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三ツ葉第一銀行現金強奪事件
かつての友人
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今日も暑いな。
ジャケット姿の真上は、そう愚痴りながら、額に浮かんだ汗をハンカチで拭った。
長く曲がりくねった坂を上りきると、明日原市の街並みが眼下に広がる。
「こんにちは。またいらっしゃったんですね」
小さな墓地の入口で掃除をしていた老爺が、人のよさそうな笑みを浮かべて真上を迎える。
「ええ」
「ここまでは車でこれませんからねぇ。この熱いのに大変だったでしょう?」
「いえいえ、少しは身体を動かさないと。それじゃ、お参りさせてもらいますね」
真上は軽くお辞儀し、老爺の脇を抜けて墓地へと入る。
日頃の喧騒がまるで嘘であるかのように、そこは静謐のなかにあった。
足音が妙に響く。今日で何度目だろう。それでもまだ慣れることはない。
「あら、真上くんじゃない」
その声に、真上の足が止まる。手にしたビニール袋が、風に乾いた音を立てた。
「いらしてたんですね」
墓石の前に立つ小鳥遊翡翠に向かい、真上はいう。
「うん。今日はオフだから」
「そうですか」
白のブラウスにベージュのスカート、ピンク色のカーディガンをはおっているのに、小鳥遊は汗一つかいていない。
「真上くんも、お参りしにきたんでしょ」
小鳥遊は「ほらほら」と真上を手招く。真上はそれに「はい」といい、小鳥遊の隣に並ぶ。
出逢った頃から変わらないシトラス系の香りが、真上を過去へと誘ってくる。
「この花、小鳥遊さんが?」
墓石の前には、まだ新しい菊の花が供えられていた。
「いいえ。多分、累子じゃないかな」
小鳥遊の足元には、菊の花が入ったビニール袋が置かれていた。
「真上くんもみたいね」
「ですね」
真上はビニール袋から新聞紙を取り出して、百円ライターで火をつけた。
「私にもちょうだい」
「わかりました」と真上はいい、燃える新聞紙に線香の先を近づける。
「よくくるの?」
「暇な時は。はい、どうぞ」
真上は燃える線香を小鳥遊に差し出す。それを小鳥遊は、「ありがと」と受け取った。
そして二人は線香を供えると、手を合わせ目を閉じた。小鳥遊の栗色の髪が風にそよぐ。
数秒後、真上は目を開けると、「煙草、吸ってもいいですか?」と小鳥遊に尋ねた。
「あら? 真上くん、吸ってたっけ?」
「ここにくる時だけですよ」
「ああ、そういうことか。いいわよ、全然」
それを聞き、真上は胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえる。
すると横から、「ん」と小鳥遊が百円ライターを持った手を伸ばした。
「あ、すいません」
真上は火に煙草の先端を近づけて、息を吸う。そして深く息を吸い込んで、空に向かい細く煙を吐き出した。
「よくもまあ、こんなもんを肺に入れられる」
「似合わんねー」
小鳥遊はくすりと笑う。それを真上は一瞥し、「そりゃ、似合わんですよ」と煙を吐き出す。
「そうそう、重雄くんはピースだったね。キツイっしょ?」
「他のを吸ったことがないんで。よく知ってますね?」
「元彼がピースだったの。私はラッキーストライク? それにすればっていってたのに、ずっと変えなかったのよ」
「あれ、喫煙者でしたっけ?」
それに小鳥遊は右手を振って、「パッケージが好きだったの」と返す。
「ああ、僕にはわからん感覚だ」
「わかろうとしないだけでしょ、君は」
小鳥遊は足元のビニール袋を手に取った。
「そう分析せんでくださいよ」
真上は短くなった煙草を足で揉み消し、吸い殻を携帯灰皿にしまう。
「普段吸わないくせに、それは持ってんだ」
「一応、マナーですよ」
真上は気恥ずかしそうに、携帯灰皿をポケットにつっこんだ。
「ね、この後、ちょっと時間ある?」
「ええ、ありますけど。どうしたんですか?」
「ちょっとお茶しない。大学の話もしたいしさ」
「いいんですか? もっか売り出し中のお天気お姉さんが、どこぞの男とお茶なんてして」
冗談めかしていう真上の脇腹に、小鳥遊は「いうようになったじゃん」とボディーブローを入れる。
「一応、まだ私は在学中。それで真上くんはサークルの後輩」
「すぐにいかなくなりましたけど」
「後輩は後輩よ、なにも問題ないじゃない。ほら、つべこべいわずにいくわよ、後輩くん」
小鳥遊はそういうと、真上の背中をドンと叩く。その勢いに、真上の身体が前にのめる。
相変わらずだな、この人は。またくるよ、重雄。累子くんのことは心配するな、任せておけ。
