持った目で私を見つめてきた。
ん?何だろ、何か……何も言えない雰囲気だな、これ。
何も言えない私は、黙って公爵の言葉を待つ。
多分……私が予想している、その言葉を。
「フィーリアラ……私は……」
「これはこれは。全くもって予想外、けれど面白い事になってるようだね」
その時。
完全なる想定外、予想外の声が、部屋に響き渡るのだった。
===作者の呟き=================
ラブ、ラブが欲しい!イチャラブ書きたい!(壊
21
あなたにおすすめの小説
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜
咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。
全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。
「お前から、腹の減る匂いがする」
空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。
公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう!
これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。
元婚約者への、美味しいざまぁもあります。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる