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三ツ葉第一銀行現金強奪事件
前段階
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市街地から離れら場所にある廃墟ビル。そこに宇島と相羽の姿があった。
「本当に、上手くいくんでしょうか?」
地べたに座った相羽が、気弱な声で宇島に尋ねた。
「上手くいかすんですよ。じゃないと、俺も相羽さんも困るでしょう?」
宇島は壁に寄りかかり、煙草に火をつけた。
するとコツコツという足音が、段々と二人に近づいてくる。
「きたか」
二人は顔を上げ、薄暗い通路に続く方を見た。
「どうも」
足音の主、二十代前半ほどの男が姿を現す。
パーカーにジーンズ、腰から伸びたチェーンが、ジーンズのポケットへと続いている。
「この方は?」
不安げに、相羽が宇島を見上げた。
「大丈夫ですよ。この方も、あなたと同じ境遇です」
それを聞き、しげしげと相羽は男を見た。
男はパーカーのポケットに両手を突っ込み、気だるげにガムを噛んでいる。その姿からは、諦念も悲壮さも感じられない。
「あ、じゃあこの人が行員の?」
男は視力が悪いのか、目を細めて相羽を見返す。
「そうだ」
「じゃあ、ナカーマですね。俺もギャンブルでやっちまって」
男は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
この男が自分と同じ? 相羽にはそれが信じられない。
まさか自分は騙されているのではないか。教えてはならないことを教えてしまったのではないか。
一度よからぬ想像をしてしまうと、焦りと恐怖、後悔がじわじわと相羽の精神を侵してゆく。
「パチ? 馬? 舟っすか?」
男は相羽の前に腰を屈め、愉しそうにそう尋ねた。
「おい、無駄話は後だ。相羽さん、安心してください。こいつは今回の計画に必要な奴ですから」
「そうっすよ。俺は久能連三郎。相羽さんでしたっけ? みんなでハッピーになりましょう!」
男は右手を差し出す。その勢いに押されてか、相羽は「よ、よろしくお願いします」とその手を握り返した。
「今度はまた不憫な名前だな」
「いいっしょ。ちょっと知り合いの名前を借りてみました」
どういうことですか、といった表情で相羽は宇島と男を交互に見た。
「偽名ですよ。こいつの癖みたいなものなので気になさらずに」
「ユーモアがあるっていってくださいよ」
久能は拗ねたようにいう。
「ま、そんなことはどうでもいい」
困惑する相羽に向かい、「そういうことです」と久能はピースサインを送った。
「そうだ、宇島さん。もう一人足りないみたいなんですけど、これで全員でしたっけ?」
「いや、直接はこれないが、そろそろ電話がくる頃だ」
宇島は携帯電話を取り出して、時刻を見る。午前九時五十九分。約束の時間まで後一分。
きっかり宇島の手にしたき携帯電話が震えだす。
「おう、こっちはみんな揃ってる」
宇島は電話に出るなりそういうと、皆に向かい携帯電話の画面を見せる。
『そうですか。どうも、λといいます』
聞こえてきたのは、明らかな人工音声。
久能は携帯電話の画面に顔を近づけ、「それ地声?」と問いかける。
『いえ、違いますよ』
「λっていうのは、ギリシャ文字?」
『そうとってもらって構いません』
久能は頭の上で手を組んで、「変わったお名前だ」と呟いた。
『もしかして、鶴間さんですか?』
「お、なに、俺のこと知ってんの?」
『うっすらと』
「でもね、今は違うんだ。久能連三郎、そういう感じだから、そこんところよろしくね」
久能の言葉に、λは『わかりました』と素直に答える。
「ねえ、宇島さん。この人もギャンブル狂?」
「こいつは違う。俺たちから金も借りてねぇ」
「じゃあ、どうして俺たちに手を貸すの?」
その問いに、『宇島さんには、恩義がありますので』とλは返す。
「恩義? なになに、宇島さんって善人だったの?」
「そんな話はどうでもいい。λ、そろそろ本題に入らせてもらうぞ」
『そうですね。その方がいいと思います』
宇島は「よし」と周囲を見回す。
