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第27記
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メレキはその姿を見つけて、その食器を持ったまま小走りに駆け寄って行く。
「ドーアン!」
その声、姿を見なくても知っている。
「なんだよ・・、メレキか」
彼は、だけれど、わざわざその姿を確認してから、呟くように言う。
こんなざわめきの中、その呟きは聞こえる筈もないだろうが。
「ドーアン!」
そう大きな声で呼びながら、立ち止まったドーアンの側まで駆け寄るメレキはいつに無く・・、心細そうだった。
その原因は、何となく、わかる。
初めて戦場に立つ自分への心配、それから・・・。
「なんだよ、メレキ」
「なんだじゃないでしょ、こんな時くらい・・」
「・・オラベドゥ?」
「・・・やっぱり戦うの?」
「ゥッシーダ、何度も言ってるだろ」
「なんで、・・オゥベ、」
「俺ももう、戦える。そういう年だろ。皆そうしてる」
「・・・絶対、ピゥパから離れちゃダメだよ」
「わかってるよ、ダーナさんに殴られるのはもう嫌だから・・けど・・、は、はは・・・何だか・・・いや、なんでもない・・」
「・・・ドーアン?」
「なんでもない、ダーナさんに迷惑はかけない、うん」
「・・オンベィテ、ヴァゥファ?ャァフォ」
「うん・・・」
「メイア・・に、お祈りするから。ピゥパとドーアン、皆をお守りくださいって」
「・・・うん」
頷くドーアンは・・そのまま、顔を上げなかった・・・。
メレキは・・俯いたドーアンを・・腕を伸ばして、ぎゅっと抱きしめる。
そして、背中を優しく叩きながら諭すように耳元で呟いた。
「アイチァフォ、アイチァフォ、ルマ ノリアントフ・・コァン・テャルノ・・・」
「・・メィア・・・みたいだな」
2人は、だからこそ、その温もり、ドーアンが身体が熱いような、芯で何かが燻っているような、自分がそういう状態である事が感じられるまで。
メレキが、自分の落ち着きを取り戻させてくれたのを感じる・・・。
「よお、ここにいたのかよ。ドー、」
って、言われて、びくっとドーアンが慌ててメレキを突き放して離れるから、メレキはちょっと驚いたけれど。
「邪魔だったか?」
「邪魔ってなんだよ、なんすか?なんか用すか?」
「アシャカさんたちが探してたぜ」
「え・・」
名前を聞いて、ちょっとビビったようなドーアンだったけれど。
ちらりとメレキの心配そうな顔を見たドーアンは、小走りに駆けてく・・集まるみんなの傍を縫って、彼の背中は振り返らなかった。
・・ドーアンを見送っているメレキへ、呼びに来た彼は頭をぽりぽり掻きながら気恥ずかし気に言ってやる。
「安心しろよ、新人ぐらい守ってやれるさ。」
「・・よろしくお願いします。」
まだ不安そうな彼女だが、彼は頷いてやって、踵を返して離れて行く。
飲み食いする仲間の彼らをドーアンが掻き分けるように歩いていく。
大きな声でおどける人もいるが、それを笑う彼らも腹を満たし蓄えて戦いの準備をしている。
そんなみんなの様子を見渡せるような位置で過ごしていたアシャカを見つけ、ドーアンはその傍に立った。
「ダッハ、」
傍の彼らも胡坐をかいて食事に笑顔を見せていたが、顔を上げてドーアンを見つけた。
「おお、来たか。」
「食ってるか?」
「食える時に喰っとけよ」
そんな声を掛けられる中で、アシャカが立ち上がるのをドーアンは目で追っていた。
「みんな聞け!今日からCross Handerに加わる事になったドーアンだ!知らない奴はいないだろうが、目をかけてやれよ!」
