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第八話 デイアボロス

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 シオンの育った村とシークワント家へ来る前の話です。子どもに対して薄情だと思われるかもしれません。人道にもとる倫理観の蔓延はびこる村の話です。苦手な方はお控えください。そういう作品だと思ってお読みいただける方のみ、先へお進みください。


*∽*∽*∽*∽*


 「おー、ピンクの髪の子だなー」
 「ピンクだ」
 「ピンクだねえ」
 「えー?私の子が可哀相じゃない。もうそんな罰ゲーム的なものやめましょうよー」
 「娯楽は大切だよ、アップル」
 「もー、面倒くさいなあ。ねえ、ティオ、あなたも反対してよ。私との可愛い子が罰ゲームとかイヤでしょう?」
 デイアボロスの村は、ピンク色の髪の子が生まれたら、どこかの国を混乱ざまぁさせるために育て、その混乱ざまぁを見て楽しむ、という悪魔的娯楽を取り入れた村だった。
 「そうだね。キミとの愛の証が離れてしまうのはつらいけれど、またキミと二人きりで過ごせる時間が早めに来ると思うと悪くないね」
 「もー。でもさあ、ガチムチに育ったらどうするのよー」
 「それはそれでいいんじゃないか?」
 「そうそう。育ち方によって計画変えるだけだし」
 「やっぱ王族狙うのが一番でしょ」
 「それなら手っ取り早く王太子がいいな」
 「だったらネレスト国が一番歳近いんじゃないかな」
 「ネレストだと、この子の一つ上に第二王子がいるから、そっちの方が濃厚じゃないかしら」
 「王太子は三つ上か。微妙だな」
 狙えなくはないが、王太子誕生にあわせて、上位貴族がベビーラッシュだからだ。もちろん、第二王子にしても同じだが。
 「王太子の方が手っ取り早いけど、どっちでもいいよ」
 「でも、二人の子だし、えらい美少女に育つんじゃね?」
 「び、」
 「しょう、」
 「じょ?」
 「ヤバイ。楽しいシナリオが頭の中に」
 「奇遇だな。俺もだ」
 「私もよ」
 妄想がとどまるところを知らない。
 「キトラレアは?王太子、二歳でしょ。ネレストより近いよ」
 「キトラレアは何回かやってるよ。それに、美少女路線で行くならラーズウェルは?これまで歳の巡りが悪くて滅多にないから、ラーズウェルにしよう」
 「アップルとティオの息子・・の双肩にかかっているぞー」
 「プレッシャーが凄すぎて耐えられそうもないわー。だからしっかりサポートお願ーい」
 こうしてシオンと名付けられた少年・・の未来は決まった。

*~*~*~*~*

 「誰よりも可愛い。自信持て!」
 カシがシオンの肩をバシバシ叩く。
 「それはわかってる」
 その反動でブレながら、シオンは平然と答えた。
 「わかってるんかーい」
 「自分で言うなよ」
 プラムとヒイラギがツッコむ。
 「じゃあ何でそんな顔してんだよ」
 カシが首を傾げる。
 「淋しいの?」
 「あー、サミシイサミシイ」
 プラムの言葉に、シオンはおざなりに返事をする。
 「下手か。もっと淋しがれ」
 すかさずヒイラギにツッコまれ、バカな空気にみんなが笑う。そうして一頻ひとしきり笑うと、不安そうにシオンが口を開いた。
 「なんか、さ、オレ」
 珍しく言い淀むシオンの言葉を、幼馴染み三人はジッと待った。
 「自信、なくて」
 ポツリと零れた言葉に、三人は目を見開く。
 「何言ってんだよ!誰がどう見ても誰よりも美少女だ!俺が嫁にもらってもいいくらいに!」
 カシが不安を吹き飛ばすように、シオンの背中を叩く。
 「僕もだ!」
 「あたしもよ!」
 「プラムは普通におまえが嫁になれよ」
 ヒイラギ、プラム、カシの言葉に、シオンは困ったように笑う。
 「いや、そこじゃねぇ。オレ、イラついて滅ぼしちまわねぇかな、って」
 みんなが黙った。
 今回シオンが課せられたのは、王族に取り入り贅を尽くして疲弊させ内乱を起こさせる、というものだった。
 「そんなことねぇよって誰か言えよ」
 沈黙を破ったのはシオンだった。
 「そんな未来しか見えなかった」
 カシが遠い目をする。
 「以下同文」
 「あたしも」
 「嘘でも慰めや励ましはねぇのか」
 シオンが胡乱うろんな目を向ける。
 「ダイジョブヨー」
 「オマエ、ヤレル、デキルコ」
 「モンダイナシ」
 「オマエラガトモダチデヨカッタヨー」
 プラム、ヒイラギ、カシに続いてシオンもそう言うと、
 「ひどいよシオン!なんでそんなに心がこもってないの?!」
 「親友にそれはない!」
 「暫く会えなくなることを何と心得る?!」
 プラムは目に涙を溜め、カシは滂沱し、ヒイラギは目を血走らせている。
 「悪いのはオレなのか?」



*つづく*
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