7 / 20
7.ティシモ家の覚悟
しおりを挟む
“第四皇子との婚約を”
要約すると、そういうことだった。
「なんで?なんでカダージュなの?ラーザはラウェージュの交流会だよね、行ったの」
「候補ですらないですよ。婚約しろと書いてある」
メリオラーザの父も兄も混乱中。母は現実から目を背けるように、一心不乱に刺繍を始めた。
「これならばラウェージュ殿下の候補の方がマシだったではないか」
候補であれば、褒められたことではないが、外されるような行動をとれば良いだけだった。
「カダージュ殿下の婚約者とは」
皇家の打診を断ることなど出来ない。しかし、相手が問題だ。皇家に嫁ぐことに賛成しかねるが、どうすることも出来ない。だが、カダージュはダメだ。皇家の意向に反するなど、貴族籍を剥奪されても仕方のないこと。それを覚悟の上で断ろうとするくらい、カダージュへの印象は悪かった。
怠惰。
まだ十一歳であるにもかかわらず、誰もがそう口にするほどのダメッぷりが、貴族の間の共通認識だ。その怠惰さを自分の目で見たわけではないが、その噂を肯定するように、カダージュの姿を見ることはない。部屋に籠もって出て来ないのだ。それだけで、噂通りだと判断してしまうのは仕方のないことと言えた。そんな皇子を支えるなんて、苦労が目に見えている。
「断ろう」
貴族ではいられなくなるだろう。それでも、娘を犠牲にしてまで守りたいと思えるものではなかった。
「お待ちくださいませ、お父様」
メリオラーザが待ったをかけた。
「ラーザ?」
「わたくしのために貴族籍をお捨てになる覚悟に、感謝申し上げます」
深々と家族に頭を下げる。
「明日、殿下がお見えになるとのこと」
そう。手紙には、カダージュ訪問の旨も記されていた。
「噂通りの方なのか、殿下とお会いしてからご判断なさってもよろしいのではないかと」
「だが、そちらの方が不敬に当たる」
会って、その為人を見てからの判断だ。皇家にダメ出しをするようなものになる。
「一週間後にお返事を受け取りにいらっしゃるのですよね。どちらにせよ、お返事はお会いしてからではないですか」
断るなら会おうが会うまいが、返事のタイミング的に不敬は免れないのだから、そこはもう気にしなくてもいいのでは。そう言いたげなメリオラーザに、家族は苦笑した。
「そうね。不敬の一つや二つ、無茶振りの皇家に比べればたいしたことないわ。やりたいことやって皇家に一矢報いてやりましょう」
伯爵夫人の言葉は外に聞かれたら大変なことだが、家族は、その通りだと笑った。
しかし、この時メリオラーザは覚悟を決めていた。家族を犠牲にしてまで、皇家に嫁ぎたくないわけではない。みんな、犠牲だなんて思わないだろう。本当に貴族をしていることが不思議なくらい、貴族に執着のない家族。けれど、そんな家族だからこそ、領民たちはこれほど豊かで笑顔に溢れているのだ。
恐ろしく怠惰だという第四皇子カダージュ。皇子妃として支えるのは、並大抵のことではないだろう。メリオラーザは優秀ではない。可もなく不可もない、ごく普通の娘である。皇家に望まれる水準に達するには、人の三倍も五倍も努力しなくてはならないだろう。さらには、そんな皇子のフォローまで。
けれど、メリオラーザは思う。
出来なくても仕方ないわ。そんなわたくしを望んだ皇家が、なんとかなさるでしょう。
努力はする。出来なかったらごめんあそばせ。そんな、楽観的な考えだった。
*つづく*
要約すると、そういうことだった。
「なんで?なんでカダージュなの?ラーザはラウェージュの交流会だよね、行ったの」
「候補ですらないですよ。婚約しろと書いてある」
メリオラーザの父も兄も混乱中。母は現実から目を背けるように、一心不乱に刺繍を始めた。
「これならばラウェージュ殿下の候補の方がマシだったではないか」
候補であれば、褒められたことではないが、外されるような行動をとれば良いだけだった。
「カダージュ殿下の婚約者とは」
皇家の打診を断ることなど出来ない。しかし、相手が問題だ。皇家に嫁ぐことに賛成しかねるが、どうすることも出来ない。だが、カダージュはダメだ。皇家の意向に反するなど、貴族籍を剥奪されても仕方のないこと。それを覚悟の上で断ろうとするくらい、カダージュへの印象は悪かった。
怠惰。
まだ十一歳であるにもかかわらず、誰もがそう口にするほどのダメッぷりが、貴族の間の共通認識だ。その怠惰さを自分の目で見たわけではないが、その噂を肯定するように、カダージュの姿を見ることはない。部屋に籠もって出て来ないのだ。それだけで、噂通りだと判断してしまうのは仕方のないことと言えた。そんな皇子を支えるなんて、苦労が目に見えている。
「断ろう」
貴族ではいられなくなるだろう。それでも、娘を犠牲にしてまで守りたいと思えるものではなかった。
「お待ちくださいませ、お父様」
メリオラーザが待ったをかけた。
「ラーザ?」
「わたくしのために貴族籍をお捨てになる覚悟に、感謝申し上げます」
深々と家族に頭を下げる。
「明日、殿下がお見えになるとのこと」
そう。手紙には、カダージュ訪問の旨も記されていた。
「噂通りの方なのか、殿下とお会いしてからご判断なさってもよろしいのではないかと」
「だが、そちらの方が不敬に当たる」
会って、その為人を見てからの判断だ。皇家にダメ出しをするようなものになる。