「おおー!」
「おっと、知らないと言えばドームから来た戦士たちもいるが、食ってるか?ん?どこだ?」
「こっちにいますよ、」
と、手を上げて呼ぶ仲間の彼らが、向こうの離れた所で腰掛け食事をしていたドームから来た4人組、ミリア達を指差していた。
ミリアが手を上げて見せて挨拶を返すのも見ていた。
「今日はよろしく頼む。つうことで、伝統的な『あれ』をやるぞ」
『おおうぅ』
低く野太い声がいくつも上がる中で、ダーナトゥがドーアンに黒い布生地を手渡す。
「お前の『ゲハライ』だ」
ダーナトゥはその強面の顔を、表情を移すこともなくドーアンの目を見つめていた。
「・・ありがとうございます。」
ドーアンは彼の目を見つめ返すまま、それをしっかりと握る。
「行って来い、」
「はい、」
ドーアンは声に背中を押されるように、集まって来ていた傍の彼らへその黒い布の『ゲハライ』を差し出す。
「デッハラァス、クェィマン」
「マピンカウーダ」
老人の彼はドーアンから黒い『ゲハライ』を受け取り、手に持っていた陶器の中に詰められ灰色の粉をその黒い布にまぶし、馴染ませるように両手で擦りつけると、粉がまぶされた『ゲハライ』でドーアンの肩の辺りの何かを擦り取ってやるような仕草をした。
その『ゲハライ』を傍の彼らに回していく、彼はその布でドーアンの腹を叩くように少し強めにだが当てて。
気が付いたドーアンが上のシャツを脱ぎ始め、上半身を裸になる。
「姉貴にあんまり心配かけるなよな」
「・・わかってますよ、」
頬を『ゲハライ』で叩かれるドーアンへ、彼はにやっと笑いながら次の仲間へ黒い『ゲハライ』を手渡し回していく。
「お前もとうとうだな、しくじんなよ」
「頑張れ、」
それらは、人から人に渡って行く『ゲハライ』を追うようにドーアンは歩く、その先には聖なる道が続いていく――――――。
―――――ミリアが彼らを見ていて、上半身を裸になった青年がみんなから・・祝福を受けているのか・・・?奇妙な光景を見ている気がする。
場合によっては、苛められているように見えなくもないのだが。
「あれは、何をしてるんですか?」
傍のカウォとリタンへ聞いてみる。
彼らならこの村の人だし知っているだろう。
「『ゲハライ』に・・まじないをしている」
リタンは、静かにそう答えたが。
カウォがその横から口を開いてくれる。
「厄除け、だな。彼らは『ゲハライ』をお守りとして、懐に忍ばす。」
「『ゲハライ』?」
「戦いに持っていく布だな。昔の名残だと思うが、あると様々な場面で使えるからな。移動の手助けにもなり何かを縛る事もでき、応急手当もできる。」
「なるほど。それで、祝福しているんですね?」
「祝福・・そうだな。そうとも言えるか。俺も説明できるほど詳しくは知らないが。」
カウォがちらりと見るその仕草は、リタンの方が詳しい、ということみたいだ。
「その理解で間違いはないが、ドーアンはいまコァンに・・見られている。」
「見られる・・・?」
「品定めってことか、」
ガイがわかったらしい。
「ああ。そして、血の付いた『ゲハライ』は形見にもなる。」
リタンがそう、静かに付け加えていた。
ミリアは、それを聞いて、・・・口を閉じていたけれど。
「はぁん・・・、はぐっ」
ケイジがいまいちピンと来てない様子で、スプーンでシチューの肉の塊を齧《かじ》っていた。
ミリアが横目でそんな様子を見ていたが、ケイジの隣のリースはこっちの話に全く興味がないようで、目をつむってぴくりとも動いてないようだった。
目を戻したミリアが少し様子を見守ってて気が付く、こちらへ近づいてきているあの上半身裸の青年を。
