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第一部
39、吸血鬼と婚約者
しおりを挟む「た~お~れ~る~ぞ~!」
「おー、なかなかいい木じゃないか!これならあれ建てるのに使えらあ」
無造作に草木が生い茂った森の中。
鬱蒼としていたはずのそこに、陽の光が照らされる。
生え過ぎた木は切り倒され、屈強な体格の男たちに寄って運び出される。
立派に成長した丸太と同じくらい太い腕(は、言い過ぎか。いやでも本当に太いんだって)を持った男たちは、軽々と持つのだけれど。
一人……丸太に潰されそうな……え~っと、可哀そうな?いや、ひ弱な?ひょろい軟弱そうな男が一人。
「おら兄ちゃん、しっかり持たねえか。それ一番細い木だぞ」
「むむむむ無理無理無理ムリぃ!繊細な僕がこんなの持てるわけが……!」
「頑張れよぉ~それ持てるようになったら女にモテるぞお!」
「よし持とう、死ぬ気で持とう」
何あれ。ちょっろい男が一人。
その名もレイオン。
ここは公爵領の森。
鬱蒼としたそれを切り開いて、道を、土地を作っているのだ。
言葉通りまだ道半ばだけど、そのうち家も建って賑やかになることだろう。
王太子に頼んだのだけど、最初は数人だった職人が。
いつの間にか口コミで広がって……前々からこの森の木が気になってたという人たちが、大勢集まって来ていた。
おかげで作業がはかどってありがたい。
なぜレイオンも参加してるのかって言うと、まあやらかしたことへの償いですね。
本当ならレイオンの実家である伯爵家を潰しても良かったのだけど、ご両親に罪はない。
しっかり修行して、伯爵家のために色々勉強しろ!まずは力仕事からだ!とか何とか言ってやらせてるわけだ。
最初は泣き言ばっかだったけど、逃げる事もなく結構頑張ってる。そのまま良い領主目指して頑張ってね~。
でもってこっち。
チラリと私は開けた場所を見やる。
休憩所のために建てられた簡易テントと、その前で作業する面々へ。
「いやああぁ!指を切ったあぁ!!あたしの綺麗な指がぁ!」
「なーにやってんだい、食材に血をつけんじゃないよ!」
「ううう……なんであたしが料理なんか~……」
「それこそ何言ってんだい!あんたの大事な人が頑張って作業してるんだろ!腹空かして帰ってくる旦那たちを温かいご飯と共に笑顔で出迎えるのが、嫁の務めってもんだろが」
アハハと豪快に笑って、恰幅のいいおばさんは彼女の背中をバシンと叩いた。
彼女──包丁片手にジャガイモの皮を剥く……ウェンティ。
「レイオンは夫ではないわ。あたしの旦那様わぁ、公爵様かぁ、王子様でぇ」
「あ~はいはい、女はいくつになっても夢を見たいもんだからね」
軽くあしらわれてるし。
まさかこんな場所でキャンプ宜しく料理するウェンティを見る事が出来るとは……
長生きするもんだわあ。
「フィーリアラ様はまだ18年しか生きてませんよ」
「あらエミリー、お帰りなさい。ヨシュの背中は快適だった?」
「はい、モフモフが最高に気持ちようございました」
街へと買い出しに行ってたエミリーは何だかご機嫌だ。
「何かあったの?」
「え、いえ、別に何も……」
真っ赤になりながら職人と気さくに話すヨシュを、チラリと見るエミリー。
まあ……多分この二人はいい感じになってきてるんだろうな。あれこれ詮索するのは野暮ってもんだ。
チラリと丸太男性陣と会話するヨシュを見ると、あっちも何だかご機嫌ぽい。うん、何かあったなこれ。聞きたいけど、お楽しみは後にしておこう。
「奥様、この辺はどうしましょう?」
「あ、そこら辺の木は切らないで置いといて。そうね、荒れた足元だけを整えて……」
って、普通に返したけど、私は奥様じゃないからね!
