新米ギルダーの異世界転生譚

プロローグ

02 : 目覚め、そして困惑

目の前には闇が広がっている。
辺りは静寂に包まれていて、ここが死後の世界であることを俺に伝えていた。

電車に轢かれた俺は、そんな空間でただふよふよと宙に浮いていた。
よく死後の世界は暗闇で当てもなく歩き続けるだけというが、どうやらその限りではないらしい。
まあ、こっちの方が楽だから助かるんだが。
意識があるが体を動かすことができないので、ただ思考を巡らすことしかできない。

ーー暇だ。

俺はもう死後の世界に飽きてしまった。
死んだら楽になると思っていたが、これはこれである意味楽じゃない。

と、意識が次第にはっきりとしてきたのか、微かな音が耳に響いてきた。寝る直前の、音は聞こえるがはっきりとは分からないような、そんな音だ。
さらに、少しだけなら体を動かせるようになってきた。指の先を少し動かしてみて、感覚があることも感じられた。
声も微かだが出せる。うまく発音はできないが、どんどんと体が思い通りになっていくのが分かる。

いいぞ、もしかしたらこのまま走れるくらいにまで体が動くようになるかもしれん。
そう思った矢先、急に体が左右に揺れた。
宙に浮いているはずの体が激しく動くという奇妙な感覚が、身体中を駆け巡る。

気のせいだろうか、次第に聞こえてくる音も大きくなってきた。
今まで風の音くらいだった音が、鳥のさえずり程の大きさになっていく。

「ーーーーん、ーーて」

幻聴だろうか、なんだか声のようなものまで聞こえてきた。
それと同時に、より激しく宙に揺られるのを感じる。

「おーーーちゃん、おーーーーて」

おかしい、聞こえてくる声が教師の怒鳴り声のような大きさになっていく。
腰辺りにも不思議な感触を覚える。
柔らかいもので突かれているような、不思議な感覚だ。
死後の世界って、こんなにもおかしなものなのか？

「おにーーーゃん、おーーて、ーーーて」

ああ、声がもう暴走族のバイクコール並にうるさくなってきた。
つい耳を塞ぎたくなるような音量だ。
だが体は少ししか動かないため耳を塞ぐことができない。
...だめだ、うるさすぎて冷静な思考ができない。
次にあんな爆弾みたいな音が聞こえたら、その瞬間大声で怒ってや

「お兄ちゃん、起きてーーーーー！！！」

「うるさぁぁぁぁあーーーーーーーーい！！！！！！！！」

俺はそう叫びながら上半身を起こす。

目の前が急に明るくなり、思わず目を瞑る。
さっきとは違って、体全体にしっかりとした感覚がある。
恐る恐る目を開けていくと、そこには闇ではなく、しっかりとした色があった。
俺は目を細めながら、さっき声が聞こえた方向に目を向ける。

そこには、頭にちょこんとした耳を生やした、可愛らしい幼女がいた。
俺が急に叫んだからだろうか、その幼女は腰を抜かして尻餅をついていて、綺麗な蒼色の瞳には涙が溜まっていた

「あ、あの...その...ご、ごめんな？」

俺が謝罪の証として手を合わせようとすると、

「お兄ちゃんが怒ったぁぁぁ～」

と泣いてどこかへ走って行ってしまった。
...これは俺が悪いんだろうか？

ここで、さっきまでの異様な揺れと大きな声は、あの幼女が俺を起こそうとしてくれていたものだと気づく。
ということは、俺は、俺を起こそうとしてくれていた幼女に、大きな声で怒鳴ってしまった訳だ。

...何か申し訳ない気持ちになってきた。
あとで会ったらもう一回謝ろう。

だがそれより今は、もっと大きな解決すべき問題があった。

「ここ...どこだ？」