吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

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第一部

38、吸血鬼と吸血鬼

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「く、クククク……」
「妙な笑い方しないでくださいよ、フィーリアラ様」
「笑ってない!クマって熊って!」

 なぜ熊が居る!なぜ乗っているの!

 熊を指差し、ヨシュに問い詰めると。

「そうですねえ、熊ですねえ。あ、名前はクンちゃんです」

 聞いてないわ!
 名前あるのか!
 聞いてないわ!
 女の子かい!

 色々ツッコミどころがありすぎて、何から聞けばいいのか!

「うーんとですね、ある日森の中クマさんに出会ったんですよ」

 どっかの童謡か。イヤリング落としたんかい。

「落とし物を拾ってくれたんですねえ。優しい子なんですよ」

 もう突っ込まない。それが真実かどうかなんてどーでもいいわ。

 今の私は、私とヨシュの間の熱とは真逆、冷気ただよう二人の吸血鬼の方が気になるんだ!

「はっ、吸血鬼のくせに動物好きとかありえねーし」
「誰にも好かれん者の僻みか」
「俺は女にもてるからいいんだよ!」
「どうせお前が王太子だからだろう。そうでなければ、先祖返りとはいえ吸血鬼のお前に近付く者などいるはずもない」
「それはずっと誰にも相手されなかった者の僻みか?」
「私にはフィーリアラが居る。私は彼女と出会うためにずっと一人だったんだ」

 え、そうなの!?ゼル様は、私と出会うために一人だったの?恥ずかしげもなくサラッと照れること言ってくださいますね!

「ずっと一人って……僕が居ましたけど」

 ボソッとヨシュの呟きはまるっと無視された。
 うん、きっとヨシュは特別枠なんだよ、特別枠!

「それにフワモフ達は私を──フィーを助けようとこの場に駆けつけてくれたのだ。お前は?お前はこういう時、味方となってくれる者は居ないのか?」

 それは痛い質問だったんだろうなあ。
 王太子はグッと唇を噛み締めて、悔しそうだ。泣くんじゃないか、あれ。

「ゼル様、ちょっとそれは」

 言い過ぎ、可哀そう──

 そう言いかけた瞬間。

 バッと王太子が動いた!

ギンッ……!

 腰から下げていた剣をいつの間に抜き放ったのか。
 その手に握られた剣はゼル様に振り下ろされた!

 が、ゼル様は難なくそれを受けとめる。自身の、伸びた長い爪で。

「さっすが!」

 ニヤリと笑って、またも王太子は剣を打ち付ける。

ギンッギンッ!

 何度も何度も。
 ゼル様はそれを顔色一つ変えずに、全て受け流していた。

 って早すぎてよく見えないんですけどね。多分そうなんだろうな~って思ったんです、はい。

「ふえ!?」

 その時、急に視界が高くなった。え、何ごと!?

「フィーリアラ様、危ないんでここに居てくださいね」

 ヨシュに言われて見ると、私はクマのクンちゃんの上に居た。ヨシュが持ち上げて乗せてくれたのね。

「ヨシュは加勢しないの?」
「さすがにあれに手出し出来る能力はありませんので」

 吸血鬼の早さに、人狼も付いて行けないということか。

「あと、手を出したら怒られそうで。多分ボコボコにしないとゼルストア様の怒りは収まらないんじゃないでしょうかね~」

 ああ、なるほど……かなりお怒りだったもんね。

 それはつまり、それだけ私の事を思ってくれてて、心配してくれてたってことか。
 そう思うと嬉しいやら照れ臭いやら。

 と、顔を赤くしていたら、思いのほか早く決着はついた。

「あ……!」

ギインッ!

 ゼル様の強烈な返しに、王太子の剣が飛ばされた。そのまま悔し気に立ち尽くすという事は、王太子はゼル様のように爪を伸ばして武器にするとか出来ないんだろうな。

「勝負あったな」
「あ~残念……やっぱり純血は違うかあ」
「私は純血ではない、祖母も母も吸血鬼ではないからな」
「それでも先祖返りの俺よりは強いさ」

 悔しそうに、けれどどこか清々しい顔で、王太子は降参とばかりに両手を上げた。

「参りました、俺の負けだ。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「そんな不味そうな事はせん。そうだな……フィー、キミはどうしたい?」
「え、私!?」

 急に振られて驚いてしまった。

「誘拐されて嫌な目に遭ったのはキミだ。フィーの采配に任せるよ」

 え、えええ~……そんなこと言われてもなあ。

「まあ仕方ないね。フィーリアラちゃん、俺に命令してよ」

 なんか語尾にハートがついてるように聞こえるのは気のせいだろうか。
 あ、公爵がまた殺気出してきた。
 冗談冗談と王太子は言ってるけど、どこまで本気なのか……

「ほんと何でも言ってよ、迷惑かけたお詫び♪王太子としての特権いくらでも使っちゃうからさ。なんなら俺のお嫁さんにしてあげるよ」
「やっぱり殺す!」

 あ、あ~あ、また公爵がキレちゃったよ。
 王太子に切りかかったけど、笑いながら王太子はひょいひょい避けてるし。

 この二人、ひょっとして本当は仲いいんじゃないの?

「王太子が生まれた直後、王家は大騒ぎになったんですよね。吸血鬼が生まれたって。その時ゼルストア様が呼ばれて、先祖返りであることを証言、そして王太子に吸血鬼としての能力の手ほどきをしてきたんです」

 ヨシュが苦笑しながら説明してくれた。

 なるほど、王太子にとっては師匠のようなもんか。
 王家との関係とか人付き合い嫌いな公爵が、王太子とは自然体でいられるのはそのせいか~。

 ひょっとして、王太子はゼル様の事が気になって今回の騒動起こしたんじゃないの?

 楽し気な様子の王太子を見て、なんだかそう思えてきた。同時に私の肩の力も一気に抜ける。なんだかなあ……。

「ね、フィーリアラちゃん、お好きに命令してよ~」
「フィーリアラちゃんとか言うな!殺す!」

 まだドタバタしてる二人を尻目に考え込んだ私は、ある事を思いついた。

「う~ん、それじゃあ……」





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