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10、私は姉が恐ろしい
しおりを挟むスタスタと姉が近づいてくる。
その顔は無表情で、美しいからこそ逆にゾッとする。
言葉を失って、その冷たい美しさに見入ってしまう。
スッとその顔が近づいてきた。私の目の前に、氷のような美しさを持った姉の顔。
「私が何をしてると思うの?」
「で、ですから、私への嫌がらせの指示を……」
「私が?お前への嫌がらせの指示を?」
「……お姉様の指示、なのですか?」
そうとしか考えられない。
けれど、そうでないと信じたい。
私の心は混乱していた。
そんな私の心を見透かすようにジッと私を無言で見つめた後。
フッと顔を離して、姉は笑みを浮かべた。
「なるほどねえ……お前は嫌がらせを受けてるのね」
まるで知らなかったとでも言うような言い草だ。
私は信じても良いのだろうか。
そう、思った瞬間。
ニタリと姉の顔が歪んだ笑みを浮かべた。
「良かったわねえ」
「──!!」
その言葉に私は絶句する。
良かった?
何が?
私が虐められてる事が?
「お姉様……」
「姉を疑うなんて失礼な妹だこと。腹が立つわ、出て行って頂戴」
どう見ても楽しそうに、愉快気に笑い続けながら。
けれど有無を言わさず姉は私を部屋から追い出すのだった。
バタンと乱暴に閉められた扉。
ただただ私は呆然とそれを見つめることしか出来なかった。
* * *
「マリナが君を虐めてると勘違いして責めたんだって?」
翌日。
実に数ヶ月ぶりに会った王太子は、会うや否やそう言って来るのだった。
その顔は不機嫌さに彩られていた。
突然の屋敷への訪問。
嬉しくて浮足立っていた気分は、あっという間に地の底に沈む。
「ルーカス様、それは……」
「その怪我は?階段から落ちたんだって?」
「え、あ、はい……」
説明しようと口を開いたが、それを遮るように問われた。それに答えないわけにもいかない。
「まさか突き落とされたとか言うんじゃないよね?」
「それは……」
実際、誰かに押されたのだ。それは間違いない。
だが誰かが見ていたという証言はない。少なくとも、犯人グループ以外の誰かがあそこにいたと思えない。姉はそんなヘマをしないだろう。
「マリナがやったと?」
「分かりません」
違います。
そう言うべきなのかもしれない。
だけど、私は思わず言ってしまった。分かりませんと。それはつまり、姉かもしれないと思ってる事を示唆するものだ。
その言葉に、ますます王太子の目が細められ、険しい目つきになる。
……ルーカス様の、こんな恐い顔を私は見たことが無かった。
ほとんど会えなかった一年。
そしてこの一ヶ月。
彼にどういった心境の変化があったのか。
考える事が恐ろしかった。
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