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10.あなたは一体誰ですか?
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「ならば僕は、僕以外のものからリオを守ろう」
カダージュは、鬱陶しいとばかりに、その顔を覆う髪をかき上げた。
誰もが息をすることを忘れた。
初めて衆目に晒されたカダージュ。
淡い水色の髪が一房顔に落ち、それが色気を感じさせる。皇家の証である金の瞳は、恐ろしいほど怜悧であった。
なんと美しい。
誰もが目を離せなかった。
「リオも友人と話をしたいだろうと離れたのに。おまえたちのような者にリオの時間を与えてしまうなんて」
苦々しく溜め息を吐き、冷淡な光を帯びた皇家色の目が、子息子女たちを見下ろす。
「おまえの領地の害虫被害がなくなったのは何故だと思う」
突然のカダージュの言葉に、メリオラーザを囲んでいた一人の子女が肩を揺らす。痛いほど刺さる視線に、青ざめて何も言えない。
いつも何を言っているのかわからないほど聞き取れない声は、凜として、人を従わせる力を帯びている。
「おまえの領地の治水が成功したのは何故だと思う」
また別の子息がカダージュに見据えられ、肩を揺らす。
「おまえの領地の特産物である綿花の生産量が増えたのは何故だと思う」
的確に、人物とその問題であった事象を述べていくことに、最早声が出ない。顔合わせらしい事などしたことがない。陰気で怠惰な皇子が、一人一人を認識し、その領地まで把握しているなんて思わない。
これは、この人は一体、誰だ。
自分たちの知るカダージュではない。怠惰で愚かで何も出来ない、皇族に見放された存在ではなかったか。
「もっと言おうか。この国のインフラが飛躍的に整ったのは何故だ。大きな災害が起こっても飢饉に見舞われないのは何故だ。他国の物資が手に入りやすくなったのは。流行病が蔓延しないのは」
近年次々に様々な問題が解消されていっていた。その恩恵は、計り知れない。それをもたらしてくれたのは、もしや。
「すべてここにいるリオのお陰だ」
「違いますわっ」
恐ろしい発言に、メリオラーザは即座に否定する。
しかし。
「違わないんだよ、ティシモ嬢」
第一皇子レヴェージュが言った。
最も皇太子に近いと言われる、優秀すぎるほど優秀なレヴェージュ。そのレヴェージュが、カダージュの発言を否定しない。
「そうですわ。メリオラーザ様、あなたがいなかったら、カダージュはこれ程早く動かなかったでしょう」
とは、元第二皇女、現公爵夫人フィラの言葉だ。
「そうそう。いつかは重い腰を上げてはくれただろうけどね」
第三皇子ラウェージュも続く。
「それでもティシモ嬢に出会わなければ、きっとカダージュの言った内のどれか一つか二つくらいが精々だったと思いますね」
第二皇子セダージュまでそんなことを口にする。
「本当に、メリオラーザ様には感謝しかございませんのよ」
元第一皇女、現隣国第二王子妃シャラが謝意を口にすると、皇帝と皇妃も頷いた。
皇族全員、皇妃に皇帝までもが、カダージュの功績であると認めていることに、会場は静まり返っていた。
第四皇子は、皇族から見放されているのではなかったのか?
これは、一体、どういうことなのだ。
多くの者が動揺する中、皇帝が口を開く。
「因みに以前、カダージュの成人の儀の前に終わらせたと言っていた二枚の書類だが、ティシモ嬢は覚えているか」
もちろん覚えている。メリオラーザは、是を口にする。それに皇帝は頷くと、続けた。
「一枚の造船に関する方は、来年の春に試作が完成する。問題がなければ、今までの半分の時間で航行が可能となり、燃料も従来の三分の一で済む」
「もう一枚の発電に関する方は、試運転が問題なく行われている。一月後には次の段階に行く。このまま順調にいけば、三年以内には国内すべてに電気が通る」
皇帝とレヴェージュの言葉に、誰もが言葉を失った。
そう。メリオラーザとのデートのために完成させた書類。あの時、メリオラーザが席を外していたのは三時間ほど。たったそれだけの時間で、カダージュはその二つの設計を完成させたのだ。メリオラーザが呆れた息をついたのは、二枚しか終わらせられなかったのか、ではない。二枚も終わらせたのか、というその底知れぬ頭脳故であった。
カダージュの机の上の書類は決して多くない。だがそれは、すべてカダージュであれば出来る仕事。決して急がない、気が向いたときにやってくれればありがたい。そう言う書類が、カダージュの机には置かれるのだ。
「個別に領地の問題が解決したのは何故だと思います?」