アシャカさんたちに誘導されるようにこちらへ歩いてきているようだった。
そして目の前まで来た彼らと、屈託のない笑顔を見せるアシャカさんだ。
「ミリア殿、そしてドームから来た戦士たちよ。」
ミリアは少し嫌な予感がしていたけれど。
「『ゲハライ』で示してくれ」
「はい?」
きょとんとするミリアは、ガイたちにちょっと瞬く目を向けたけど、ガイは肩を竦めつつ首を横に振っててよくわからないらしいし、ケイジは眉を寄せたまま面白そうなものを見ている顔をしているし、リースは当然寝ている。
「『ゲハライ』を受け取って、彼の身体の好きな所を汚せばいいんだ」
って、カウォが言っていたが。
好きな所って・・・ミリアは、その褐色の筋肉質な体をした青年の身体が目の前にあるのを、ちょっと直視してはいけない気がしているのだが。
「頼む」
ってドーアン本人にも言われた。
仕方なくミリアは、ドーアンからその粉塗れの黒い布、『ゲハライ』と言うんだったか、それを受け取って。
とりあえず、別に変な事じゃない、と受け入れる事にした。
「なに、どこでもいい。外から来た戦士たちに歓迎されたとなると、ドーアンの箔も付く」
なんか、特別視されてるみたいでくすぐったいけれども。
ミリアは彼の身体をちゃんと正視する。
夕暮れの光に照らされる彼の身体は仲間たちに汚され、ほぼ黒く汚れた首筋や肩、お腹や腰の辺りまで黒い。
呼吸をする彼の胸は動いていて、汗ばむような肌の光があるけれど。
えーと、とりあえず、一番無難そうな・・胸の辺り、まだ汚れてなさそうな胸の真ん中の辺りを、その布で軽く拭くようにした。
黒い粉を擦りつけて更に汚した感じに、彼の肌に触れたような指に彼の熱気を感じた気がした。
彼はずっと私を見ていた気がする、ちらっと私が視線を上げれば、動かない彼の黒い目と目が一瞬・・合った。
「ありがたい。」
アシャカさんに言われて、視線を逸らしたミリアはちょっくすぐったかったけれど。
「はい、ガイ。」
って、ミリアに差し出されて。
「え、俺もか、」
ガイがちょっと目を丸くしてた。
「ほら、」
ミリアの短い言葉の強い押しに、ガイはあまり抵抗もせずに受け取っていた。
「ケイジとリースもやるからね、」
ってミリアが言ったからケイジがぴくっとしてたし、リースが片目を開けてこっちの様子を見たのは、寝てた振りがバレたと思ったからみたいだった。
結局、ガイは肩の首寄りの場所に、ケイジはその黒い布を持って少し止まって探してたようだが耳たぶに、リースはケイジに手渡されて無造作に鳩尾《みぞおち》に、たぶん手から最短距離の場所に押し付けてた。
ドーアンがちょっと、ぐふっと漏らしたけれど。
「ありがとう」
って、それでもリースから受け取る本人に感謝されてた。
カウォとリタンもドーアンへその『ゲハライ』の所作をそれぞれで送った。
そして、アシャカさんが言った。
「『メレクゥタ』は、本来はもっとやる事がある。だが、今は短くした。仲間たちへの信頼の儀式だ、」
「メレクゥ・・?」
「成人の儀式みたいなものだ」
そうか、彼らにとっては今が厳戒態勢に近いから。
のんびりとお祭りのようなことをやっているわけにはいかないのだろう。
「コァンへ示してくれて感謝する。戦いに向けて栄養を付けてくれよ」
踵を返し戻って行く彼らが、集まりの中心へ戻って行く。
その姿たちを見送っていたミリア達だが、誰からともなくまた傍に腰を預けていく。
見守っていれば彼らはまた遠くで別の何かをして、誰かと笑い合うようだった。
儀式の続きだろうか、彼らの言葉か、独特の発音で話しているのか、歌っているようにも聞こえる。
その仲間への信頼の儀に、私も加わったのかと思うと。
