櫻花荘に吹く風~201号室の夢~

柚子季杏

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櫻花荘に吹く風~201号室の夢~ (31)

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 初体験の時だって、こんなにドキドキしたか、俺? いや、してないはずだ。
 部屋の前まで進んだ足音が、扉の前で止まった。躊躇うような一瞬の間に、緊張もピークに達する。
「ぁ……お、遅くなってごめん」
「いやっ、全然、大丈夫!」
 布団の上に正座の状態で、一体何が大丈夫分からないような返答を返した俺に、まーくんがくすりと微笑んでくれた。
「良くん、もしかして緊張してる?」
「ぅ……バレバレ?」
「あはは、そっか……良くんも緊張してるんだ……」
「まーくん?」
「僕だけが緊張してるんじゃなくて、ちょっとホッとした」
 そう口にしたまーくんが、俺の隣にすとんと腰を下ろした。
 はにかむように笑うその表情が、目茶苦茶可愛かった。
 足を崩して胡坐を掻いた俺の横から、湯上りの清潔な香りが漂ってくる。
「まーくん――最終確認、していい?」
「え?」
「今ならまだ、俺、我慢する……だけど、始めちゃったら俺、止めてあげられる自信無いからさ」
「――我慢なんて、しなくていいよ。その、ちゃんと、洗ってきたし……」
 恥ずかしそうに告げる声が耳に届いた瞬間、俺の中で何かがぷつりと、弾けた。

 気付いた時には、彼の身体を押し倒しながら、柔らかな唇の感触を味わっていた。
 自分でもがっつき過ぎだと思うのに、急いている気を落ち着ける術を見付けられないまま、細身の身体を布団へと縫い止めていた。
「んっ、んぅーっ」
「あ、ごめ……ごめん、まーくん!」
「は……っ、ビックリ、した……」
 二度目のキスはとても甘美で、触れ合った唇から全身を駆け巡る歓喜に、俺の中心はあっという間に育ってしまった。
 慌てたまーくんが俺の背中をタップしなければ、きっとこのまま突っ走っていたに違いないと思うほど、余裕の無い自分がそこにいた。
「どっかぶつけた? 大丈夫?」
「大丈夫……だけど……逃げたりしないから、そんなに焦らないでよ」
「ごめんっ」
「こういう経験には疎いから、上手く出来ないと思うけど……僕はどうすればいい? どうすれば、良くんに喜んでもらえるのかな?」
「まーくん……」
 呟いたまーくんが、目元を赤らめながら視線を逸らす。俺のTシャツの背を掴む彼の手が、小刻みに震えている。 その事が、焦っていた自分の心に、ほんの少しのブレーキを掛けてくれた。
「ビックリさせてごめん。今日は全部、俺にさせて? まーくんはただ、感じてくれればそれで十分だから」
「でもそれじゃ――」
「ずっとまーくんを抱きたかったんだ……俺も男の経験って無いから、下手かもしんないけど、頑張るからさ。だからまーくんは、気持ち良かったら気持ち良いって、ちゃんと教えて? それだけでいいから」
「良くん……分かった」
 頷きを返してくれたまーくんの、俺のTシャツを掴んでいた手が離れ、そのままゆっくりと首を引き寄せるように伸ばされた。
 逆らわずに身を任せれば、俺の肩口に鼻先を埋めたまーくんが、震える声を出した。
「僕は男だから、柔らかくも無いし、おっぱいも無いから……無理だったら、ちゃんと無理って言ってね」
 きゅっとしがみ付いて来るまーくんが、愛おしい。
 そんな心配なんて皆無だって事を、どう言ったら分かってもらえるだろうか。俺ならさっきからずっと、どうしようもない位、雄の本能と戦っているというのに。
 だってもう既に俺の分身は硬く滾ってその存在を示し、続く行為に対する期待から、下着を濡らし始めているほどだ。
「……ッ!」
「分かる? 俺ね、まーくん抱き締めてるだけで、もうこんな状態なんだよ……言ったろ? ずっと抱きたかったんだって」
 萎える心配なんてするだけ無駄だと、存在を誇示する昂ぶりを、彼の太腿へ擦り付ける。その感触に驚いたのか、一瞬身を竦ませたまーくんは、それでも小さく首を縦に振って応じてくれた。
「好きだよ、まーくん……」
「僕も、好き」