「一週間後にお返事を受け取りにいらっしゃるのですよね。どちらにせよ、お返事はお会いしてからではないですか」
断るなら会おうが会うまいが、返事のタイミング的に不敬は免れないのだから、そこはもう気にしなくてもいいのでは。そう言いたげなメリオラーザに、家族は苦笑した。
「そうね。不敬の一つや二つ、無茶振りの皇家に比べればたいしたことないわ。やりたいことやって皇家に一矢報いてやりましょう」
伯爵夫人の言葉は外に聞かれたら大変なことだが、家族は、その通りだと笑った。
しかし、この時メリオラーザは覚悟を決めていた。家族を犠牲にしてまで、皇家に嫁ぎたくないわけではない。みんな、犠牲だなんて思わないだろう。本当に貴族をしていることが不思議なくらい、貴族に執着のない家族。けれど、そんな家族だからこそ、領民たちはこれほど豊かで笑顔に溢れているのだ。
恐ろしく怠惰だという第四皇子カダージュ。皇子妃として支えるのは、並大抵のことではないだろう。メリオラーザは優秀ではない。可もなく不可もない、ごく普通の娘である。皇家に望まれる水準に達するには、人の三倍も五倍も努力しなくてはならないだろう。さらには、そんな皇子のフォローまで。
けれど、メリオラーザは思う。
出来なくても仕方ないわ。そんなわたくしを望んだ皇家が、なんとかなさるでしょう。
努力はする。出来なかったらごめんあそばせ。そんな、楽観的な考えだった。
*つづく*
100
あなたにおすすめの小説
老け顔ですが?何かあります?
宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。
でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。
――私はきっと、“普通”じゃいられない。
5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。
周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。
努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。
年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。
これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。
月白ヤトヒコ
恋愛
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。
まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが……
「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」
と、王太子が宣いました。
「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」
「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」
「ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」
設定はふわっと。
ジルの身の丈
ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。
身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。
ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。
同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。
そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で───
※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。
疑惑のタッセル
翠月 瑠々奈
恋愛
今、未婚の貴族の令嬢・令息の中で、王国の騎士たちにタッセルを渡すことが流行っていた。
目当ての相手に渡すタッセル。「房飾り」とも呼ばれ、糸や紐を束ねて作られた装飾品。様々な色やデザインで形作られている。
それは、騎士団炎の隊の隊長であるフリージアの剣にもついていた。
でもそれは──?
ある公爵令嬢の死に様
鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。
まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。
だが、彼女は言った。
「私は、死にたくないの。
──悪いけど、付き合ってもらうわよ」
かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。
生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら
自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる