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1、私は姉を祝福したい
しおりを挟む『ねえルナ、約束よ、私とのお約束』
『ええマリナ姉様。約束ね』
『そう、私と貴女、好きな人が出来たら絶対教えるって』
『ええ分かったわ、私に好きな人が出来たら絶対お姉様に教えるわ。だからお姉様も絶対教えてね』
『勿論よ』
『約束ね』
『約束よ』
それは幼い頃の他愛無い会話。
姉と私の遠い昔にやり取りした、小さな約束。何気ない約束。
【姉は私を虐げたい。私は姉を●●したい】
「どういう事ですか!!」
ガチャンと音を立ててカップが倒れる。そのまま転がり床に落ちて──割れた。ああ、お姉様お気に入りのカップだというのに……。
少し悲しい気持ちになる私とは対照的に、姉は落ちたカップには目もくれず、目の前の人を睨み続けていた。
「どうして私ではなくルナなのですか、お父様!」
怒りをぶつけられてるのは、私達の父だ。
最近白髪が増えてきた茶色の髪を掻きながら、父は困ったように微笑んだ。だがその笑みは姉の怒りに油を注ぐだけ。
「お父様!?」
「いやあ……あちらがどうしてもと言ってきてね」
困ったなあ。
そう心の声を言葉にして、父はポリポリとまた頭を掻いた。
「王家が!?理由は……理由は何でしょうか?」
「う~ん、まあ無難なとこで我が公爵家を選んだんだろうね。でもって年の近いルナが良いと国王様から言われたんだ」
「年が近いって……!王太子とは私も同じ一つ違いです!!」
「──ええっと、まあそうなんだけど。なんでも王太子が年下が良いと仰ってるそうで」
「!?そんな理由で!?そんな理由だけで、ルナが王太子と婚約するのですか!?」
納得できません!
そう叫んで、姉はバンッとテーブルを叩いた。先ほどこぼれた紅茶がポタポタと垂れて床を濡らす。だが誰もそれを拭こうと寄ってはこなかった。それ程までに姉は激しい剣幕で怒り狂っていたのだ。
怒鳴り続ける姉と、それに対してしどろもどろの父。
割って入れない母、そして私。
私は怒り続ける姉を見ながら、数日前の事を思い出していた。
それは、貴族の子供だけのお茶会と言う名の集まりがあった日。帰りの馬車の中での事。
『ルナ……私、好きな人が出来たわ』
姉は顔を赤く染めて、そう私に言ったのだ。
姉は二つ上だから、自分よりそういう事には早く目覚めるだろう。
分かってはいたけれど、まだ12歳の私にはピンと来なくて。そう言われた時はビックリしたものだ。
そして、とうとうその時が来たのか、とも思った。
私達はとても仲の良い姉妹だと思っていた。これまでもこれからも。
けれど現実は厳しい。成長すれば否が応でも姉とは距離が出来てしまう。
その際たる起因はやはり恋心、なのだろう。
『そう……おめでとう、お姉様』
ついに姉離れしなくてはいけないのね。
一抹の寂しさを感じながらも、私は姉の成長と出会いを祝福して微笑んだ。
『それで、お姉様に好きになってもらえた幸運の殿方は、どなたなのですか?』
その私の問いに、一瞬モジモジしながら口ごもる姉だったが。
静かに。
ボソッと、呟くように言った。
『えっとね……王太子様』
王太子。
次期王となられるお方。
そうだ、彼は今日初めてああいった場に参加されたのだっけ。
初めて見る王太子に、皆が緊張して遠巻きに見ていたのを覚えている。
私と姉は公爵家の者として一番にご挨拶したが、私は姉の背後にひっそり控えるだけで、主に会話したのは姉だった。
金髪碧眼、見目麗しき王太子。温かい笑みを浮かべ、優しそうな瞳で姉と話されていた。
対する姉は銀髪に紫紺の瞳が美しい。白磁の肌にうっすら紅が差していたのは緊張のせいかと思っていたが……なるほど、可愛らしい理由だったのね。
皆が羨望の眼差しで二人を見つめていた。かくいう私もだ。
それほどにお似合いだった二人。
そうね、確かにお似合いだわ。
お姉様は公爵令嬢だから身分としても申し分ない。
きっとマリナお姉様が王太子妃となられるだろう。あの場に居た誰もが疑うことなく、そう確信した。
だが、運命は時に残酷になる。
お茶会から数日後。
我が公爵家に王家から使いが来て父が王城へと向かった時には、きっとそうなのだと私は確信していた。姉も『まさか、そんなはずないわ』そう言いながらも、きっと期待していたことだろう。
帰宅した父を迎え、家族四人でお茶をしながら用件は何だったのかと父に問うたら。
『ルナを王太子の婚約者にしたい、とお申し出があったのだ』
そうして私達姉妹は。
残酷な……残酷すぎる現実を突きつけられることとなった。
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