真上は心のなかで、幼い頃からの友人、梁田重雄にそう誓い、別れを告げた。
ジャケット姿の真上は、そう愚痴りながら、額に浮かんだ汗をハンカチで拭った。
長く曲がりくねった坂を上りきると、明日原市の街並みが眼下に広がる。
「こんにちは。またいらっしゃったんですね」
小さな墓地の入口で掃除をしていた老爺が、人のよさそうな笑みを浮かべて真上を迎える。
「ええ」
「ここまでは車でこれませんからねぇ。この熱いのに大変だったでしょう?」
「いえいえ、少しは身体を動かさないと。それじゃ、お参りさせてもらいますね」
真上は軽くお辞儀し、老爺の脇を抜けて墓地へと入る。
日頃の喧騒がまるで嘘であるかのように、そこは静謐のなかにあった。
足音が妙に響く。今日で何度目だろう。それでもまだ慣れることはない。
「あら、真上くんじゃない」
その声に、真上の足が止まる。手にしたビニール袋が、風に乾いた音を立てた。
「いらしてたんですね」
墓石の前に立つ小鳥遊翡翠に向かい、真上はいう。
「うん。今日はオフだから」
「そうですか」
白のブラウスにベージュのスカート、ピンク色のカーディガンをはおっているのに、小鳥遊は汗一つかいていない。
「真上くんも、お参りしにきたんでしょ」
小鳥遊は「ほらほら」と真上を手招く。真上はそれに「はい」といい、小鳥遊の隣に並ぶ。
出逢った頃から変わらないシトラス系の香りが、真上を過去へと誘ってくる。
「この花、小鳥遊さんが?」
墓石の前には、まだ新しい菊の花が供えられていた。
「いいえ。多分、累子じゃないかな」
小鳥遊の足元には、菊の花が入ったビニール袋が置かれていた。
「真上くんもみたいね」
「ですね」
真上はビニール袋から新聞紙を取り出して、百円ライターで火をつけた。
「私にもちょうだい」
「わかりました」と真上はいい、燃える新聞紙に線香の先を近づける。
「よくくるの?」
「暇な時は。はい、どうぞ」
真上は燃える線香を小鳥遊に差し出す。それを小鳥遊は、「ありがと」と受け取った。
そして二人は線香を供えると、手を合わせ目を閉じた。小鳥遊の栗色の髪が風にそよぐ。
数秒後、真上は目を開けると、「煙草、吸ってもいいですか?」と小鳥遊に尋ねた。
「あら? 真上くん、吸ってたっけ?」
「ここにくる時だけですよ」
「ああ、そういうことか。いいわよ、全然」
それを聞き、真上は胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえる。
すると横から、「ん」と小鳥遊が百円ライターを持った手を伸ばした。
「あ、すいません」
真上は火に煙草の先端を近づけて、息を吸う。そして深く息を吸い込んで、空に向かい細く煙を吐き出した。
「よくもまあ、こんなもんを肺に入れられる」
「似合わんねー」
小鳥遊はくすりと笑う。それを真上は一瞥し、「そりゃ、似合わんですよ」と煙を吐き出す。
「そうそう、重雄くんはピースだったね。キツイっしょ?」
「他のを吸ったことがないんで。よく知ってますね?」
「元彼がピースだったの。私はラッキーストライク? それにすればっていってたのに、ずっと変えなかったのよ」
「あれ、喫煙者でしたっけ?」
それに小鳥遊は右手を振って、「パッケージが好きだったの」と返す。
「ああ、僕にはわからん感覚だ」
「わかろうとしないだけでしょ、君は」
小鳥遊は足元のビニール袋を手に取った。
「そう分析せんでくださいよ」
真上は短くなった煙草を足で揉み消し、吸い殻を携帯灰皿にしまう。
「普段吸わないくせに、それは持ってんだ」
「一応、マナーですよ」
真上は気恥ずかしそうに、携帯灰皿をポケットにつっこんだ。
「ね、この後、ちょっと時間ある?」
「ええ、ありますけど。どうしたんですか?」
「ちょっとお茶しない。大学の話もしたいしさ」
「いいんですか? もっか売り出し中のお天気お姉さんが、どこぞの男とお茶なんてして」
冗談めかしていう真上の脇腹に、小鳥遊は「いうようになったじゃん」とボディーブローを入れる。
「一応、まだ私は在学中。それで真上くんはサークルの後輩」
「すぐにいかなくなりましたけど」
「後輩は後輩よ、なにも問題ないじゃない。ほら、つべこべいわずにいくわよ、後輩くん」
小鳥遊はそういうと、真上の背中をドンと叩く。その勢いに、真上の身体が前にのめる。
相変わらずだな、この人は。またくるよ、重雄。累子くんのことは心配するな、任せておけ。
真上は心のなかで、幼い頃からの友人、梁田重雄にそう誓い、別れを告げた。
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