なんだろう。
不思議と、彼らを見回す余裕ができたような気がした。
彼ら1人、1人の顔を。
彼らは、同じような格好をしていても、顔や表情や雰囲気がそれぞれ違う。
「ドーアン!」
その声、姿を見なくても知っている。
「なんだよ・・、メレキか」
彼は、だけれど、わざわざその姿を確認してから、呟くように言う。
こんなざわめきの中、その呟きは聞こえる筈もないだろうが。
「ドーアン!」
そう大きな声で呼びながら、立ち止まったドーアンの側まで駆け寄るメレキはいつに無く・・、心細そうだった。
その原因は、何となく、わかる。
初めて戦場に立つ自分への心配、それから・・・。
「なんだよ、メレキ」
「なんだじゃないでしょ、こんな時くらい・・」
「・・オラベドゥ?」
「・・・やっぱり戦うの?」
「ゥッシーダ、何度も言ってるだろ」
「なんで、・・オゥベ、」
「俺ももう、戦える。そういう年だろ。皆そうしてる」
「・・・絶対、ピゥパから離れちゃダメだよ」
「わかってるよ、ダーナさんに殴られるのはもう嫌だから・・けど・・、は、はは・・・何だか・・・いや、なんでもない・・」
「・・・ドーアン?」
「なんでもない、ダーナさんに迷惑はかけない、うん」
「・・オンベィテ、ヴァゥファ?ャァフォ」
「うん・・・」
「メイア・・に、お祈りするから。ピゥパとドーアン、皆をお守りくださいって」
「・・・うん」
頷くドーアンは・・そのまま、顔を上げなかった・・・。
メレキは・・俯いたドーアンを・・腕を伸ばして、ぎゅっと抱きしめる。
そして、背中を優しく叩きながら諭すように耳元で呟いた。
「アイチァフォ、アイチァフォ、ルマ ノリアントフ・・コァン・テャルノ・・・」
「・・メィア・・・みたいだな」
2人は、だからこそ、その温もり、ドーアンが身体が熱いような、芯で何かが燻っているような、自分がそういう状態である事が感じられるまで。
メレキが、自分の落ち着きを取り戻させてくれたのを感じる・・・。
「よお、ここにいたのかよ。ドー、」
って、言われて、びくっとドーアンが慌ててメレキを突き放して離れるから、メレキはちょっと驚いたけれど。
「邪魔だったか?」
「邪魔ってなんだよ、なんすか?なんか用すか?」
「アシャカさんたちが探してたぜ」
「え・・」
名前を聞いて、ちょっとビビったようなドーアンだったけれど。
ちらりとメレキの心配そうな顔を見たドーアンは、小走りに駆けてく・・集まるみんなの傍を縫って、彼の背中は振り返らなかった。
・・ドーアンを見送っているメレキへ、呼びに来た彼は頭をぽりぽり掻きながら気恥ずかし気に言ってやる。
「安心しろよ、新人ぐらい守ってやれるさ。」
「・・よろしくお願いします。」
まだ不安そうな彼女だが、彼は頷いてやって、踵を返して離れて行く。
飲み食いする仲間の彼らをドーアンが掻き分けるように歩いていく。
大きな声でおどける人もいるが、それを笑う彼らも腹を満たし蓄えて戦いの準備をしている。
そんなみんなの様子を見渡せるような位置で過ごしていたアシャカを見つけ、ドーアンはその傍に立った。
「ダッハ、」
傍の彼らも胡坐をかいて食事に笑顔を見せていたが、顔を上げてドーアンを見つけた。
「おお、来たか。」
「食ってるか?」
「食える時に喰っとけよ」
そんな声を掛けられる中で、アシャカが立ち上がるのをドーアンは目で追っていた。
「みんな聞け!今日からCross Handerに加わる事になったドーアンだ!知らない奴はいないだろうが、目をかけてやれよ!」
「おおー!」
「おっと、知らないと言えばドームから来た戦士たちもいるが、食ってるか?ん?どこだ?」