何度言っても、みんな奥様と呼んでくるからもう諦めた。
と、不意に背後から抱きしめられた。
「ふえ!?」
「ふぃ、フィーが奥様って呼ばれてる……はああ……」
変態よろしく恍惚の顔の公爵だ。
「あらあら、今日も仲がいいわねえ」
「うふふ、邪魔者は作業に戻りましょう」
そんな私達を見て、ニヤニヤしながらおば様たちは作業へ戻る。
いや待って、このまま置いてかないで。
エミリーもそそくさと立ち去らないでぇぇ!
「いやん、公爵様ぁ!私も抱きしめて……ぐええ!」
駆け寄ってきたウェンティの首根っこ引っ掴んで、潰された蛙のような声を出す彼女をズルズル引っ張っていく……逞しいなあ、おば様達は。
めげないなあ、ウェンティは。
あの晩、屋敷に戻ると、爽やかな笑顔でスコップ片手に穴を掘ろうとしていたエミリーが居た。
何をしようとしていたのかは聞かなかったけど……。
私が連れ去られた後、色々あったんだろうなあ。
グルグルに縛られたウェンティは、半泣きになってたし。
『二度と私をゼルと呼ぶな』
と言った公爵様は私に背中を向けてたのでその顔が見れなかったけど。
多分泣く子も黙る……な顔してたんだろうな。
数日はウェンティも大人しくしていた。──本当に数日だけど。
「ゼル様、放してください」
「嫌だ」
即答かあ。振り払うべきなのかもしれないが、何だかそれも出来ずに、背中に公爵の温もりを感じながら屋敷を見上げた。
森同様、たくさんの人が出入りしている。
随分古びた外装に内装を、みんなして修繕してくれてるのだ。
王太子に頼んで彼らがやってきた。最初はおっかなびっくりだった職人さん達も、今では楽し気に作業してくれている。
「おおお!この柱は!もう今じゃ滅多とお目にかかれないメノキじゃねえか!」
「か~、この木の組み立てかた!すげえな、こんな技術あったんだなあ!」
……ほんと、楽し気で何より。
本当に。
最初、エミリーとこの屋敷に来たときは、まさかこんな風になるとは思わなかった。
生贄よろしく嫁として差し出された時は、どうなるかと思っていたのに。
まさか、背中に吸血鬼くっつける事になるとは、誰が想像しよう?
「フィー、こっち向いてよ」
ずっと屋敷を見つめて感慨にふけっていたら、クルンと体の向きを変えられてしまった。
正面には顔だけはイケメン、内面は残念な公爵。
「ゼル様、わたしは忙しいんですよ」
「フィーは働き過ぎだ。フワモフ達も寂しがってるぞ?」
「まあ私もそろそろみんなをモフりたいですけどね」
そう言ったら、公爵が嬉しそうな顔をして
「そうだろうそうだろう!よし行くか!」
と横抱き(だからお姫様抱っこぉぉ!)された。
「ちょっと、ゼル様!」
「ねえフィー」
抗議の声を上げようとしたら、私の耳に口を近づけてくるから、固まってしまった。
「もう一度、好きって言ってよ」
『私が好きなのはゼル様だけなんだからぁぁ!!!!』
あの時の自分を殴りたい!
あれから事あるごとにこれを要求してくるようになったので、恥ずかしさで消えたくなるっての!
「いいい言いません!」
「私はフィーが好きだよ」
「ふええ!?」
耳!耳元で囁くように言わないでぇぇ!
「ねえ、フィーは?」
そんな色っぽい声は反則だ……。
そんな顔を見せられたら……
私の口が勝手に動いてしまう。
「……です」
「うん?」
「大好きです!」
半ばやけくそ気味に叫んだら。
太陽のように輝く笑顔をはじけさせたゼル様が。
太陽のように輝く髪と瞳をもった私に。
優しく口づけた──
とりあえず fin
===あとがきというか、作者の言い訳==================
全然書けてない部分多いので(両親どうしたとか、ヨシュとエミリーの関係とか、吸血鬼公爵の父親と祖父とか)まだ続く。多分。
というか、起承転結の転があまりに小さくて、ほとんど大した話になってないという爆死もんですね、はい。
なんとも小さな話になってしまった。反省……
なので、もっと規模の大きい話を書いた方がいいのか、補足の話書いたら終わるべきなのかどうなのか……悩んでおります。
とりあえず二人はくっついたので、どうするかはまた考えます~。
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