セダージュが貴族たちに問う。メリオラーザを嗤った者たちは、顔を青くする。これまでの話からすると、頭に浮かんだ答えで間違いないだろう。
*つづく*
カダージュは、鬱陶しいとばかりに、その顔を覆う髪をかき上げた。
誰もが息をすることを忘れた。
初めて衆目に晒されたカダージュ。
淡い水色の髪が一房顔に落ち、それが色気を感じさせる。皇家の証である金の瞳は、恐ろしいほど怜悧であった。
なんと美しい。
誰もが目を離せなかった。
「リオも友人と話をしたいだろうと離れたのに。おまえたちのような者にリオの時間を与えてしまうなんて」
苦々しく溜め息を吐き、冷淡な光を帯びた皇家色の目が、子息子女たちを見下ろす。
「おまえの領地の害虫被害がなくなったのは何故だと思う」
突然のカダージュの言葉に、メリオラーザを囲んでいた一人の子女が肩を揺らす。痛いほど刺さる視線に、青ざめて何も言えない。
いつも何を言っているのかわからないほど聞き取れない声は、凜として、人を従わせる力を帯びている。
「おまえの領地の治水が成功したのは何故だと思う」
また別の子息がカダージュに見据えられ、肩を揺らす。
「おまえの領地の特産物である綿花の生産量が増えたのは何故だと思う」
的確に、人物とその問題であった事象を述べていくことに、最早声が出ない。顔合わせらしい事などしたことがない。陰気で怠惰な皇子が、一人一人を認識し、その領地まで把握しているなんて思わない。
これは、この人は一体、誰だ。
自分たちの知るカダージュではない。怠惰で愚かで何も出来ない、皇族に見放された存在ではなかったか。
「もっと言おうか。この国のインフラが飛躍的に整ったのは何故だ。大きな災害が起こっても飢饉に見舞われないのは何故だ。他国の物資が手に入りやすくなったのは。流行病が蔓延しないのは」
近年次々に様々な問題が解消されていっていた。その恩恵は、計り知れない。それをもたらしてくれたのは、もしや。
「すべてここにいるリオのお陰だ」
「違いますわっ」
恐ろしい発言に、メリオラーザは即座に否定する。
しかし。
「違わないんだよ、ティシモ嬢」
第一皇子レヴェージュが言った。
最も皇太子に近いと言われる、優秀すぎるほど優秀なレヴェージュ。そのレヴェージュが、カダージュの発言を否定しない。
「そうですわ。メリオラーザ様、あなたがいなかったら、カダージュはこれ程早く動かなかったでしょう」
とは、元第二皇女、現公爵夫人フィラの言葉だ。
「そうそう。いつかは重い腰を上げてはくれただろうけどね」
第三皇子ラウェージュも続く。
「それでもティシモ嬢に出会わなければ、きっとカダージュの言った内のどれか一つか二つくらいが精々だったと思いますね」
第二皇子セダージュまでそんなことを口にする。
「本当に、メリオラーザ様には感謝しかございませんのよ」
元第一皇女、現隣国第二王子妃シャラが謝意を口にすると、皇帝と皇妃も頷いた。
皇族全員、皇妃に皇帝までもが、カダージュの功績であると認めていることに、会場は静まり返っていた。
第四皇子は、皇族から見放されているのではなかったのか?
これは、一体、どういうことなのだ。
多くの者が動揺する中、皇帝が口を開く。
「因みに以前、カダージュの成人の儀の前に終わらせたと言っていた二枚の書類だが、ティシモ嬢は覚えているか」
もちろん覚えている。メリオラーザは、是を口にする。それに皇帝は頷くと、続けた。
「一枚の造船に関する方は、来年の春に試作が完成する。問題がなければ、今までの半分の時間で航行が可能となり、燃料も従来の三分の一で済む」
「もう一枚の発電に関する方は、試運転が問題なく行われている。一月後には次の段階に行く。このまま順調にいけば、三年以内には国内すべてに電気が通る」
皇帝とレヴェージュの言葉に、誰もが言葉を失った。
そう。メリオラーザとのデートのために完成させた書類。あの時、メリオラーザが席を外していたのは三時間ほど。たったそれだけの時間で、カダージュはその二つの設計を完成させたのだ。メリオラーザが呆れた息をついたのは、二枚しか終わらせられなかったのか、ではない。二枚も終わらせたのか、というその底知れぬ頭脳故であった。
カダージュの机の上の書類は決して多くない。だがそれは、すべてカダージュであれば出来る仕事。決して急がない、気が向いたときにやってくれればありがたい。そう言う書類が、カダージュの机には置かれるのだ。
「個別に領地の問題が解決したのは何故だと思います?」
セダージュが貴族たちに問う。メリオラーザを嗤った者たちは、顔を青くする。これまでの話からすると、頭に浮かんだ答えで間違いないだろう。
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