あなたは一体誰ですか?

らがまふぃん

文字の大きさ
10 / 20

10.あなたは一体誰ですか?

しおりを挟む
 「ならば僕は、僕以外のものからリオを守ろう」

 カダージュは、鬱陶しいとばかりに、その顔を覆う髪をかき上げた。

 誰もが息をすることを忘れた。

 初めて衆目に晒されたカダージュ。
 淡い水色の髪が一房顔に落ち、それが色気を感じさせる。皇家の証である金の瞳は、恐ろしいほど怜悧であった。

 なんと美しい。

 誰もが目を離せなかった。

 「リオも友人と話をしたいだろうと離れたのに。おまえたちのような者にリオの時間を与えてしまうなんて」

 苦々しく溜め息をき、冷淡な光を帯びた皇家色の目が、子息子女たちを見下ろす。

 「おまえの領地の害虫被害がなくなったのは何故だと思う」

 突然のカダージュの言葉に、メリオラーザを囲んでいた一人の子女が肩を揺らす。痛いほど刺さる視線に、青ざめて何も言えない。

 いつも何を言っているのかわからないほど聞き取れない声は、凜として、人を従わせる力を帯びている。

 「おまえの領地の治水が成功したのは何故だと思う」

 また別の子息がカダージュに見据えられ、肩を揺らす。

 「おまえの領地の特産物である綿花の生産量が増えたのは何故だと思う」

 的確に、人物とその問題であった事象を述べていくことに、最早声が出ない。顔合わせらしい事などしたことがない。陰気で怠惰な皇子が、一人一人を認識し、その領地まで把握しているなんて思わない。

 これは、この人は一体、誰だ。

 自分たちの知るカダージュではない。怠惰で愚かで何も出来ない、皇族に見放された存在ではなかったか。

 「もっと言おうか。この国のインフラが飛躍的に整ったのは何故だ。大きな災害が起こっても飢饉に見舞われないのは何故だ。他国の物資が手に入りやすくなったのは。流行病が蔓延しないのは」

 近年次々に様々な問題が解消されていっていた。その恩恵は、計り知れない。それをもたらしてくれたのは、もしや。

 「すべてここにいるリオのお陰だ」
 「違いますわっ」

 恐ろしい発言に、メリオラーザは即座に否定する。

 しかし。

 「違わないんだよ、ティシモ嬢」

 第一皇子レヴェージュが言った。

 最も皇太子に近いと言われる、優秀すぎるほど優秀なレヴェージュ。そのレヴェージュが、カダージュの発言を否定しない。

 「そうですわ。メリオラーザ様、あなたがいなかったら、カダージュはこれ程早く動かなかったでしょう」

 とは、元第二皇女、現公爵夫人フィラの言葉だ。

 「そうそう。いつかは重い腰を上げてはくれただろうけどね」

 第三皇子ラウェージュも続く。

 「それでもティシモ嬢に出会わなければ、きっとカダージュの言った内のどれか一つか二つくらいが精々だったと思いますね」

 第二皇子セダージュまでそんなことを口にする。

 「本当に、メリオラーザ様には感謝しかございませんのよ」

 元第一皇女、現隣国第二王子妃シャラが謝意を口にすると、皇帝と皇妃も頷いた。
 皇族全員、皇妃に皇帝までもが、カダージュの功績であると認めていることに、会場は静まり返っていた。

 第四皇子は、皇族から見放されているのではなかったのか?
 これは、一体、どういうことなのだ。

 多くの者が動揺する中、皇帝が口を開く。

 「因みに以前、カダージュの成人の儀の前に終わらせたと言っていた二枚の書類だが、ティシモ嬢は覚えているか」

 もちろん覚えている。メリオラーザは、是を口にする。それに皇帝は頷くと、続けた。

 「一枚の造船に関する方は、来年の春に試作が完成する。問題がなければ、今までの半分の時間で航行が可能となり、燃料も従来の三分の一で済む」
 「もう一枚の発電に関する方は、試運転が問題なく行われている。一月後には次の段階に行く。このまま順調にいけば、三年以内には国内すべてに電気が通る」

 皇帝とレヴェージュの言葉に、誰もが言葉を失った。

 そう。メリオラーザとのデートのために完成させた書類。あの時、メリオラーザが席を外していたのは三時間ほど。たったそれだけの時間で、カダージュはその二つの設計を完成させたのだ。メリオラーザが呆れた息をついたのは、二枚しか終わらせられなかったのか、ではない。二枚も終わらせたのか、というその底知れぬ頭脳故であった。

 カダージュの机の上の書類は決して多くない。だがそれは、すべてカダージュであれば出来る仕事。決して急がない、気が向いたときにやってくれればありがたい。そう言う書類が、カダージュの机には置かれるのだ。

 「個別に領地の問題が解決したのは何故だと思います?」

 セダージュが貴族たちに問う。メリオラーザを嗤った者たちは、顔を青くする。これまでの話からすると、頭に浮かんだ答えで間違いないだろう。




*つづく*
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。

月白ヤトヒコ
恋愛
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。 まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが…… 「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」 と、王太子が宣いました。 「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」 「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」 「ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」 設定はふわっと。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

疑惑のタッセル

翠月 瑠々奈
恋愛
今、未婚の貴族の令嬢・令息の中で、王国の騎士たちにタッセルを渡すことが流行っていた。 目当ての相手に渡すタッセル。「房飾り」とも呼ばれ、糸や紐を束ねて作られた装飾品。様々な色やデザインで形作られている。 それは、騎士団炎の隊の隊長であるフリージアの剣にもついていた。 でもそれは──?

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

処理中です...