王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る

リオール

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 どうにか掴まれてる腕を放そうともがくメリッサを尻目に、王子はズンズンと歩き続ける。

 そして行き着いた場所を見て。
 私はようやく王子の目的を理解した。

 それはメリッサも同じのようで。青ざめて、振りほどこうとする手の力を強めた。が、王子はけして離さない。逃げるのを許さなかった。

 目の前には大きなプール。学園備え付けのプールだ。
 貴族の学園で肌を晒すようなプール授業なんてないけれど、申請して許可が下りればいつでも自由に使える代物だ。
 汗ばむこの季節はいつでも使えるようにと、常に綺麗な水が張られている。今も目の前には澄んだ水が陽の光を反射していた。

 ──まるであの日のように。

「な、にを……」

 何をしようとしているのか。
 その問いを最後まで口にするのは恐ろしいのか、最後まで発せられる事はなかった。
 けれど王子にそんな事は関係ない。

 ようやくメリッサを振り返った王子は、静かに口を開いた。

「ねえメリッサ。キミはこの中に入れる?泳ぐことは出来るかい?」

 ザッと血の気が引いたかのように、誰が見ても蒼白な顔でメリッサは立ち尽くしていた。

 私はその王子の問いに首を傾げる。

 泳ぐことは出来るかと彼は問うた。その真意はよく分からないけれど。

「服を着たままでは泳げないのでは?」

 小さくポツリと呟くように言った私の言葉を、すぐ横に居たアンドリュー様だけが耳にする。その手は未だ繋がれたままなのだけど。

「そういう意味じゃないよ。エドはただ、メリッサが泳げるかどうかを確認したいってことなんだよ」

 私の言葉に苦笑して、彼は説明してくれた。

「泳げるかどうか?」

 意味が分からずそれを反復して……そして一つの可能性にハッと顔を上げた。

 そう言えばと記憶を手繰る。

 私はメリッサが泳いでるのを見たことがあっただろうか?

 ずっと幼い頃は、小さなプールで遊ぶ程度だったから気にしなかったけれど。

 ある程度成長してから。
 彼女の泳ぐところを見たことはあっただろうか。

 伯爵家所有の別荘に避暑で行ったとき──彼女は近くの湖で泳ぐことをしていただろうか?

 いや、見たことはない。

 私は記憶を手繰り、今頃気付いたその事実に愕然とした。

 彼女はいつも日焼けが嫌だ、濡れるのは気持ち悪いと別荘に引きこもっていたのでは無かったか?

「私、メリッサが泳いでる所を……見た事ないわ」

 呆然として呟くように言う。

 どうして気付かなかったのか。気付けなかったのか。

 これ以上に真実を明るみにする事実は無いというのに!

「な、何を言ってるのよ、エディ!私が泳げるかですって?当然でしょう?だって私は……!」
「では泳いで見せてくれ」

 焦るように言うメリッサの腕をようやく放し。
 スッと王子は横に退く。

 代わりに彼は指さした。プールを。

「お、泳げだなんて……水着なんて持ってないわ。そもそも殿方の前で肌を晒すなんて……」
「いいから。制服を脱いで下着姿でいいよ。私は婚約者だろう?恥ずかしがることは無いさ」
「あ、アンドリュー様が居るじゃない!それに下着姿なんて、そんなはしたないこと!」
「必死であれば出来るさ。あの日──私を助けてくれた子はそうしたよ?」

 その言葉にメリッサはハッとなって口をつぐんだ。そして振り返り、私を憎々し気に見る。

「あんた……やっぱり話したのね?」
「……なんのこと?」
「とぼけんじゃないわよ!私が泳げない事と、あの日の事を!」
「────やっぱり泳げないんだね」

 王子の冷え切った声にハッとなって口を押えてももう遅い。メリッサの口から真実は語られた。
 出た言葉はもう戻らない。

「ち、ちが……」
「何が違うの?泳げないのが実は違うの?では泳いでよ。私を助けてくれたんだ、きっとキミは泳ぎが得意なんだろうね」

 冷たい目で見降ろす王子にメリッサはオロオロし、蒼白な顔でどう言い訳をしようかと必死で考えている。けれど語った真実は覆らないのだ。メリッサはもう逃げられない。

「さあ、泳いでみせてよ」

 有無を言わさぬ強い態度で、王子はメリッサの背を押しやる。
 もうあと一歩メリッサが足を踏み出せば、プールに落ちる。メリッサは服を着たままだし、きっと王子は本気で泳がせるつもりはないのだろう。

 メリッサさえ。彼女さえ認めれば。泳げないと認めれば……。

「い、いいわよ……」

 けれど意固地になった妹は止まらなかった。プライドの高い彼女は止める術を持たなかった。

「いいわよ!泳いでやるわ、泳いでやるわよ!その代わり泳いだら私は貴方の婚約者のままだから!絶対に婚約解消なんてしないから!」

 見てなさい!

 そう言ってメリッサは水に飛び込もうとする。

「駄目!!!!」

 いくら泳げても制服を着たままでは自殺行為だ。このプールは足がつくけれども結構な深さである事は知っている。元々令嬢はあまりこんなところでプールに入らない。男性メインに考えて、少し深めにしてあるのだ。
 一度だけ、友人令嬢たちと去年入った事のある私は、ギリギリ鼻が出るくらいと覚えている。私より少し背の低いメリッサでは……。

 もし本当にメリッサが泳げないのであれば……それは!

「駄目よ、メリッサ!!」

 叫んで走り出した。アンドリュー様の手を振りほどいて!

 そばに立つ王子が驚いた顔で私を見てるのが分かった。彼の方が妹には近い。けれど。

 妹の本気を感じ取った私の動きは早かった。

 今にも飛び込みそうな妹に手を伸ばす。

「メリッサ!!」

 叫んだ瞬間。
 グルンと振り返ったメリッサは恐ろしい目で私を睨んでいた。

「……んぶ」
「!?」
「全部、お前のせいだ!!!!」

 伸ばした手を。
 メリッサが掴む。

 体重をかけて引っ張られ。

 そして。



ザンッ!!!!



 水音が耳をつき、私は落ちた。

 プールに、メリッサと共に落ちたのだった。


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