吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

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第一部

29、吸血鬼と侵入者

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 突然の声に驚いて顔を向ける。

 部屋の外、ベランダに佇む男が一人。……ここは二階だというのに、どうやって上がったのか。

 短い髪は暗闇の中で分かりずらい黒。オールバックにしてるせいか年齢が分かりにくい。

 整った顔立ちは、色白のせいか髪に比べて奇妙に闇に浮かび上がって、不気味さを醸し出していた。
 白いシャツはラフに第二ボタンまで開かれている。にもかかわらず、なぜか気品を感じさせた。

 何より目を引いたのは、その目。
 闇に浮かぶそれは、血の様に赤い──公爵と同じ色を持っていた。

 コツリ

 足音を響かせて、男が部屋に入ってくる。

「いやほんと、面白いものが見れ──」
「くせ者ぉぉぉっ!!!!!」

 なんか分からんが、優雅に話をさせてたまるかぁっ!
 私は近くにあった分厚~い本を、おもっきし……投げた!!

 鈍い音と共に「ぐおっ!?」と変な声を出して男は倒れる。ナイス私!素晴らしいコントロールに惚れ惚れするわ!

 いきなり人んちのベランダに現れて、無断で侵入してくる。
 これ、どう見ても不審者!犯罪者!異常者!変人!変態!

「最後の方はちょっと違うような……」

 ツッコミ担当ヨシュがいつの間にか私の横に立っていた。取ってきたお肉は右手にしっかり持ってるのね。綺麗にしてから焼いて食べようね、それ。

「どう見ても犯罪の匂いしかしないわよ、これ」

 これ、と言いながら、近くにあったポールハンガーを手に、ツンツンする。動かないわね、やだ、死んだのかしら。

「どうしよう、これ」
「あ~……フィーリアラ様、まずいですねえ。これは……」
「これは?」
「王家ですねえ」

 聞き返す私に、言いにくそうにヨシュがボソッと言った。

「おーけ?」
「王家」
「おーけー?」
「王家」
「おっけー?」
「いやだから王家」

 なんとしても認めたくない脳が拒否するのか。
 言葉を受け入れるのに時間がかかってしまった。

 おーけ、おうけ、王家……

「王家!?」
「オッケー!」

 ようやく認めた私に、ヨシュがグッと親指立ててニカッと笑った。いや笑うとこじゃないからこれ。

「次期国王……王太子のゼンソンだな」
「全損……なんて恐ろしい響き」
「フィーリアラ様、今絶対漢字にして考えたでしょ」

 公爵が教えてくれた名前に戦慄を覚えていたら、ヨシュが苦笑しながら言ってきた。よく私の考えが分かったわね。てか漢字とか言うな。

 努めて冷静を保って、私はもう一度床に寝そべるそれを見た。

 うーん、そもそも私は領地に閉じこもってたからなあ。王族なんて見た事ないし。公爵やヨシュがそう言うならそうなんだろうけど。
 にしても、なんで……

「どうしてこの人、目が赤いんでしょうか?」

 この世界において、人に赤目は存在しない。茶系とかが稀に赤みが強い場合もあるけれど。血の様に赤い目を持つ、それ即ち──吸血鬼である証となるのだ。

 今の国王夫妻は共に普通の人間だ。会った事なくてもそれくらい知っている。てことはどちらかが不貞を働いたのか、それとも養子なのか──?

 首を捻っていると、公爵が私からポールをとって、自らツンツンし始めた。やりたかったんですか、それ。

「こやつは、いわゆる先祖返りというやつだ」
「先祖返り?」
「どうやら王家に嫁いできた王妃に、その血が流れていたようだ。遠い遠い、もはや力も何も受け継がれぬ程に遠い先祖に吸血鬼がいたのだろうな。それが突如現れたというやつだ」

 つまり、紛れもなく国王夫妻の息子だけど、先祖返りで吸血鬼の力を手にしたと。

「多くはないが稀にあるらしい」
「そうなんですね」

 じゃあ血を飲むのかな、この人。先祖返りってどこまで返ってくるんだろうか。聞いたことないので、ちょっと怖いなあ。

 と、恐る恐るその顔を覗き込んでみる。
 公爵とはまた別の始祖を先祖に持った王太子は、けれど目を閉じていてもどこか公爵と見目が似てるように感じた。

「まあ吸血鬼はどれも美形ですからねえ。それも似たような美形なもんで、ある意味面白くないんですよ」

 美形に面白い面白くないとかあるのかな。まあ確かに美形なんだろうけど。

「確かに美形ですけど、ゼル様とは全然違いますよね。私はゼル様の方が断然好み……」

 言いかけて口を閉じる。なんかキラキラした目で見られてるのを感じたから。

「フィー……」
「あーっとこの人、何しにきたんでしょうねえ」

 公爵の手をかわしつつ、もう一度その顔を覗き込んだ。今はイチャイチャしてる場合ではないのですよ、公爵。

 もはや忘れそうになってる妹といい、この王太子といい。厄介ごとが山積みなんですから。

「フィーリアラ様、あまり近づかない方が……」

 何か危ないもの持ってないかなと近づいたところで、ヨシュが静止するのが聞こえた。
 まさにその瞬間。

 ガッと腕を掴まれた!

「ふえ!?」
「フィー!」

 いやいつからその呼び方に!?
 というツッコミを言う余裕はない。

 突如目を開けた王太子に、私は腕を掴まれた……と思った直後、羽交い絞めにされていたのだ!















===作者の呟き=================

ゼンソン……当初はゼファーソンでした(^^;)
なんか別連載の壁と展開がかぶるなあ。意識してるわけではないけど、どうしても影響出て来るのかな(汗

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