「こっちにいますよ、」
と、手を上げて呼ぶ仲間の彼らが、向こうの離れた所で腰掛け食事をしていたドームから来た4人組、ミリア達を指差していた。
ミリアが手を上げて見せて挨拶を返すのも見ていた。
「今日はよろしく頼む。つうことで、伝統的な『あれ』をやるぞ」
『おおうぅ』
低く野太い声がいくつも上がる中で、ダーナトゥがドーアンに黒い布生地を手渡す。
「お前の『ゲハライ』だ」
ダーナトゥはその強面の顔を、表情を移すこともなくドーアンの目を見つめていた。
「・・ありがとうございます。」
ドーアンは彼の目を見つめ返すまま、それをしっかりと握る。
「行って来い、」
「はい、」
ドーアンは声に背中を押されるように、集まって来ていた傍の彼らへその黒い布の『ゲハライ』を差し出す。
「デッハラァス、クェィマン」
「マピンカウーダ」
老人の彼はドーアンから黒い『ゲハライ』を受け取り、手に持っていた陶器の中に詰められ灰色の粉をその黒い布にまぶし、馴染ませるように両手で擦りつけると、粉がまぶされた『ゲハライ』でドーアンの肩の辺りの何かを擦り取ってやるような仕草をした。
その『ゲハライ』を傍の彼らに回していく、彼はその布でドーアンの腹を叩くように少し強めにだが当てて。
気が付いたドーアンが上のシャツを脱ぎ始め、上半身を裸になる。
「姉貴にあんまり心配かけるなよな」
「・・わかってますよ、」
頬を『ゲハライ』で叩かれるドーアンへ、彼はにやっと笑いながら次の仲間へ黒い『ゲハライ』を手渡し回していく。
「お前もとうとうだな、しくじんなよ」
「頑張れ、」
それらは、人から人に渡って行く『ゲハライ』を追うようにドーアンは歩く、その先には聖なる道が続いていく――――――。
―――――ミリアが彼らを見ていて、上半身を裸になった青年がみんなから・・祝福を受けているのか・・・?奇妙な光景を見ている気がする。
場合によっては、苛められているように見えなくもないのだが。
「あれは、何をしてるんですか?」
傍のカウォとリタンへ聞いてみる。
彼らならこの村の人だし知っているだろう。
「『ゲハライ』に・・まじないをしている」
リタンは、静かにそう答えたが。
カウォがその横から口を開いてくれる。
「厄除け、だな。彼らは『ゲハライ』をお守りとして、懐に忍ばす。」
「『ゲハライ』?」
「戦いに持っていく布だな。昔の名残だと思うが、あると様々な場面で使えるからな。移動の手助けにもなり何かを縛る事もでき、応急手当もできる。」
「なるほど。それで、祝福しているんですね?」
「祝福・・そうだな。そうとも言えるか。俺も説明できるほど詳しくは知らないが。」
カウォがちらりと見るその仕草は、リタンの方が詳しい、ということみたいだ。
「その理解で間違いはないが、ドーアンはいまコァンに・・見られている。」
「見られる・・・?」
「品定めってことか、」
ガイがわかったらしい。
「ああ。そして、血の付いた『ゲハライ』は形見にもなる。」
リタンがそう、静かに付け加えていた。
ミリアは、それを聞いて、・・・口を閉じていたけれど。
「はぁん・・・、はぐっ」
ケイジがいまいちピンと来てない様子で、スプーンでシチューの肉の塊を齧《かじ》っていた。
ミリアが横目でそんな様子を見ていたが、ケイジの隣のリースはこっちの話に全く興味がないようで、目をつむってぴくりとも動いてないようだった。
目を戻したミリアが少し様子を見守ってて気が付く、こちらへ近づいてきているあの上半身裸の青年を。
アシャカさんたちに誘導されるようにこちらへ歩いてきているようだった。
そして目の前まで来た彼らと、屈託のない笑顔を見せるアシャカさんだ。