まるで現実味のない話。けれどその現実が、重く相羽の身体にのしかかる。もう戻れはしないのだ、それが現実だ。
「本当に、上手くいくんでしょうか?」
地べたに座った相羽が、気弱な声で宇島に尋ねた。
「上手くいかすんですよ。じゃないと、俺も相羽さんも困るでしょう?」
宇島は壁に寄りかかり、煙草に火をつけた。
するとコツコツという足音が、段々と二人に近づいてくる。
「きたか」
二人は顔を上げ、薄暗い通路に続く方を見た。
「どうも」
足音の主、二十代前半ほどの男が姿を現す。
パーカーにジーンズ、腰から伸びたチェーンが、ジーンズのポケットへと続いている。
「この方は?」
不安げに、相羽が宇島を見上げた。
「大丈夫ですよ。この方も、あなたと同じ境遇です」
それを聞き、しげしげと相羽は男を見た。
男はパーカーのポケットに両手を突っ込み、気だるげにガムを噛んでいる。その姿からは、諦念も悲壮さも感じられない。
「あ、じゃあこの人が行員の?」
男は視力が悪いのか、目を細めて相羽を見返す。
「そうだ」
「じゃあ、ナカーマですね。俺もギャンブルでやっちまって」
男は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
この男が自分と同じ? 相羽にはそれが信じられない。
まさか自分は騙されているのではないか。教えてはならないことを教えてしまったのではないか。
一度よからぬ想像をしてしまうと、焦りと恐怖、後悔がじわじわと相羽の精神を侵してゆく。
「パチ? 馬? 舟っすか?」
男は相羽の前に腰を屈め、愉しそうにそう尋ねた。
「おい、無駄話は後だ。相羽さん、安心してください。こいつは今回の計画に必要な奴ですから」
「そうっすよ。俺は久能連三郎。相羽さんでしたっけ? みんなでハッピーになりましょう!」
男は右手を差し出す。その勢いに押されてか、相羽は「よ、よろしくお願いします」とその手を握り返した。
「今度はまた不憫な名前だな」
「いいっしょ。ちょっと知り合いの名前を借りてみました」
どういうことですか、といった表情で相羽は宇島と男を交互に見た。
「偽名ですよ。こいつの癖みたいなものなので気になさらずに」
「ユーモアがあるっていってくださいよ」
久能は拗ねたようにいう。
「ま、そんなことはどうでもいい」
困惑する相羽に向かい、「そういうことです」と久能はピースサインを送った。
「そうだ、宇島さん。もう一人足りないみたいなんですけど、これで全員でしたっけ?」
「いや、直接はこれないが、そろそろ電話がくる頃だ」
宇島は携帯電話を取り出して、時刻を見る。午前九時五十九分。約束の時間まで後一分。
きっかり宇島の手にしたき携帯電話が震えだす。
「おう、こっちはみんな揃ってる」
宇島は電話に出るなりそういうと、皆に向かい携帯電話の画面を見せる。
『そうですか。どうも、λといいます』
聞こえてきたのは、明らかな人工音声。
久能は携帯電話の画面に顔を近づけ、「それ地声?」と問いかける。
『いえ、違いますよ』
「λっていうのは、ギリシャ文字?」
『そうとってもらって構いません』
久能は頭の上で手を組んで、「変わったお名前だ」と呟いた。
『もしかして、鶴間さんですか?』
「お、なに、俺のこと知ってんの?」
『うっすらと』
「でもね、今は違うんだ。久能連三郎、そういう感じだから、そこんところよろしくね」
久能の言葉に、λは『わかりました』と素直に答える。
「ねえ、宇島さん。この人もギャンブル狂?」
「こいつは違う。俺たちから金も借りてねぇ」
「じゃあ、どうして俺たちに手を貸すの?」
その問いに、『宇島さんには、恩義がありますので』とλは返す。
「恩義? なになに、宇島さんって善人だったの?」
「そんな話はどうでもいい。λ、そろそろ本題に入らせてもらうぞ」
『そうですね。その方がいいと思います』
宇島は「よし」と周囲を見回す。
まるで現実味のない話。けれどその現実が、重く相羽の身体にのしかかる。もう戻れはしないのだ、それが現実だ。
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