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2、教育係にギャップ萌えです
しおりを挟む「気持ちは分かるんだけどねえ」
そう言って、深々と溜め息をつく人物の頭上で、キラリと王冠が光った。美しい宝石がちりばめられ、ゴージャスに作り上げられたそれは、とっても重そうだ。それを実際重そうに首をさすりながら頭に乗せる人物──この国で唯一戴冠を許されている人物である国王は、苦笑を浮かべて私に言った。
「さすがにビンタはまずいでしょ、ビンタは」
「なぜですか」
「一応、あれでも王子だし」
「あれは王子ではありません」
「いや王子なんだけど」
「人でもありません」
「人外!?」
「もはや見るに耐えないレベル」
「そこまで!?」
いちいち私の言うことに反応してくれる王。ツッコミ疲れ知らずでなにより。そのまま元気に長生きしてもらって、ビョルン王子より長生きしてもらいたいです。
「さすがにそれは無理でしょ」
「気合いと根性でどうにか」
「なるわけあるかい」
なぜですか、世の中には気の持ちようで凄く長生きした人もおられます。それは聖女の能力の範疇を超えたもの、人はそれを奇跡と呼ぶ。
「奇跡起こしてください」
「それより王子をどうにかしない?」
聖女が奇跡とか言わないで、と王は言ってから、私に提案した。
「ものは試しなんだけど、ビョルンに教育係をつけてみようかと」
「今更ですか?」
「今更もなにも、あいつにまともに教育係がついたことないんだよね」
「だから今更、誰が教育係になると?」
「それが見つかったんだよねえ。過去最長三日しかもたなかったと評判の、あいつの教育係の座。それを自らやりたいと言ってきた人物がいるんですよ」
「それはまた奇特なかたがおられたもので」
「ホントにねえ」
信じられないかもしれないが、これ、王太子の親と婚約者の会話なんですよ。本当に信じられないかもしれないけど。私も信じたくない。王が息子のことを『あいつ』呼ばわりするのも、いつものことである。
「で、その奇特なかたはどなたですか?」
「隣国の現国王の教育係をしていた、ラムサール殿」
「え!?」
予想外すぎる人物の名が挙がり、思わず大きな声を出してしまった。
「あの、ラムサール様ですか!?」
「知ってるのかい?」
「それはもう、御高名はかねがね……。あの、問題児だった隣国王太子を、徹底的に鍛え直して、立派な王に育て上げたという話は有名ですわ」
「そうそう。国税に手を出したり、数々の女性と関係をもって、公爵令嬢との婚約を破棄しちゃったり。殺し以外の悪いことは一通りしたとか噂の……前国王が頭を抱えたとかいう、あの問題児を、歴代トップの有能な王にした人」
「もう何百年生きているかも分からないという、大魔法使い様でもあらせられると……」
「よく知っているな」
「そりゃもう有名ですから……え?」
そんなに凄い人が来ると思っていなかった私は、思わず興奮して手に汗握って熱弁してしまった。
それに王が相打ちをうつかと思いきや、知らない声がいきなり聞こえて、慌てて振り返った。
王の正面、私の背後に、その人はいた。
魔法使い特有の紫紺の髪と瞳を揺らして、その人は楽し気にこちらを見ている。
「えっと?」
「初めまして、アリーナ様。百円ぶりに降臨された聖女様に会えて……」
「うん、はい?」
百円てなんだ、と首を傾げたら、紫紺の魔法使いは口元を押さえてあさってのほうに目をやる。
そしてかすかに頬を赤らめながら「失礼」と言った。
「私はどうも昔から言い間違えが多くて……ええっと、百年ぶりに降臨された聖女サバに和えて……」
「サバの和え物でしたら、厨房でご用意できますが」
「違います、スミマセン」
もうそれ以上言えないというように、これでもかと顔を真っ赤にさせてうつむく魔法使い。
それこそ何百年と生きているとは思えない若い容姿でもって、整った美しい顔立ちを照れ臭そうに歪めた。
チュドーーーーン
アリーナ・クリアフェル公爵令嬢18歳。
聖女として生まれ、聖女やること18年。
初めての恋に落ちた。
これをギャップ萌えと言うと聞いたのは、少し後のことである。
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