「ミリア殿、そしてドームから来た戦士たちよ。」
ミリアは少し嫌な予感がしていたけれど。
「『ゲハライ』で示してくれ」
「はい?」
きょとんとするミリアは、ガイたちにちょっと瞬く目を向けたけど、ガイは肩を竦めつつ首を横に振っててよくわからないらしいし、ケイジは眉を寄せたまま面白そうなものを見ている顔をしているし、リースは当然寝ている。
「『ゲハライ』を受け取って、彼の身体の好きな所を汚せばいいんだ」
って、カウォが言っていたが。
好きな所って・・・ミリアは、その褐色の筋肉質な体をした青年の身体が目の前にあるのを、ちょっと直視してはいけない気がしているのだが。
「頼む」
ってドーアン本人にも言われた。
仕方なくミリアは、ドーアンからその粉塗れの黒い布、『ゲハライ』と言うんだったか、それを受け取って。
とりあえず、別に変な事じゃない、と受け入れる事にした。
「なに、どこでもいい。外から来た戦士たちに歓迎されたとなると、ドーアンの箔も付く」
なんか、特別視されてるみたいでくすぐったいけれども。
ミリアは彼の身体をちゃんと正視する。
夕暮れの光に照らされる彼の身体は仲間たちに汚され、ほぼ黒く汚れた首筋や肩、お腹や腰の辺りまで黒い。
呼吸をする彼の胸は動いていて、汗ばむような肌の光があるけれど。
えーと、とりあえず、一番無難そうな・・胸の辺り、まだ汚れてなさそうな胸の真ん中の辺りを、その布で軽く拭くようにした。
黒い粉を擦りつけて更に汚した感じに、彼の肌に触れたような指に彼の熱気を感じた気がした。
彼はずっと私を見ていた気がする、ちらっと私が視線を上げれば、動かない彼の黒い目と目が一瞬・・合った。
「ありがたい。」
アシャカさんに言われて、視線を逸らしたミリアはちょっくすぐったかったけれど。
「はい、ガイ。」
って、ミリアに差し出されて。
「え、俺もか、」
ガイがちょっと目を丸くしてた。
「ほら、」
ミリアの短い言葉の強い押しに、ガイはあまり抵抗もせずに受け取っていた。
「ケイジとリースもやるからね、」
ってミリアが言ったからケイジがぴくっとしてたし、リースが片目を開けてこっちの様子を見たのは、寝てた振りがバレたと思ったからみたいだった。
結局、ガイは肩の首寄りの場所に、ケイジはその黒い布を持って少し止まって探してたようだが耳たぶに、リースはケイジに手渡されて無造作に鳩尾《みぞおち》に、たぶん手から最短距離の場所に押し付けてた。
ドーアンがちょっと、ぐふっと漏らしたけれど。
「ありがとう」
って、それでもリースから受け取る本人に感謝されてた。
カウォとリタンもドーアンへその『ゲハライ』の所作をそれぞれで送った。
そして、アシャカさんが言った。
「『メレクゥタ』は、本来はもっとやる事がある。だが、今は短くした。仲間たちへの信頼の儀式だ、」
「メレクゥ・・?」
「成人の儀式みたいなものだ」
そうか、彼らにとっては今が厳戒態勢に近いから。
のんびりとお祭りのようなことをやっているわけにはいかないのだろう。
「コァンへ示してくれて感謝する。戦いに向けて栄養を付けてくれよ」
踵を返し戻って行く彼らが、集まりの中心へ戻って行く。
その姿たちを見送っていたミリア達だが、誰からともなくまた傍に腰を預けていく。
見守っていれば彼らはまた遠くで別の何かをして、誰かと笑い合うようだった。
儀式の続きだろうか、彼らの言葉か、独特の発音で話しているのか、歌っているようにも聞こえる。
その仲間への信頼の儀に、私も加わったのかと思うと。
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