 身を起こした俺は、やり直しとばかりにゆっくりとまーくんへ覆い被さった。
 緊張に身を硬くする彼の額へ、瞼へ、鼻先へ、頬へ……順に優しくくちづけながら、少しでも緊張が解れるようにと、彼の髪を優しく梳いていく。
 風呂上りで幾分湿ったままの髪からは、シャンプーの良い香りが漂ってくる。その匂いにくらくらしながら、三度目となる優しいキスを交わした。

「少し、唇開けて?」
「……ん、っ」
 促しに薄っすらと出来た隙間から挿し込んだ舌で、奥まった場所に隠れている彼の舌を絡め取る。
 キスに慣れていない彼が、おずおずと俺の動きに応えてくれる。一生懸命な彼の不慣れだと丸分かりな行為が、尚も俺を煽る。
「……っ、は……ん」
 必死に呼吸を繰り返す彼の口腔を舌先で擽れば、それに合わせるように、鼻から抜け出た甘い声が、俺の耳を侵して行く。
 まーくんの反応を窺いながら、歯列を辿り、口腔内を余すところ無く味わう。
 唇の端から零れた唾液が、顎へと伝い落ちて行くのを眺めつつ、擦り合せた舌を吸い上げ、甘噛みしてやる。
 その度にピクリと身を震わせる彼のTシャツ越しに手の平を滑らせ、身体のラインをなぞる内に、徐々にまーくんの身体からは緊張が解けて行った。
「っ、まーくん……」
「ふぁ――ぁ、っん」
 俺の声に向けられた瞳は快楽に蕩け、やばい位の色気を放っている。
 こくりと小さく喉を鳴らし、荒い呼吸を繰り返している彼の首筋から耳朶へと、徐々に唇を這わせていく。
「ぁ、あっ、りょ……く……ぁっ、や…」
「嫌? 気持ち良くない?」
 耳朶にやんわりと歯を立てながら、身体のラインを辿っていた手の平を、彼の胸へと移動する。
 ツンと尖った感触に手を止め、転がすように、押し潰すように可愛がってやれば、まーくんがむずがるように頭を振った。
「おっぱい尖ってる……気持ちいいんだろ?」
「ひっ、ああっあ、良くんっ」
「どうしたの? 本当に嫌?」
 指先で捏ね繰り回し、ソフトに引っ掻く。
 途端に大きく背を逸らしたまーくんから、切羽詰った声が上がった。先ほどまでとは違う彼の様子に、どうしたものかと顔を起こす。そんな俺の目に飛び込んで来たのは、瞳を潤ませるまーくんの、脅えたような表情だった。
「そんなに嫌だった? やめる?」
「違、違う……だって、こんなの……こんなとこ……僕、変だよね?」
 キスの余韻なのか、興奮からなのか。困惑気味に瞳を揺らしながら、少し舌足らずに告げる彼が、愛おしくて仕方が無い。
「何で? おっぱい感じるの、怖い?」
「だっ、て……男、なのに……」
「男だって感じても良いじゃん? 俺はまーくんが気持ちいいところ、いっぱい知りたいよ? 感じてるとこ、いっぱい見たい」
「良……あっ」
「ほら、すっげ可愛い……小さいのに、ちゃんと尖って、もっと弄って欲しいって、俺の事誘ってる」
 不安そうな彼のTシャツを剥ぎ取り、両胸の尖りを上から見下ろす。
 腰を跨ぐ格好で見下ろした彼は、羞恥にその身体を薄桃色に染めていて、それが本当に綺麗で。
「変じゃない? こんなとこ、感じて……良くん、嫌にならない?」
 ああ、やっぱりそうか。心の中でそっと思う。
 さっきも彼は、自分と女の身体を比べるような事を言っていた。嫌がる態度も、不安げな様子も、全てが俺の反応を怖がっての事。
「嫌なわけ無いじゃん、全部食い尽くしたいくらいだ」
「ひぁっ……ん、ぅ――」
 視界に飛び込んでくる、可愛らしい尖り。他の部分よりもほんの少し濃い色をしたその突起が、俺を誘っていた。


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